やっちゃったわねぇ……あーあ、我慢できないなんてあたしもまだまだガキンチョねぇ。
「初川ちゃん、どういうつもりなの?」
「別にぃ、ただあたし乃々のこと結構気に入っちゃったのよね。だから助けてあげようと思っただけ」
「助けるってどういうこと!!??私とローちゃんは歳の差はあるけど、ちゃんと真実の愛を育んでいるの!!邪魔しないで!!!」
高い声が響き渡った。あたしは忍者の末裔である初川家の血を引くものらしく、一本のクナイを投げる。
グシャッ
「今あたしがぶっ壊したもの分かる?隠しカメラよ。そこの男はあたし達の私生活を赤裸々に撮っていたの。あっ、言っておくけどあれ一個じゃないわよ。もっといっぱいあるわ。無論、トイレにも風呂にも関係なくね」
「えっ?そんなローちゃん、嘘だよね!!」
「ああ…そうだよ。僕はあんなもの知らない」
分かりやすく動揺した二人…だが動揺した理由は違う。
疑心と驚きだ。
「こんなことしている分際で本当に貴女のことを愛していると思う?それにあたしの勘だとそいつ、女児の人身売ば「うるさぁぁぁぁい!!!!!」っ…」
先ほどより10倍は大きな怒号があたしの皮膚を殴りまくった。
「変なこと言わないで!!!ローちゃんは私の旦那さんになるの!!!とっても素敵な人なの!!ローちゃんだってあんなカメラ知らないって言ってるじゃん!!!」
「んなわけないでしょう。冷静になりなさい」
「私は冷静だよ!!!!」
どこがよ…まったく。
「いい、乃々」
「ローちゃん……?」
ローちゃんは乃々を優しく制して扉を指さした。
「あの子は何か勘違いをしているみたいだ。僕が言い聞かせておくから乃々は頭を冷やしてきなさい。せっかくの可愛い顔が台無しだよ」
「ローちゃん…」
「ほら」
慈愛のような何かを含んだ声色に安心したのか乃々はこくりと頷き扉の向こう側に消えていった。あの扉の先はまだ調べていなかったけど…まぁ良いわ。
「お前、何者だ」
「あんたが連れてきたんでしょう。ママと喧嘩してる少女よ」
にぱっと無垢な笑顔を見せてやったのだが怖い顔を崩さない…せっかく癒してやろうとしたのにしょうもないやつね。
「ふざけるなよ」
「ふざけてんのはあんたでしょう。ロリコン軍曹さん。
人身売買してるんじゃないの?」
一瞬だけ軍曹は面を食らったようになるが、すぐに不敵な顔に戻った。しかし、どうみても作られたものだというのが分かる…どうやら悪党の中でもド三下らしい。
「そんなわけないだろう。それに僕と乃々は真実の愛で「あたしの実家は花染よ。どうぞよろしく」………!!??」
ド三下でも悪党は悪党、聞き覚えがあるようね。
「花染……だと?」
「そっ、腐ったことが大嫌いな可憐な少女や腐ったことが大好きな老害が混在しているドブの中掃き溜め以下の一族花染家の女の子よ。
この意味、分かるわよね」
花染家は探偵一家の名門だ。さすがに警察手帳ほどでないにしても敵を威圧させる効果はあるらしい。腐った臭いが顔をしかめさせているだけかもしれないけれど。
「さて、分かったところでお縄に「五月蠅い!!!」おっと」
白いタキシードの懐に隠していた拳銃を取り出した。あたしは咄嗟に距離を取る。
「物騒なものもってるわね…あんたの背後を探るのが面倒になってきたわ」
「お前の価値が何だか分かるか?」
ギラギラとした、欲望に溺れた瞳に変わった。追い詰められ、理性が融解していっているのね…よく見てきた光景だわ。
「さぁ?未来への可能性とか?」
「違う!!少女は宝だ、その身体には星より大きな価値があり、その心には宇宙よりも大きな神秘がある!!だが少女達自身はそのことに気づいていない!!だから僕がその価値を引き出し、価値を分かっている人たちに分け与えているんだ」
要するに、無垢で調教しやすいロリっ子を馬鹿どもに売りつけているって意味かしら?あんたのような男が少女の価値を語るなんて虫唾が走るわね。
「僕はそんな慈善活動の中、乃々に出会った……彼女は美しい心と美しい容姿を持っており。何より僕を本当に必要としてくれた……僕を愛してくれた…そして僕も彼女を愛した。僕たちは本当に愛し合っているんだ。だから欲しいものは何でも買ってあげたし、結婚式だって挙げようとした」
銃口があたしの方を向き、ほとんど同時に爆ぜた。少し左側の空気が切り裂かれる。
「お前の様な女と価値が違うんだ!!!」
「ふんっ。ちゃんちゃらおかしいわね。あんたが欲しいのは自分の言うことを聞く可愛いお人形でしょう」
「お前みたいな生意気なガキの心はいらないんだよ!!誰も欲しがらない!!価値ある身体だけこの世に置いていけ!!」
またしても弾が放たれた。あたしの髪をかする。
「どうしたの?生意気な身体も現世にしっかり残っているようだけど」
さらにローちゃんの目が血走った。そしてまた何発か撃つがあたしには当たらない。
「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるを本当に信じてるタイプかしら?下手すぎる鉄砲は当たらないって続くの知らないのかしら?」
「何でだ何でだ何でだ!!!!???」
パンパンパンと空気が切り裂かれていく。だがやはりあたしには当たらない。
あたしの観察眼は並大抵なものではない。闘争の素人相手であれば瞬時に動きを見切り、一秒後の動きを限りなく正確に予想することが出来る……つまり、どんなに素早い弾丸であろうとあたしにとってかわすことはさほど難しいことではない。撃たれる前に弾の軌道から離れた場所にいれば当たる道理はないのだ。
ま、相当怖いんだけどね………下手すりゃ一発で死ぬし………
冷や汗を隠しながらあたしはにやけ面を崩さない。そして弾切れを起こしたと同時に懐に入る。
「どうしたの?」
「お前……何者だ?」
「さっき自己紹介したじゃない。もう忘れちゃったのかしら?
まあいいわ、慈悲深いあたしは改めて自己紹介をしてあげる」
袖に忍ばせておいた針をローちゃんの首にさす。たっぷりと睡眠薬を塗っていた針だ。
「………う…」
ゆっくりと崩れ落ちていくローちゃんを見下しながらあたしは口を動かした。
「あんたの大好きなロリの美少女よ」
ふぅ生きられて良かった…奥の手も使わずに済んだし何よりね……あとは拘束して…それから。
「きゃぁぁぁぁ!!!!!!!」
……この声は……まさか………そんな。
あたしは慌てて声がした方に向かう。そしてとんでもないものを目にしてしまった。
「このガキ、良い身体してやがる……大人しくしとけ」
「やだやだ!!!離して!!!!」
な…なんで………
「お姉ちゃん!!!!!」
お姉ちゃんが三色ヘアーの間抜け面に捕まっていたのである…しかもこの男右手にナイフを握っているではないか。
生唾が喉を気持ち悪く通っていった。