裏路地からの帰り。
駄菓子屋・うずまき商店の奥の座敷。
オレンジ色の蛍光灯の下、ハルトとナナちゃんはちゃぶ台の前に座っていた。
「俺、ぜってーこのままじゃ駄目だって思う!……LIVE配信しようと思う!」
脳裏に、さっきのナナちゃんの言葉が浮かぶ。
(あたしの手作りには使ってないよ……絶対に!)
花バァはお茶をすすりながら、二人を見つめる。
「いつもバズるだのパズルだの、何だか分からんけど……お前にしかできないんだったら、やってみな、ハルト」
口調は軽いが、その目はあたたかい。
少しだけ背中が伸びたハルトに、花バァは静かにうれしさを感じていた。
(まあ、学校もバイトもサボってるが……たまには役に立つか)
そのとき、ナナちゃんが口を開いた。
「……私も、配信……出ていいかな?」
ハルトは少し驚いた顔をしたが、すぐに笑顔になった。
「いいね!ナナちゃんも出よう!めっちゃバズらせよう!」
ナナは一度深く息を吸い、花バァの顔をそっと見る。
「ちゃんと、話すね」
スマホを手に取り、配信アプリを操作するハルト。
画面が切り替わり、LIVEが始まった。
「うぅーす!こんばんは!ハルトです!
今日は、最近流行ってるキラキラアクセサリーの件で、やべぇの見つけたかもなんで、配信してまーす!」
勢いよく始まった配信。
ちゃぶ台の向こうで、花バァは湯呑み片手に見守っている。
「でさ、あのアクセ。最近キラキラしなくなったって噂あるじゃん?
最初は俺も、またネットのガセでしょ〜って思ってたんだけど、
今日、商店街の裏に行ったら、床がやばかったんよ!」
ハルトは熱を帯びた目で、画面を見つめた。
「なんかキラキラした粉みたいなのが落ちてて、しかも、変な匂いもして……。
アレ、本物じゃないって。俺、思ったんだ。
これって、もしかして偽物が出回ってんじゃね?って!」
「みんな、どう思う?最近、アクセとかで変な噂とか聞いてない?」
コメント欄が次々に流れ始める。
《港の近くだけど、最近夜にトレーラー走ってるの見たよ。関係ある?》
《ハルトめっちゃ坊主じゃん笑》
《この前、友達が買ったブレスレット変って言ってたー》
《俺おんなじパーカー持ってる。うけるw》
《さっさと家帰れやw》
《星光石ってそんな安いもんじゃないよね?》
リスナーの反応は様々だが、確実に“波”は生まれている。
「今日はさ、海キラリの店員のナナちゃんが、話したいことあるって言ってたから、一旦代わるね!寂しがんなよ〜!」
スマホの前で、ナナが一歩前に出る。
「あっ、、あの……こんばんは。海キラリでアクセサリーを作ってる、ナナといいます」
「今日、話したいのは“まだはっきりしないこと”なんです。でも、気になって仕方ないから、聞いてほしくて…」
「ハルト君が言ってた粉、粉末状の鉱石で、“星光石”みたいなもの、かもしれません。でも……わたし自身、まだ確かなことは言えません」
「わたしも、使ってた一部の商品にこれが混ざってた可能性があるんです。でも、手作りのものには、絶対に混ぜてない。それだけは…信じてほしいです」
ペコリと頭を下げ、ハルトとアイコンタクトをし、バトンタッチ。
「お喋りブルー!ハルトに代わりました!ナナちゃんありがとね!みんなも、聞いてくれてありがとう!他に情報あったら、DM飛ばしてね!拡散よろ!」
盛り上がるコメント欄
《ナナちゃんめっちゃ可愛い!》
《ハルトそこ代われ》
《ナナちゃん信じるよ!》
《なんで、こんな粉が出回ってるんだ!》
《見た目で分からないの難くね?》
《ブルーって何?笑》
ナナちゃんの気持ちが通じたかは分からないが、噂は信憑性を持って広がっていくはず。
ハルトは手応えを感じ、配信を終えた。
「終わったー!今日めっちゃ盛り上がったくね!?これで噂もっと広がるっしょ!目指せ1万回再生!」
「私、、ちゃんと言えた、、かな?」
花バァはそっと湯呑みを置き、2人をみる。
(おや、2人ともキラキラしてるじゃないか。これがいい方向に行けばいいねぇ)
「正義のライブ配信」は、静かに波紋を広げ始めた。