「……これを聞いておくれ」
駄菓子屋うずまき商店の奥、畳の部屋に3人が座っていた。ちゃぶ台の上に置かれたのは、花バァの年季入りガラケー。
その表面は傷だらけ(主にハルトのせい)で、ストラップのくまモンも色が剥げている。でも、今は堂々と“主役”だった。
「……えっと、録音ってどうやって再生すんの? これボタン多すぎない?」
「うるさいよハルト。黙って聞きな」
カチッ。
ガラケーから、ガサリとした風音の後に、男の声が響いた。
「黒タグ分は裏に隠しておけ。表に出すな。あれは観光客用じゃねえ」
「了解ッス。パッケージ変えりゃバレませんって」
「……! これ、まさか……」ナナちゃんが目を見開く。
「トレーラーハウスの裏だよ。港の倉庫街で拾った。録音は短いけど、言い逃れは難しいだろうねぇ」
ハルトの目がギラリと光る。いつものだるい感じはどこへやら、スマホのメモアプリを開いていた。
「これって、大石の声っぽくね? 俺、観光協会のTikTok見てるから分かるけど、あの“ねえ”のクセ、完全一致」
「そこまで確認してんのかい…悪い意味で、気持ち悪いねぇ」花バァがため息をつく。
ハルトが嬉しそうに頭をかく。
「褒めてねぇってんだい。ったく」
ナナちゃんはうつむきながら、そっと手を組んだ。
「あのとき……私、誰かに見られてた気がしたんだ。でも、まさかこんな……」
あの日の夜を思い出し、声が震えていた。オーラはピンクと灰色が揺れていた。
「あんたが巻き込まれてる最中だったからね、店を見張ってたんだろうさ」
「そして、今はあたしらだけじゃない。町全体が巻き込まれて、じわじわ濁ってきてる」
花バァはポンとガラケーを叩く。
「だから、この証拠は出すときに出さないとね。炎上どころじゃ済まないよ」
「…あっ実は、作業中に偶然気づいた事があるんだ」ナナちゃんが続ける。
「UVライトでアクセサリーを硬化させた時、近くにあった偽物の星光石が妙に光ったの。蛍光反応っていうか……」
ハルトが目を丸くした。
「それ、フェスで使えるんじゃね?」
花バァも目を細める。
「なるほどねぇ。それは、偽物を見分ける秘密兵器になる。だからこそ、大石たちは表に出すなって指示してたんだろう」
3人の間に決意が満ちる。
「つまり──俺ら、ここから仕掛けられるってこと?」
ハルトのオーラがギラギラ青に点滅する。いつもの軽口じゃなく、芯のある目だった。
「まずは、トレーラーに再突入だ」
花バァが立ち上がる。ガラケーを胸ポケットに戻しながら、サングラスをピタリと掛け直す。
「大石のギラギラにゃ、あたしらのキラキラで対抗しなきゃ。さ、バァさんたちの反撃、始めるよ」
その夜、駄菓子屋の窓の外には、商店街の明かりがぽつぽつと灯り始めていた。
焼き鳥屋の店先では、早くも常連客たちが集まり、フェスに向けての期待と不安が入り混じった声が飛び交っている。
「おう、今年は星光石のフェスだってな。楽しみだが、あの“偽物鑑定ショー”ってのはちょっと……」
「まあまあ、賑やかになればそれでいいんだべよ。商売繁盛、よろしく頼むわ!」
八百屋の若旦那も、店のシャッターを半分開けて外の様子を伺っていた。
ざわつく空気は、祭り本番に向けてさらに大きくなっていくのを感じながらも、誰もがその結末をはっきりとは見通せなかった。
「よし……いよいよだな」
花バァが小さく呟くと、ナナちゃんとハルトも窓の外を見つめた。
水面に月が揺る彩海の夜は、まだ何も知らないように静かだった。