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第15話 ガキの身体くらいで照れないでちょうだい

 あたしはこの世に生を得る前から、ママのお腹にいたころからずっとお姉ちゃんを見てきた。そのお姉ちゃんに愛らしさに癒され、今日この時まで、心の支えになってくれていた。


 お姉ちゃんの身体はあたしの命よりも遥かに重いのだ。そんなお姉ちゃんが今、見るからにガラの悪い野郎に捕まってしまっている…もう、最悪……腸が煮えくり返って身体が沸騰しそうよ。


「お姉ちゃん…ほぉ、ガキ、お前はこいつの妹なのか?」


「ええ」


 両手を上に上げて降伏の意を示す。


 鈍色に光るナイフがお姉ちゃんの前にある…少しばかり力を入れれば柔肌をあっと言う間に切り裂き、悍ましい鮮血をだしてしまうでしょう…そんなの絶対に見たくない。


 三色ヘアーの男が周りを見渡した。そして大きく鼻を鳴らす。


「柚原の野郎倒れてるじゃねーか…ガキ、お前がやったのか?」


「そうよ。と言っても、あたしを追っていたらすってんころりんと転んだだけだけど」


「はっ!ざまぁねえな。みじめな奴だ」


 幸いあたしがローちゃん…いえ、柚原を眠らせたことはバレてないみたいね。


「にしてもお前ら本当に良い身体してるな…未成熟な四肢に年不相応に整った顔立ち」


 生理的嫌悪感を引き起こさせる目線があたしの身体中をまさぐった。特に胸と顔は実際に舐められているような酷い不快感を覚える。


「夢邦……」


「お姉ちゃん、大丈夫だから……今は黙っておいて」


 お姉ちゃんがなんでここにいるかは後で考えましょう……一瞬でも隙があれば……無理ね。あたしの身体能力じゃ一瞬よりももうちょっと隙の時間が必要。


「とにかく今はお姉ちゃんを離してちょうだい」


「ふんっ、ガキのくせに一丁前の要求が通ると思ってんじゃねーよ」


 男は刃物をお姉ちゃんの首元に当てたまま柚原に近づいていった。不味い、起こされたら…逆転の目がほとんどなくなる………


「おい、起きろ。柚原」


「待って」 


「あ?なんだガキ?」


「お願いだから…あたしにできることなら何でもするから………だから……お姉ちゃんを助けて………」


 数秒間あたしを嘗め回すように見た後に男は品性のない笑みを浮かべた。


「脱げ」


 シンプルかつ奥深い欲を秘めたセリフね…こいつもロリコンか……


 あたしは上着を脱ぎ始めた。ゆっくりと…震える指を無理やり動かしているように………脱いでいく。


「ふんっ、やっぱりそうだよな。ガキなんてもんは脅せば簡単に言うこと聞くんだ。いちいち優しくして言うことを聞かせるなんてまどろっこしいこと不要なんだよ」


 三色ヘアーの男は軽く柚原を蹴った。ドキリとしたが幸い起きる気配はなさそうね。


 完全に上着を取り去り、あたしはシャツ一枚になる。ほとんど膨らんでいない胸もこうなればしっかりと視認できるようで男の下卑た視線が痛いくらいに突き刺さる。


「もう……いいでしょ…だからお姉ちゃんを離して」


「駄目だ、しっかり、自分自身の手で、服を全て脱ぎ、こぶりな胸も、毛の生えてない股も、ぜーんぶ見せるんだよ!!!!」


「……」


「だめ!!夢邦!!!」


「お前は黙ってろ!!!」


 ナイフが動いた。咄嗟に「止めて!!!」と口が動く。


「お姉ちゃん……あたしは大丈夫だから………大丈夫だから」


「夢邦……」


「だからあたしのことを」


 自然に、大人の暴力的な脅しになす術なくなされるがままになっている可憐な少女のままで、とあるボタンをカチッと押した後に


「信じて」


 あたしは上着を投げた。少し重いそれは不格好な弧を描いて男の顔に被さる。


「あっ?ガキ、お前何を?」


 はーよかった…ありがとう。正直死を覚悟したわよ……でも、貴方が下品なロリコンで助かったわ。


