「ねぇねぇ夢邦、おばあちゃんたちのところ行くんだし、何かお土産持っていこうか!!??」
明日課外学習であたしたちのバーバたちが運営している忍者屋敷に行くことになったお姉ちゃんはやたらと元気よく準備をしていた。バーバの所なんて行こうと思ったらいつでも行けるのに、どうしてこんなにワクワクできるのかしら?
「肩たたき券とかでいいんじゃない?」
「ええ?それじゃあ味気ないじゃん」
「明日は孫としてじゃなく、課外学習をする小学生としていくのよ。あっちだってお仕事なんだからそんなベタベタするようなことはしちゃ駄目よ」
「それじゃあつまんないじゃん」
「まったく、困ったお姉ちゃんね…そんなお姉ちゃんにあたしからプレゼントがあるのよ。はいこれ」
あたしは少し大きめの麦わら帽子と白色のチョーカーを渡した。お姉ちゃんは不思議そうな顔で首をかしげる。
「プレゼントは嬉しいんだけど、なんで?」
「明日は暑くなりそうだからね。お姉ちゃんの白い肌に紫外線は天敵よ。それにそのチョーカーなんだけどさ…ほら」
あたしは首元を見せた。そこにはお姉ちゃんとおそろいのチョーカーがある。
「あたしとお揃いにするのは嫌かしら?」
「嫌じゃない!!どうしたの夢邦?急に色気づいちゃって!!」
色気づくなんて、いつの間に覚えたのよ。うふふ。
「まさか、夢邦も縁和くんのことが好きで、アピールをしよう「身の毛がよだつようなこと言わないでちょうだい」ぶー」
ハリセンボンのようにプクリと頬を膨らませるお姉ちゃんはなんとも愛らしい。
「そこまで言うことないじゃん。縁和くんカッコよくって優しいんだよ。この前私が苦手なブロッコリー食べてくれたし」
「ごめんなさいね。お姉ちゃんの気を悪くさせる気はなかったのよ……それはそれとして、今聞き捨てならないことをいったわね」
「あっ…やばっ」
「好き嫌いしちゃ駄目だって言ったでしょう!!ガキである今が将来を決めるのよ。頑強な精神は食事から!!」
「ひぃぃい!!ごめんなさい!!!」
お姉ちゃんは弾けるようにどこかに飛んでいった。
「ママ~~~夢邦にお説教されたよ~~~」
「また?何をしたのよ琴流」
「えっ……別に……」
「そこに座りなさい。ちゃんと答えるのよ」
「せっしょうな!!」
ったくもう……ママにまで自分の失態を伝えるなんて可愛いんだから。
さてと、楽しい課外学習にするためにあたしもしっかり準備しておかないとね。
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「兄さま…今日はいい天気ですね」
「ああ、太陽がさんさんとしてていい天気だな」
俺はベッドの上で微笑む美緑の髪を優しく撫でた。
「明日な、俺たち忍者屋敷に行くんだよ。なんか欲しいものあるか?」
「忍者屋敷ですか……そうですねぇ。手裏剣とかクナイとか……ちょっと見てみたいですね」
「分かった。お土産楽しみにしとけよ」
美緑は優しく微笑んでくれた。今日は調子が良いのかやけに口が動く。良い兆候だ、もしかしたらそろそろ病気が治るかもしれない。
「ふーん。その琴流さんって人、優しい人なんですね」
「ああ、妹は悪魔の化身みたいな思考してるのに驚くだろ」
「兄さまと同じかもしれませんね」
「どういうことだ?」
「妹を持ってる責任感が優しい人にさせるんですよ………兄さまとそっくりです」
「そっか…ありがとうな」
それからも少し話をした後に俺は美緑の部屋を離れた。すると待っていたかのように花染幸充さんが廊下に立っていたではないか。
「やぁやぁ、ちょうどよかった。君に言っておきたいことがあるんだよ」
「何ですか?」
「ああ、明日君たちは初川家が運営する忍者屋敷に行くんだろう。そこでちょっと頼みたいことがあってね」
ん?幸充さんが忍者屋敷に用がある?どういうことだ?
「安心したまえ、別にクナイなり手裏剣なりが欲しいわけじゃない」
……話を聞かれてた?………
「最近情報が入ったんだが、花染夢邦が興味深い情報を初川家に保管させているみたいでね。私はその情報が欲しいんだ。
だからちょっと取ってきてくれないか?」
「取ってきてって……そんな簡単に行くんですか?」
「大丈夫だ。別に君一人にやってもらおうなんて思っていない。君はサポートだ。ほら、そこの部屋に今回の仲間たちがいるから、詳しい話は彼らに聞いてくれたまえ」
そう言って少し離れた扉を指さした。
「分かりました」
この人は……何を考えているんだ?いや、そんなこと考えるな、何も考えずに粛々と、淡々と、言われたことだけをしろ………
美緑がどんなクナイや手裏剣を欲しがるかだけ考えろ……可愛いのがあればいいな。