ふふふ、この暗号『五年生の教室にある。ロッカーの中で眠っている、モップをひっくり返してみて。組は、この暗号の中の丸の数が、示しているから分かったらいく』か、この程度なら簡単のカン太郎君だよ。私だって探偵一家の末裔なんだもん。
私の名前は花染琴流、妹である夢邦の代わりに探偵部の試練に挑む小学生だよ。見覚えがある愛しい二人の顔を見つけて反射的に手を振った。
「んっ?あっ、縁和くん!!りゅーくん!!」
「琴流、何もってんだお前」
「ふふふ、今暗号解読中なの!!二人も見てみる?」
二人ともほとんど同じタイミングで首を縦に振ったので暗号の書かれた紙を見せてあげた。内容を読み取っているようで少しの間だけ二人は止まった。
「ふーん…でもこっちゃん、これって随分簡単じゃない?丸の数を数えろって、文章の終わりにある。の数を数えればいいってことでしょ、つまり2組ってことじゃないの?」
あらあら、りゅーくんったら随分簡単に引っかかっちゃってさ。
「違うぞ龍虎、ほら丸ってことは半濁点も入ってる。だったらモップの『プ』にも丸があるから合計3つ、だから3組ってことだ」
「ああ、本当だ」
「その通りだよ、流石縁和くん!!かしこい!!」
「いや、別にこの程度……」
ああ、縁和くんカッコいい…もう手遅れになりそうなくらい好きになっちゃいそう。
「だから三組のモップの下に行ってみない?モップの下に次の試練があるっぽいからさ」
「いくいく。方丈くんも行くよね」
「もちろん」
こうして二人を連れて私は5年3組に向かった。普段使っている教室と別の教室に行くのは少し抵抗があったんだけど、そこは強い心がある。私は胸を張って中に入っていった。そして真っすぐロッカーに向かいモップを取った。
「おっ、あった!」
さてさて、次はどんな試練なのかな?まぁどんな試練だろうとこの探偵少女琴流ちゃんにかかればあっという間に解決だけどね。
また紙があったのでそこに目を通す。
『暗号に示された中で槍を使うものたちが集まった時の言葉を答えよ ヒントは日本の九九』
「え?これどういうこと?」
りゅーくんが首をひねった。縁和くんが私から紙を受け取りじっと見つめる。
「えっと……暗号ってのは最初の紙に書かれたこれのことだよな……それで槍?それにグループ名なんてどこに書いてあるんだ?」
「だよね……本当になにこれ?それに日本の九九って何?計算って万国共通だよね」
「うん、日本が独占したりはしてないよね」
ヤバい……全然分かんない………とっかかりさえも思いつかない……どうしよう?夢邦にアドバイスを求める?
いや、ダメダメダメ!!妹に助けを求めるなんてお姉ちゃんの威厳にかかわるよ!!一生懸命考えて、探偵部の皆の仲間になるんだから!!
だって、私は探偵になる女の子だもん!!!
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「ふふふ~~ん」
その辺のスーパーで買ってきた駄菓子をつまみに水道水を口に流す……ふむふむうんうん、分かりやすく美味しい。やっぱりあんまり高いもんじゃなくてこういう方がいいよね。僕ったらバカ舌で得してるぅ。
「兄さん、ちょっといい?」
「お?鼓々か、どうした?」
僕の名前は花染幸充、誰よりも花染家を愛しその発展に尽力している男だ。
「最近夢邦の様子がちょっと変なんだけど知ってることない?」
「夢邦ちゃんの様子が変?そいつは妙だな」
心当たりはあるけれど、実の母相手とは言えあの子が様子の変調を悟らせるほどのものか?
僕がちょっと悩んでいると鼓々は広がっていただがしの一つをつまんで口に放り込んだ。
「あっ、こら僕のだぞ」
「いいじゃない。妹に少しくらい恵んでよ……それで何か知らない?」
「うーん……なんだろ?」
「てっきりまた兄さんが花染家を継げとかそういう面倒なことを言ったんだと思ってたんだけど違うの?」
「言ったけどそんなことであの子が動揺するわけないじゃん」
………うーん……………どうなってんだろ?ちょっと詳しく探ってみるかな。
「ま、いいわ。それより兄さん、最近貴方から良い噂聞かないけれど」
「なんだ?僕が悪いことしてるんじゃないかって疑ってるのか?」
鼓々はまただがしを拾って口の中に放り込んだ後、呑み込む前に言葉を発した。
「疑ってないわ、その代わり確信してるけど」
「ははは、流石は我が妹」
「あんまりおいたしないでちょうだいよ。兄さんに何があっても知らないからね」
「ああ、それでいい……お前はしっかりと夢邦ちゃんを愛情たっぷり育ててくれれば十分だ」
それは僕や親父には天地がひっくり返っても出来ない仕事だからな。
「言われなくてもそうするわよ。私の天使だもの」
最後の一つになったスナックに手を伸ばした鼓々より少しだけ早く手を伸ばして掴み、僕の口に放り込んだ。
「僕にとっても彼女は宝物さ」
「……兄さんは父さんともども夢邦に嫌われてるみたいだけどそれでも?」
「ははは、夢邦ちゃんからの感情なんて大した問題じゃないさ。まぁ叔父としては好かれていた方が嬉しいけれどそれはそれってもんだ」
「夢邦はそのうち兄さんを潰すと思うけれどそれでも?」
「ああ、それでもだ」
「母親としての贔屓目抜きにしてもあの子の才能と精神力は群を抜いているわ。引き換え兄さんは精神力はともかくとして妹としての舐めた視点を抜きにしても大した才能じゃない…つまり、今のままじゃ遅かれ早かれ兄さんはぐしゃりと潰されるけれど本当にいいの?」
「なんだ、随分心配してくれるじゃないか」
「ま、妹だし。それに夢邦にあんまり身内を潰させたくないしね……私としては夢邦と仲良くしてくれたら一番嬉しいんだけど」
「そいつは難しい問題だな」
僕は立ち上がり障子を開けた。
「彼女は美しく咲き誇る花、僕はそんな花に栄養を送るしがない土だからね」