鬼気迫る表情の真理子にただならぬ気配を感じてしまったあたしはとりあえずカフェ『琴の休み処』に変えて詳しい話を聞くことにした。あたしがお姉ちゃんの為に作らせたカフェなので当然あたしの息がかかっている。ここでなら何を話したところで外部に漏れることはない。そして何よりイチゴオレやいちごパフェは絶品なのである。
「メイドさん、いちごパフェちょうだい……真理子先輩、貴女はどうします?」
「えっと…じゃあ同じのをください」
借りてきた猫のように大人しくなっているが無理からぬことであろう、だって今のメイドは格好こそメイドだが30歳の女性なのだから。それもフリフリのミニスカメイド。
念のために言っておくがあたしはメイド服を着ろなんて指示は出していない。服装自由にしていたら勝手にあんな服を年甲斐もなく着ているのである。
「ここに慣れてるの?」
「ええ、あたしの行きつけの店なんですよ。それで、親友を助けて欲しいってのはどういうことです?」
「ええ……うん………私の保育園からの親友に、及川乃々って子がいるんだけど……その子が少し前から行方不明なの」
「ふーん」
ああ、そんな奴もいたわね…6年1組だったかしら…ふーん、この人と幼馴染だったのね、調査不足だったわ。
「行方不明って言うのは、家にも帰っていないってこと?」
「うん…連絡しても連絡が返ってこなくて……こんなこと初めてなの」
「単なる家出じゃないんですか?」
小学6年生ならあり得ることだ。もっともだからこそ心配になるというのも分かるが。
「おばさんもそう言ってたけど……私は違うって思ってるの……だって、あの子は昔から何でも私に相談してくれたのに、今度はいきなりいなくなっていて」
「………心当たりは?」
「一つあるの…いなくなる数か月くらい前からSNSで大人の人とやり取りをしていたみたいで……もしかしたらその人の所に行ったんじゃないかって」
そこまで言った後に顔色が青くなった。汗を掻き、悔恨の色まで見えるではないか。
「心配なの…あの子はとっても純粋な子だからいったい何をされているか……何かとんでもない目に巻き込まれてしまっているんじゃないかって……」
そして頭をテーブルにこすりつけた。
「お願い!!私たちの手で助けてあげたいの!!だから力を貸して!!!」
「警察には?」
「まだいなくなって二日目だから…おばさんも警察に出すのは早いって」
はぁ…信じられないわ。高校生ならいざしらずまだランドセル背負ってるガキが二日もいなくなってるのに警察に届け出ることもしないだなんて……
でも、だからと言ってそれはあたしが助けてあげる筋合いはないわね…
……待てよ……ここであたしが断ったら誰に鉢が回る?お姉ちゃんだ……普段の探偵案件ならあたしが断ろうとお姉ちゃんに役目が回ることはない。でも今回は……もうすでに巻き込まれてしまっている……
そしてお姉ちゃんはあたしと違って純粋なる正義の天使……
ああ……もう……
「分かったわよ……手伝ってあげる」
「本当!!??ありがとう!!恩に着るわ!!」
「ただし、あんまり無茶なことはするんじゃないわよ。本当にSNSの大人に誘拐されたって言うなら相手は危険人物、深追いはしないように」
「う…うん」
運ばれてきたいちごパフェを丁寧にスプーンで口に運びながらあたしは心の中でため息を吐いた。
その後、真理子を帰らせた後、年甲斐のないメイド女に声をかける。
「話は聞いたかしら?雫」
「ええ、聞いた聞いた。意外だったわ、夢邦が受けるなんて」
「しょうがないじゃない、お姉ちゃんが関わる可能性があるんだから」
「ププッ、相変わらず見事なシスコンで」
「黙りなさい、減給するわよ」
「怖い怖い。それで?私は何をすればいいの?」
「痴態を晒すだけでかなりの労力でしょうに、他に何かする余力があるのかしら?」
「痴態を晒す?ったく、お子様にはこの可愛らしさが分からないのかしら?今に超イケメンが私を見染めるはずよ」
身体をくねくね揺らさないでちょうだいよ……まぁ良いわ。
「まずは乃々のアカウントを特定し、密にコミュニケーションを取っていた人物を探りなさい。あんたならすぐにできるでしょう」
「了解承知の助」
ビシッと敬礼した30歳の女を見て、あたしは見せつけながら大きく嘲笑した。
そのころ、琴流たちは
「日本の九九ってもしかして将棋なんじゃないか?」
「あっ!確かに9×9のマスを使うよね!!縁和くん、きっとその線だよ!!」
「でも…将棋をどう使うの?」
「それは……えっと………考えよう琴流、方丈」
「うんっ!!」
まだ暗号解読に精を出していた。
真理子から親友である乃々の捜索依頼を受けた夜のことだ、お姉ちゃんはベッドの上で頭を抱えていた。
「ううぅ……」
「お姉ちゃん、まだあの暗号が解けていないのかしら?」
「む…最初のは解けたよ!でも夢邦が知らない二つ目の暗号が難しくって…」
「解いてあげましょうか?」
というかもう解いてるんだけどね。
「いいよ、私はお姉ちゃんなんだから。それに私だって探偵なの」
「そう、頑張ってね」
口惜しいわ……なんでこんなに可愛いお姉ちゃんじゃなく、あたしみたいな底意地の悪い出来損ないに才能が宿ったのかしら?
その時、恥ずかしコスプレメイド女……もとい雫から連絡が入った。暗号とにらめっこしているお姉ちゃんに手を振った後に、自分の部屋に向かう。
「もしもし、進捗は?」
「別に隠されてなかったし、簡単にアカウントを特定できたわ。で、その後色々探ってみたら、乃々ちゃんとローちゃんと呼ばれている謎の男のやり取りが見つかったの。メッセージを送るからあんた自身の目で確認してちょうだい」
「ありがと」
すぐにメッセージが送られてきた。内容に目を通すと、なるほど新社会人の男が大人と間違って乃々に連絡を取ってしまったという始まりから、二人の微笑ましいやり取りが描かれているではないか。ローちゃんの日頃の愚痴や自分が如何に頑張っているかについてや、乃々の学校や家庭での何気ないやり取りが進んでいる。
最後辺りにはこんなやり取りが書かれていた。
『乃々ちゃんって本当に可愛いな。僕君と会ってみたい』
『乃々もローちゃんと会ってみたい』
そして何より特筆すべきは最後の一文
『ローちゃん、私家出する。泊めてくれる?』
なーるほどね。ローちゃんところに行ったと考えて間違いなさそうだわ。
メッセージの最後に雫の一言が書かれていた。
『ちなみにこのローちゃんって奴のアカウントも探ってみたけど小学生から中学生くらいの女の子と沢山やり取りしてるみたいよ』
なるほど……
「乃々のやつ、ロリコン野郎にひっかかったみたいね」
さて、調べることがあるとすれば……
あたしはいくつかの調べ物を雫に頼みベッドに寝転んだ。お姉ちゃんとのツーショット写真が目に入る。
ローちゃん、お姉ちゃんがロリに分類される立場にある以上、あんたはあたしの敵よ。目をつけられた不幸を呪いなさい。
「ロリのロリによるロリの為のロリコンハント開始よ」
縁和のせいで募りに募ったストレスの解消くらいにはなってちょうだいね。