今日のハルトは一味違う(多分)
ハルト(自称喋りのプロ)は昨夜の花バァとの会話で、ナナちゃんを助けたいと彼なりに思っていた。
海キラリの店先で、品物の陳列をしているナナちゃんに声をかける。
「うぃーす、ナナちゃん。元気してるー?」
手を止めて、目線を向けるナナちゃん。
「ハルト君…んー、あまり元気じゃない、、かも」少し間が開く。
「そっかぁ…。ナナちゃん…俺ってさ、結構馬鹿じゃん?だからさ、周りに迷惑かけちゃう時あるのね。それでちょーっとだけ落ち込んだりさ。」
「うん」頷くナナちゃん。
(どうしたんだろ?…ハルト君)
「うまく言えないんだけど、ババァやナナちゃんと話すといつも楽しいだよね!!仲間って言うか、そんな感じ!」
「わたしも、、ハルト君と話すと楽しいよ?」
ナナちゃん少しだけ笑みが戻る。
「何が言いたいかって言うとさ、仲間が元気ない時に力になりたいって思うんだよね!だから、ナナちゃんが困ってる事あるなら、頼って欲しいかなー?…ってさ!そんだけ!」
少し照れ臭くさそうに、駄菓子屋に戻ろうとするハルトを呼び止める。
「あっ、、ハルト君、、今日の夜…おばぁちゃんと一緒に来て欲しい所があるんだけど、、どうかな?」ハルトなりの気づかいが通じた。
「オッケー!ババァにも言っとくよ!」
小さくガッツポーズする。ハルトは少しだけ成長した。
──そんな日の夜、商店街の裏路地を3人が歩く。
ナナちゃんの案内でたどり着いたのは、古びた倉庫のような建物の裏手だった。
「このへん……前にトレーラーが何度も停まってたの。荷物、降ろしてたみたいで」
ナナちゃんが申し訳なさそうに口を開く。
「夜中の荷降ろしってのは、だいたいロクなもんじゃないのよ」
花バァが口をすぼめ、地面を睨むように見渡す。
「……ん? ちょい待ち」
ハルトがその声に振り返ると、花バァはしゃがみ込んで地面を指でなぞっていた。
「見てみな、これ……床に、キラキラ光るもんが混じってる」
懐中電灯の明かりに、細かな粒が反射して浮かび上がる。
「うわ、これ……ラメじゃね?」
ハルトがスマホを取り出して撮影を始める。
「…違うね。これは“星光石”の粉末だ」
花バァの声が低くなる。
「昔、偽石で一悶着あったときに見たことあるのよ。表面にだけ光沢を出すために、こんな粉を混ぜて固めるのさ」
「偽物ってこと?………わたし、知らなかった……本当に、知らなかったの」
ナナちゃんが唇を噛む。
「この粉、工場から回ってきたって言ってたけど……でも港の方にトレーラーが行ってたのも見た」
「港、ねぇ……」
花バァが立ち上がり、腕を組む。
「最近行ったよ。あの辺、警備緩くなってんのよ。観光資材の名目で出入り自由にしてるって話。つまり…あそこが流通の中継所か」
「ナナちゃん、この粉……店の商品に混ざってたりした?」
ハルトの問いに、ナナはゆっくりと頷く。
「何個か……最近入った分だけ。でも、あたしの手作りには使ってないよ、、、絶対に!」
少し黒いオーラが揺らぐ。
「ナナちゃん、信じてるってー!」
ハルトが笑って言う。
「そんで!この粉……SNSで広めたら、意外とヤバさ伝わるかも。何かはわからないけど、“怪しい粉”ってだけでも」
「証拠として押さえとこうかねぇ」
花バァが小さな袋に粉を少しだけ詰め、ポケットにしまう。
ナナちゃんの肩がふるふると震えていた。
「わたし、もっと早く気づくべきだった。…ごめんなさい」
「バカ言ってんじゃないよ」
花バァが静かに言う。
(黒に少しだけ"淡い緑"が混じってるねぇ。迷ってるけど、少しだけ受け入れてる証拠さね。)
「謝るのは、ぜーんぶ終わってからでいいんだよ。今は、動くときだ」
三人の影が、月明かりの下で一つに重なる。
どこかで猫の鳴き声が響いた。