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第12話 結婚式

 ベッドの上に腰かけた。スプリングがへっぽこみたい、これじゃ床で寝るのとさほど変わらないわね。ただそんな想いは少しも顔に出さずに笑顔でウエディングドレスをつけている乃々に笑みを向けた。


「貴女は座らないの?」


「ドレスにしわがついたら大変だからね。そうそう、私は及川乃々、貴女はなんていうの?」


「えっとね…初川…それでお願い」


「うんっ、初川ちゃん初めまして!!それでなんでここに来たの?」


「お母さんと喧嘩しちゃって……そしたら男の人に良いところがあるって言われたの」


「ああ、やっぱりそうなんだ。あのね、初川ちゃんを連れてきてくれたのはローちゃんって言うの。私と明日結婚するんだ!!」


「えっ?でもかなり歳の差があると思うんだけど」


 乃々が愉快そうに「チッチッチ」と舌を鳴らした。


「愛情があれば歳の差なんて何でもないことだよ。ローちゃんはね、とっても優しいんだ。会ったこともない私にとっても親身になってくれて。愚痴も相談もいっぱい優しく聞いてくれて…いつの間にか好きになっちゃってたの。ローちゃんも私と同じ気持ちだったみたいで結婚してくれるって言ってくれたんだ」


 要約するとまだ心が育ち切っていないガキをロリコン野郎が甘言を用いて初恋を奪ったってことね……っと、初恋かどうかは分からないか、反省反省。


「ローちゃんは本当に優しいんだよ。ここに私を住まわせてくれたし、それに初川ちゃんみたいな女の子を良い人のところに連れてってくれるお仕事をしてるんだって」


「良い人のところ?どういうこと?」


「ほら、お父さんとかお母さんとか良くないことが多いじゃん。そんな女の子を大切にしてくれる新しいお父さんとお母さんのところに連れて行って幸せにするお仕事なんだって。里親って奴なのかな?」


 はぁぁ??なにそれ?それが本当だとしたら…人身売買ってことじゃない……ちょっと待ってちょうだいよ。


「女の子って他に誰かいるの?」


「うーん、最近は少なくなってて……今は私と貴女だけだよ」


 …………ああこれ、とっても面倒な話だわ………ただの家出少女の捜索が大事件じゃないの。


 確か小さい子供の行方不明者数は年間1000人とかだったかしら?その中の何十人くらいかはここが起点になってそうね…


「ローちゃんってとにかく優しくて頼りになるの。このお家も用意してくれたし、おもちゃもゲームも買ってくれるんだよ。それに結婚までしてくれるって…ほら、このウエディングドレスも私が欲しかったのを買ってくれたんだ」


 ………ああもう……楽しそうにするんじゃないわよ。表情を変えずに間抜けなのろけを聞くのって結構大変なのよ…特にこんな面倒ごとが背後に控えていると判明したときはね。


 と言うかあんたもあんたよ。小学生とは言え最高学年にまでなったらなんとなく不審者とか、法律違反だとか分からないかしら……それとも…


 そんなことが見えなくなるくらいローちゃんに惚れこんでいるって言うの?バッカみたい。


「ああ、本当に運命ってあるんだね。ローちゃん大好き」


 一瞬乃々の純真な笑顔がお姉ちゃんのそれを重なった……もし……お姉ちゃんが乃々と同じ立場になったら…恋だけを見て他の全てに目を向けられなくなったら……そして犯罪に巻き込まれたとしたら……


 考えちゃダメあたし…そうならないためにあたしがいるのよ……


~~~~~~~~~~~


 朝日が差し込んできた時間、あたしは布団に潜り込んでスマートウォッチから龍虎に指示を送った。


「結婚式が今日…ったく、嫌なめぐりあわせね」


 隣のベッドで気配がした。どうやら乃々が起きたようだ。


「うーん…おはよう初川ちゃん」


「おはよう乃々ちゃん」


「今日はいよいよ私とローちゃんの結婚式!!参列者としていっぱいお祝いしてね!!」


「任せといて」


 無垢な笑顔を見せてきた乃々に少し胸がちくりと痛んだ。


 ごめんね乃々、結婚式なんてめでたいことは拍手喝采で祝ってあげたいところだけど………潰すわ。


 それから数時間が経ち、ローちゃんがやってきた。おろしたての白いタキシードに身を包み、少し浮足立っているようだ。


「乃々、そろそろ時間だけどいいか?」


「うん。ローちゃん、幸せになろうね」


 神父もいない、参列者もあたし以外には誰もいない。もちろんチャペルも何もないが、バージンロードのようなカーペットの上を二人が腕を組んで歩いていく。なんともわびしく、結婚式ってこういうものじゃないでしょうと思ってしまうが二人の顔はとても嬉しそうである。


 さて……そろそろ時間ね。


 龍虎、頼りにしてるわよ。こんな結婚式、粉微塵にしてやりましょう。


~~~~~~~~~~~


 土曜日のとある日、私は縁和くんとデートをしていた。と言っても、行きつけの駄菓子屋に行く約束をしただけなんだけど二人きりで歩いているだけで私はとっても胸がドキドキする。


「ねぇ縁和くん、私昨日気づいちゃったんだけどもしかしてこの暗号ってひらがなにするんじゃないかな?そうしたらほら、81文字になったんだよ!!」


 私はスマホで昨日撮った暗号をひらがなに変えたものを見せた。


「九九ってことは答えは81だよね。だからきっとこうするのが答えに繋がると思うんだ」


「おおっ!!琴流あったまいい!!ってことはもしかして、9×9にするんじゃないか?」


「きっとそうだよ!!もうすぐ暗号が解けそうな気がする!!」


 縁和くんとワイワイ議論を深めていると、りゅーくんが見えた。声をかけようとしたのだが、どうにも様子がおかしい。


「どうしたんだろう?」


「何がだ?」


「あのね、りゅーくんがいたんだけどあっちの倉庫とかがいっぱいあるところに行ったの。もしかして秘密基地とかあるのかな?」


「秘密基地!?いこいこ!!」


 目を輝かせた。やっぱり縁和くんも秘密基地とか好きなんだね。


「じゃ、りゅーくんの後をこっそりついて行こう」


「おーー!!それじゃ、行こうぜ」


 私と縁和くんはこっそりと、好奇心に誘われるままりゅーくんの後をつけた。なんだか探偵をしているみたいでちょっと楽しいな。


 この時私は縁和くんがりゅーくんのあとをつけたかった本当の理由に気づかなかった。もし気づいていたとしても何かを変えられたかは分からない。だけども本当に彼のことが好きなら気づいてあげるべきだった……そう思わずにはいられない。


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