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第14色  潜入!トレーラー再び

港の風は、夜になるとぐっと冷たくなる。


その夜、月は雲の切れ間に覗き、倉庫街のトレーラーハウスを鈍く照らしていた。昼間の喧騒が嘘のように、辺りはしんと静まり返っている。


「ここ、昼よりずっと怪しいね……」


ナナちゃんが囁くように言った。緊張で細く震えている。ハルトはサングラスを額に上げ、スマホの画面をちらり。


「人の気配、いまんとこ無し。監視カメラも旧式っぽい。いける、たぶん」


「たぶん、ねぇ……」

花バァは鼻で笑いながら、手にガラケーを握っていた。

録音機能はスタンバイ済み。


3人はフェンスの隙間を抜け、物音を立てないように足を進めていく。トレーラーハウスの裏手──あの録音が記録された場所だ。


「ここだよ、あの音の主。風の音と砂利の感じ、間違いない」


ハルトが指差すと、花バァがしゃがみこみ、ガラケーのライトを頼りに足元を照らした。


「……おや?」


瓦礫の影、地面に落ちていたのは、空っぽの“黒タグ付き”パッケージ。封は雑に破かれ、中身が抜かれている。


「見て。これ、袋だけ偽物用ってことかも。中身は本物にすり替えて売る……ってパターンもあるかもね」


「ある意味で“本物っぽく見せる偽物”……か。ややこしいにもほどがあるね」


ナナちゃんの声が低くなる。怒りか、悔しさか、オーラがふわりと濃くなった。


トレーラーハウスの裏手には、資材が雑多に積まれていた。中には、封もされていない星光石の袋、型取り途中のアクセサリー、そして──


「……うわ、これ!」


ハルトがそっと引き出したのは、小型の機材だ。まるでハンドスキャナーのようなそれは、UVライトを内蔵した“簡易検査器”。


「これ、あれじゃね? ナナちゃんのアクセに反応してたやつと同じじゃん」


「ってことは……この機材で検査して“本物”って言い張って、売ってるってこと?」


「たぶん、“これは反応しないから本物ですよ~”ってやるための演出機器さ」


花バァが低く唸った。


「つまり、“偽物に反応する機械”じゃなく、“本物に反応しないよう細工した機械”ってわけだねぇ。鑑定ショー?かなんかで使うんだろ。こりゃもう詐欺師のレベルだよ」


3人は顔を見合わせた。


やがて、ハルトが手を挙げて口元に人差し指を当てた。音がした──誰かが、近づいてくる。


足音はひとつ。けれど、確実にこちらに向かっていた。


「隠れて!」


3人はトレーラーハウス横の大きな箱の影に身を潜めた。

花バァは録音中のガラケーを懐に滑り込ませる。ナナちゃんの手はハルトの服の袖をぎゅっと掴んでいる。


やがて、姿を見せたのは──


「……大石……!」


ハルトが口の中で呟く。彼はスマホ片手に、誰かと通話していた。


「……いや、明日は予定通り進める。偽物は“持ち帰り自由”ってことで処理するから。SNSでウケれば、真偽なんてどうでもいいんだよ」


3人は、息を呑んだままその会話に耳を澄ませた。


「なに、炎上してもいい。燃えた話題は観光資源になる。バズれば勝ちだよ、バズれば。──ああ、それと、あの子の件は“勘違いだった”ってことにしとけばいい」


ナナの手が震えた。彼女のオーラが一瞬、ざらりと揺れる。


(“あの子”って……私のこと……?)


「とにかく、明日のフェスが終わるまで、余計な動きは避けてくれ。“勝手に鑑定とかやる連中”が出てくると面倒だからさ」


花バァが静かに、ゆっくりと目を閉じる。まるで覚悟を決めるように。


大石は通話を切ると、扉の奥へと消えていった。


沈黙のなか、3人は顔を見合わせた。


「……完全に、確信犯じゃん」


「バズれば勝ち、か……私達とは全然考えが真逆。」


「さぁ証拠は手に入った。今度は、“本当の意味でキラキラしてるもの”を、こっちが見せつけてやる番だよ」


花バァの声に、力がこもっていた。


月はまだ高く、トレーラーハウスは静まりかえっていた。だが、その沈黙の奥には、明日の“戦い”が、音もなく準備されていた。


そして、星光石の真実は、確実に表へと向かって動き出していた──。


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