「止まらんぞ……ッ!」
大石が叫ぶ。
観光協会の装飾用トレーラーが、フェス会場の脇道からゴゴゴ……と音を立てながら前進していた。
誰が運転しているのかもわからない。装飾品と反射材で飾られたその巨大な箱は、まるで意思を持った怪物のように、広場へと迫ってくる。
「危ないよ!みんな下がりな!」
花バァが怒鳴った。
観客たちが一斉に後退し、ナナちゃんはとっさにハルトの手を引いた。
「なにこれ……大石の……仕掛け?」
「たぶん“最終演出”だったんじゃないかな。偽物をばらまいて、盛り上げる……みたいな」
ハルトの声が震えている。
「でも、制御されてない。なんで……!」
そのときだった。
トレーラーの側面が、ガシャッと音を立てて開いた。
中から転がり出てきたのは──無数の“星光石アクセサリー”。だが、その多くは、明らかに粗雑な偽物ばかりだった。袋詰めにされたままのもの、タグの色がおかしいもの、蛍光塗料がはみ出してるもの──。
「わはははは!!ばらまけー!!燃やせーッ!!」
トレーラーの屋根に、大石が乗っていた。
その顔には、もはや余裕も誇りもなかった。ただ、異様な高揚と執念だけが、ギラギラと光っていた。
「いいか!? 偽物だろうがなんだろうが、キラキラすれば客は喜ぶんだよ!
本物かどうかなんて、気にしてるのはお前らだけなんだって! 俺は…!俺だけは正しかったんだよッ!!」
その叫びと共に、大石の身体が青白く光った。
花バァが目を細めた。
(……ギラギラした青色。好奇心、行動力、リーダーシップ。どれも、混じりけがなきゃ立派な力。でも、ああやって濁っちまうと……ただの暴走だよ)
「止めなきゃ……ナナちゃん!」
ハルトが叫んだ。
だが、ナナちゃんは首を振った。
「……あたし達じゃ無理。あの人は、あたしのことなんか、最初から見てなかった」
静かに一歩踏み出す者がいた。
花バァだった。
「……大石。あんたさ、昔はまともだったよ」
広場に、花バァの声が静かに響く。
「皆のために走り回って、朝から晩まで働いて。面倒見もよくて、口うるさいけど、まぁ信用はされてた。……でも、どうしてこうなっちまったんだい」
「うるせえ!!」
大石が怒鳴る。
「俺がいなきゃ、この町は何にもできねえんだよ! “燃えるネタ”がなきゃ、人なんて来やしない! 昔のやり方なんて時代遅れなんだよ!」
花バァは、歩を進めた。
「それを決めるのは、町の人だよ。あんただけじゃない」
「なら見せてやるよ! 俺の正しさを!!」
そう叫んだ瞬間、トレーラーの装飾が過熱し、煙を上げはじめた。中のバッテリーが暴走を起こしている。
「おい!こりゃ火ぃ出るぞ!!」
誰かの叫び。
「ハルト、拡声器! ナナちゃん、バケツ!」
花バァが素早く指示を飛ばす。
「了解っす!!」
「う、うん!」
怒号と混乱の中、彼らは動いた。
ナナちゃんは走りながら思った。
──この人は、自分の色を信じすぎたんだ。
町の未来に固執し過ぎて、本当に守るべきものが見えなくなった。
でも、まだ──遅くはないかもしれない。
「やめてよ!大石さん!! もう誰も、そんなキラキラ求めてないよ!!」
ナナちゃんの叫びに、大石の動きが一瞬止まった。
だが次の瞬間──バチッ、と火花が飛び、トレーラーの脇が爆ぜた。
それは、青の暴走が限界に達した瞬間だった。