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第8色 おでんと作戦会議

花バァ、ハルト、ナナの三人は、昨日のLIVE配信の打ち上げと今後の方針について話すために屋台に来ていた。


―おでん屋『がんもだんも』

花バァの昔なじみの、おやじがやっている小さな屋台。暖簾はすこし擦り切れているが、湯気の立つ大鍋が、町の懐かしさを漂わせていた。


「花ちゃん、今日は若ぇの2人も連れてきたんだな。まぁ、ゆっくりしていけや」


おやじはそう言って、3人の前にサービスのがんもどきをそっと皿にのせる。


ナナちゃんは慣れていない様子で軽くお辞儀し、ハルトは「やべぇ、マジ旨そう」と言いながらスマホでパシャパシャと写真を撮っている。


「ありがとね、おやじ。今日は作戦会議なんだ」

花バァは大根をほぐしながら、静かに目線をあげた。


「へぇ、なんの作戦会議なんだ?」


「最近、町の様子がおかしい気がしてね。このハルトとナナちゃんとで、調べてるんだ」


おやじは少し眉をひそめ、ふと思い出したように顔をあげた。


「様子ねぇ……確か、うちの常連が言ってたな。見慣れない連中が、最近やたら町に増えてるって。あと、港の方でも夜中にうろうろしてるやつらがいるって話も聞いたぞ。その件か?」


「……その件だ。なんやらキナ臭くてねぇ。なんか分かったら教えてくれないかい?」


「花ちゃんの頼みなら断らねぇさ。任せときな」

そう言って、おやじは鍋に向き直り、黙々と仕込みを始めた。


その横で、ハルトが興奮気味に身を乗り出す。


「俺、もう一回配信LIVEやりたい!昨日のやつ、けっこう盛り上がったし!このまま有名インフルエンサーまっしぐらっていうか──」


パンッ!

ハルトの頭に花バァのガラケーが軽くヒットする。


「バカガキ。あんたの“いいね”の数より、この町の笑顔のほうが大事なんだよ」

「キラキラってのはな、目立つことじゃなくて、心に火がつくもんなんだよ」


ハルトはちょっと照れたように頬をかきながら、小声で言う。


「……違うって。俺だけが目立つんじゃなくて“町ごと本物大作戦”としてやりたいんだ」


ナナが驚いたように顔を向ける。


「“町ごと”?」


「うん。偽物で町を飾るんじゃなくてさ、“町そのもの”を本物でキラキラにしてやるって話」

「たとえば、商店街の職人さんとか、手づくりの物とか、そーゆーのをSNSで発信してくの。ナナちゃんのアクセだってそう」


ナナちゃんは少し黙り込む。湯気の向こうで、うっすら表情が陰る。


「私のは……まだちょっと自信ないけど。でも、また作りたいなって思ってる。本物で勝負できる日が来るなら……」


花バァがそっと笑う。


「その日が来るように、うちらで道つくっていくんだよ。バァさんの知恵と、あんたらの若さでさ」


ナナちゃんはうなずいた。でも、胸の奥に抱えた秘密までは、まだ口に出せなかった。

過去のことも、“保証人”のことも──もう少しだけ、自分の中で整理がつくまで。


ナナちゃんのオーラを見る花バァは何か気づいてようだが、何も言わない。

がんもの出汁がじゅんわりとしみる、そんな夜だった。

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