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第12色 ガラケー立つ


「……これを聞いておくれ」


駄菓子屋うずまき商店の奥、畳の部屋に3人が座っていた。ちゃぶ台の上に置かれたのは、花バァの年季入りガラケー。

その表面は傷だらけ(主にハルトのせい)で、ストラップのくまモンも色が剥げている。でも、今は堂々と“主役”だった。


「……えっと、録音ってどうやって再生すんの? これボタン多すぎない?」

「うるさいよハルト。黙って聞きな」


カチッ。


ガラケーから、ガサリとした風音の後に、男の声が響いた。


「黒タグ分は裏に隠しておけ。表に出すな。あれは観光客用じゃねえ」

「了解ッス。パッケージ変えりゃバレませんって」


「……! これ、まさか……」ナナちゃんが目を見開く。


「トレーラーハウスの裏だよ。港の倉庫街で拾った。録音は短いけど、言い逃れは難しいだろうねぇ」


ハルトの目がギラリと光る。いつものだるい感じはどこへやら、スマホのメモアプリを開いていた。


「これって、大石の声っぽくね? 俺、観光協会のTikTok見てるから分かるけど、あの“ねえ”のクセ、完全一致」


「そこまで確認してんのかい…悪い意味で、気持ち悪いねぇ」花バァがため息をつく。


ハルトが嬉しそうに頭をかく。


「褒めてねぇってんだい。ったく」


 ナナちゃんはうつむきながら、そっと手を組んだ。

「あのとき……私、誰かに見られてた気がしたんだ。でも、まさかこんな……」

あの日の夜を思い出し、声が震えていた。オーラはピンクと灰色が揺れていた。


「あんたが巻き込まれてる最中だったからね、店を見張ってたんだろうさ」

 「そして、今はあたしらだけじゃない。町全体が巻き込まれて、じわじわ濁ってきてる」

花バァはポンとガラケーを叩く。


「だから、この証拠は出すときに出さないとね。炎上どころじゃ済まないよ」


「…あっ実は、作業中に偶然気づいた事があるんだ」ナナちゃんが続ける。


「UVライトでアクセサリーを硬化させた時、近くにあった偽物の星光石が妙に光ったの。蛍光反応っていうか……」


ハルトが目を丸くした。


「それ、フェスで使えるんじゃね?」


花バァも目を細める。


「なるほどねぇ。それは、偽物を見分ける秘密兵器になる。だからこそ、大石たちは表に出すなって指示してたんだろう」


3人の間に決意が満ちる。



「つまり──俺ら、ここから仕掛けられるってこと?」

ハルトのオーラがギラギラ青に点滅する。いつもの軽口じゃなく、芯のある目だった。


「まずは、トレーラーに再突入だ」

花バァが立ち上がる。ガラケーを胸ポケットに戻しながら、サングラスをピタリと掛け直す。


「大石のギラギラにゃ、あたしらのキラキラで対抗しなきゃ。さ、バァさんたちの反撃、始めるよ」


その夜、駄菓子屋の窓の外には、商店街の明かりがぽつぽつと灯り始めていた。


焼き鳥屋の店先では、早くも常連客たちが集まり、フェスに向けての期待と不安が入り混じった声が飛び交っている。


「おう、今年は星光石のフェスだってな。楽しみだが、あの“偽物鑑定ショー”ってのはちょっと……」


「まあまあ、賑やかになればそれでいいんだべよ。商売繁盛、よろしく頼むわ!」


八百屋の若旦那も、店のシャッターを半分開けて外の様子を伺っていた。


ざわつく空気は、祭り本番に向けてさらに大きくなっていくのを感じながらも、誰もがその結末をはっきりとは見通せなかった。


「よし……いよいよだな」


花バァが小さく呟くと、ナナちゃんとハルトも窓の外を見つめた。


水面に月が揺る彩海の夜は、まだ何も知らないように静かだった。


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