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第11色 ニセモノフェスティバル!??

───日曜の晴れた昼下がり。

彩海商店街の掲示板に、やたらと目立つポスターが貼られていた。


《第一回!星光石フェスティバル開催☆彡》

主催:彩海市観光協会

日時:来週 土曜日

場所:彩海港埠頭特設会場

内容:アクセサリー販売、偽物鑑定ショー、町のキラキラ発信講座など──

※屋台や商店街の商品販売等、新規での参加は観光協会まで一度ご連絡を!


《「偽物も演出でキラキラに☆」そんな体験、あなたもしてみませんか?》


「うわぁ、このタイミングでフェスって…」

ハルトはスマホ片手に、呆れ声を漏らした。


告知ページのアクセス数は既に跳ね上がり、リポストやコメントも数百件を超えていた。


≪星光石って、どうせ偽物なんでしょ?≫

≪めっちゃ楽しみー!彩海市ってあんまりイベントやってなかったよね≫

≪偽物鑑定ショーって、何だろう≫

≪あの、ナナって人も出るのかな?≫

≪逆に偽物アピールってwwやばすぎw≫


賛否入り混じるコメントの波の中には、確かに“期待”が混じっていた。


ハルトは走った。

勢いよく、うずまき商店に滑り込む。


「ババァ! あれ見た!? 掲示板のポスター!」


「まったく騒々しいねぇ……見たよ。いよいよ大石が動いたねぇ」


奥のちゃぶ台でお茶をすする花バァが、落ち着いた口調で答える。


すると、向かいの道からナナちゃんがやって来た。風に揺れるロングスカートが、陽に透けている。


「おばぁちゃん、ハルト君……私、あのフェスに出ようと思う!」


その声に、2人は同時に顔を上げた。ナナの瞳は澄んでいて、けれど揺れていない。


「決まったか、ナナちゃんや」


「うん。逃げるの、やめたの。……“本物”って何なのか、誰のために作るものなのか。ちょっとだけ、自分の答えが見えた気がして」


「そうかい。ならバァさんはとことん応援するよ」

花バァは湯呑みの縁をなぞりながら、にっこりと微笑んだ。


「炎上したまま、あのフェスに出るのは怖いけど……そこに“本物”を置いてこそ、本気で戦える気がするんだ」


───


そのころ、彩海商店街の空気はすっかり変わっていた。


「フェス!? なになに、星光石ってキラキラするやつだべ?」


「よっしゃー、うちも屋台で焼き鳥出すか!」


「わしんとこもラムネ用意するよ〜。イベントは稼ぎ時だぁ」


老舗の金物屋も、八百屋も、久々の“お祭りムード”に湧き立っていた。


ただその中で、年配の女性客がひとりぽつりとつぶやいた。


「なんだかねぇ、キラキラばっかりが本物ってわけじゃないのにね……」


───


「……やっぱり、おかしいよな」


ハルトは、スマホの画面をにらみつけながら呟いた。


投稿された告知動画の音声や背景を解析し、画像の投稿日時を逆算する。

──どう見ても、イベントは数日前から仕込まれていた。


「この“偽物鑑定ショー”って……演出次第で偽物を本物に仕立てるつもりじゃね?」


「情報操作……ってことかい?」


「そう。ネットの空気さえ変えちまえば、“本物”なんか意味ねぇってやつ」


その隣で、花バァはひとり、古ぼけたガラケーを開いていた。

──パカン。


「……こいつの出番が来るかもしれないねぇ」


───


一方そのころ、彩海港の仮設テント裏。


鈍く光る金の指輪をいじりながら、大石はにやついていた。


「完璧だ。SNSはもう話題で埋まってる。“真偽なんてどうでもいい”って空気を作れりゃ、こっちのもんよ」


スタッフがこっそり耳打ちする。


「ナナさん、出るそうですよ。さっき事務所に連絡がありました。切り抜き動画にも屈しなかったみたいで……」


「ほぉ……それもまた、利用できるな。“偽物すら本物に見せる”演出、たっぷりしてやろうじゃないか」


背後には、箱詰めされた粉末状の石たち。

まばゆいパッケージに包まれているが、全部──偽物(黒タグ)だった。


───


夜。ナナの部屋。

作業机の上に、並べられた小さなアクセサリーパーツたち。


黙々と手を動かすナナちゃんの指先に、迷いはなかった。


ふと手にしたUVライトを照らすと──


机の隅に使わない様に置いてあった、裏路地で集めた星光石の小瓶が、ぼんやりと紫に光った。


「……?これ、ちょっと変……」


別の星光石の小瓶に当てても光らない。


(まさか、これが偽物の見分けかた……?)


胸がざわつく。でも、手は止まらなかった。

ナナは、信じてくれた2人の顔を思い出す。


「……大丈夫。私、やれるよ」


その掌の中で、小さな“本物”の輝きが、そっと息を吹き返した。


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