「お姉ちゃん、耳!!!」


「え?」


「ガキ、おまなに「ドーーーーーーーーン!!!!!!!!!!」」


 耳を覆った次の瞬間、上着に仕込んでおいた音響兵器………と言ってもひたすらデカい音を出すだけなんだけど……が、倉庫中に響き渡った。


 耳に…いえ、身体に響く。できればこれは使いたくなかったのに…お姉ちゃんは無事かしら?至近距離で喰らったはず……耳を上手く塞げてなかったら………


「夢邦!!!」


 男は大音量にやられ、お姉ちゃんを離した。その隙にお姉ちゃんはあたしの方に走ってきた、少しよろめいていたが大事はないようだ。あたしはお姉ちゃんを抱きしめる。


「お姉ちゃん、お帰り」


「夢邦、ごめんごめんごめんなさい!!ありがとぉおぉぉぉんぉぉdぼwtぺggbぽううぇgtb」


「後半声になってないわよ……」


 にしてもまだ耳が上手く使えないわね……それにあれだけの音、近くにこいつらの仲間がいた集まってくるはず…三色ヘアーも意識を取り戻すかも……


「話はあと、とにかく逃げるわよ」


「う……うん」


 目の前にあった扉が蹴り壊され、扉が吹き飛んできた。お姉ちゃんを庇い、前に出る………くそ、思ったより集まるのが早い…


「むーちゃん、さっきの大きい音なに!!??大丈夫!!??」


「龍虎か……ふぅ………」


 その優しい笑みを見た瞬間、身体から一気に力が抜けていった……ちょっと気を張りすぎてたわね………はぁ………


「あれ?なんでこっちゃんもいるの?え?なになに?」


「いいからとにかく撤収よ。悪いけど肩貸してくれるかしら?」


「う……うん」


 龍虎の肩を借りようとしたとき、まだ十分に働いていないあたしの耳が何かを捉えた。最初は間違いだと思ったが、数瞬後に間違いじゃなかったと思い知る。


「許さない、許さない!!!!」


 倉庫の壁を突き破って、車にのった柚原があたしたちに突っ込んできたのだ。どうやら先ほどの音で起きてきてしまったらしいわね。


「ああ…もう………しつこい男はモテないって本当みたいね……」


 ワゴン車がけたたましい音を立てて倉庫に合った食料やバケツ、果てはその前で愛を誓った十字架まで吹き飛ばした。


「早く逃げないと!!??夢邦、早く逃げるよ!!」


「もう大丈夫よ……龍虎」


「うんっ、任せて」


 真っすぐに突っ込んでくる車に龍虎は相対した。腕をまくって地面に強く足を踏ん張る。


「死ね!!!クソガキ!!!!!」


「二人は絶対に死なさいよ、大人の人」


 ドンッ!!!!!!


 車は手加減なしに龍虎に突っ込んできた。しかし、龍虎はそれを真正面から受け止めた。


「ぐ………ぐぐぐぐぐぐうぅぅぅ」


「う…嘘だ、嘘だぁぁぁ!!!!!」


 車は傾き、柚原の絶叫が倉庫に響く。


「おんりゃぁぁぁぁぁ!!!!」


「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


 そして車はひっくり返され、柚原の意識は消えていった。


「ったく、今日は鼓膜を酷使する日ね……龍虎、ご苦労」


 龍虎は力こぶをつくって可愛く笑った。


「どんなもんだい!!!」


 我が幼馴染ながら、相変わらず恐ろしい怪力ねぇ。頼りになって仕方ないわ。


「って……む……むーちゃんどうしたのその格好?服が……」


 顔を赤らめてそっぽを向いた、これは前言撤回しないといけないかしら。


「ちょっと捨て身の作戦した結果よ。そんなに照れないでちょうだい、一緒にお風呂にだって入った仲でしょう」


「昔の話じゃんか」


「その昔と凹凸なんてほとんど変わってないでしょう。気にしないでちょうだいよ」


「そういう問題じゃないよ~~」


 ったく、初心な子なんだから。


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