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第17色 大石のギラギラ青!

「止まらんぞ……ッ!」


大石が叫ぶ。


観光協会の装飾用トレーラーが、フェス会場の脇道からゴゴゴ……と音を立てながら前進していた。

誰が運転しているのかもわからない。装飾品と反射材で飾られたその巨大な箱は、まるで意思を持った怪物のように、広場へと迫ってくる。


「危ないよ!みんな下がりな!」

花バァが怒鳴った。


観客たちが一斉に後退し、ナナちゃんはとっさにハルトの手を引いた。


「なにこれ……大石の……仕掛け?」


「たぶん“最終演出”だったんじゃないかな。偽物をばらまいて、盛り上げる……みたいな」


ハルトの声が震えている。


「でも、制御されてない。なんで……!」


そのときだった。


トレーラーの側面が、ガシャッと音を立てて開いた。


中から転がり出てきたのは──無数の“星光石アクセサリー”。だが、その多くは、明らかに粗雑な偽物ばかりだった。袋詰めにされたままのもの、タグの色がおかしいもの、蛍光塗料がはみ出してるもの──。


「わはははは!!ばらまけー!!燃やせーッ!!」


トレーラーの屋根に、大石が乗っていた。


その顔には、もはや余裕も誇りもなかった。ただ、異様な高揚と執念だけが、ギラギラと光っていた。


「いいか!? 偽物だろうがなんだろうが、キラキラすれば客は喜ぶんだよ! 

本物かどうかなんて、気にしてるのはお前らだけなんだって! 俺は…!俺だけは正しかったんだよッ!!」


その叫びと共に、大石の身体が青白く光った。


花バァが目を細めた。


(……ギラギラした青色。好奇心、行動力、リーダーシップ。どれも、混じりけがなきゃ立派な力。でも、ああやって濁っちまうと……ただの暴走だよ)


「止めなきゃ……ナナちゃん!」

ハルトが叫んだ。


だが、ナナちゃんは首を振った。


「……あたし達じゃ無理。あの人は、あたしのことなんか、最初から見てなかった」


静かに一歩踏み出す者がいた。


花バァだった。


「……大石。あんたさ、昔はまともだったよ」


広場に、花バァの声が静かに響く。


「皆のために走り回って、朝から晩まで働いて。面倒見もよくて、口うるさいけど、まぁ信用はされてた。……でも、どうしてこうなっちまったんだい」


「うるせえ!!」

大石が怒鳴る。


「俺がいなきゃ、この町は何にもできねえんだよ! “燃えるネタ”がなきゃ、人なんて来やしない! 昔のやり方なんて時代遅れなんだよ!」


花バァは、歩を進めた。


「それを決めるのは、町の人だよ。あんただけじゃない」


「なら見せてやるよ! 俺の正しさを!!」


そう叫んだ瞬間、トレーラーの装飾が過熱し、煙を上げはじめた。中のバッテリーが暴走を起こしている。


「おい!こりゃ火ぃ出るぞ!!」

誰かの叫び。


「ハルト、拡声器! ナナちゃん、バケツ!」


花バァが素早く指示を飛ばす。


「了解っす!!」

「う、うん!」


怒号と混乱の中、彼らは動いた。


ナナちゃんは走りながら思った。


──この人は、自分の色を信じすぎたんだ。


町の未来に固執し過ぎて、本当に守るべきものが見えなくなった。


でも、まだ──遅くはないかもしれない。


「やめてよ!大石さん!! もう誰も、そんなキラキラ求めてないよ!!」


ナナちゃんの叫びに、大石の動きが一瞬止まった。


だが次の瞬間──バチッ、と火花が飛び、トレーラーの脇が爆ぜた。


それは、青の暴走が限界に達した瞬間だった。


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