彩海商店街に、ふたたび活気が戻っていた。
ナナちゃん、ハルト、花バァが立ち上げた「星光石フェス第二部」──
それは公式イベントが台無しになったあと、商店街の人たちが自分たちの手で祭りを取り戻すための、ささやかだけど本気の反撃だった。
「照明こっち! ハルトくん、スマホで回して!」
「よっしゃ! 今、配信5,000人超えてるぞ!」
商店街のあちこちで、シャッターがガラガラと開く音が響き出す。
露店、手作りの飾り、光るおまんじゅう(?)、ピンク色に輝く星光キャンディ。
「星光石がなくたって、輝けるさ!」
「うちは特製うどんに金粉かけたよ!」
「イカ焼きに、色塗ってみたぞ」
「キラキラしてれば、それでいいんだよ!」
それぞれが思い思いの「輝き方」で、商店街の祭りを再起動していた。
そんな中、花バァは竹箒を高く掲げて叫んだ。
「掃除開始だよォッ!! オーラは足元から生まれるんだ!」
竹箒がカツンと地面を打つ音が響き、キラキラした偽物のかけらが風に舞い散った。
その背中には、まるで朝焼けのような温かい金色のオーラがゆらゆら揺れている。
花バァはふと商店街を見渡した。
そこには笑顔があり、涙があり、人々が互いに影響し合いながら動いている。
そして彼らのまわりには、赤、青、緑、オレンジ、ピンク、白――
まるで空に浮かぶ虹のように、多彩な色の光が舞っていた。
「……こりゃまた、すごいねぇ」
花バァは目を細めてポケットからサングラスを取り出す。
一枚かける。眩しい。
さらにもう一枚。まだ足りない。
そして、三枚目。
「三枚目っ!?」
隣で見ていたハルトが声をあげた。
「三連サングラス!? やばすぎるってババァ、それもう“オーラ対応ゴーグル”じゃん!!!」
「眩しすぎるオーラはありがたいけど……年寄りの目には刺激が強すぎんのさ」
涼しい顔でつぶやく花バァに、ハルトは腹を抱えて笑い出す。
「くっ……あはははは! 配信中! 今の映ってた!! ババァ天才すぎる!!」
コメント欄が一気に盛り上がった。
「三連サングラス伝説爆誕w」
「もう花バァが彩海市長でいいよw」
「うちのばあちゃんにも竹箒持たせたい」
「この町、やばいことになってる……w」
ナナちゃんがスマホの画面を見て、吹き出した。
「なんか、もう……負ける気がしないね」
「っしょ!? “本物”って、やっぱ面白いじゃん!」
花バァは三重サングラス越しに商店街を見渡し、にやりと笑った。
「キラキラってのはね、重ねるもんなんだよ。
サングラスも、オーラも、人生も──ってね!」
その言葉に、またコメントがどっと溢れた。
「名言きた」「座右の銘にします」「これ小説化希望!」
──そのときナナは、ふと商店街の隅にある掲示板に目を止めた。
そこには、小さな袋に入った黒タグ付きの偽物星光石が一つ、ひっそりと置かれている。
「……置いていくんだね」
ナナちゃんはそっとその下に、「本物を信じる」という紙切れを貼った。
すると、風がふわりと吹き抜け、
商店街中のオーラが一瞬にして広がり、色が混ざり合ってひとつの光となって天へのぼっていった。
「……虹?」
ハルトがつぶやいた。
花バァはにっこり笑い、
「若いもんは、まぶしいねぇ。目がしぱしぱするよ」
三重のサングラス越しの視線が、町をやさしく包み込んでいた。