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第21話 忍者屋敷にて

 課外学習の今日は太陽が少し雲に隠れている程度だった。ピーカンなんかよりずっと良いコンディションね。


「夢邦、今日はおばあちゃんたちいないんだって」


「へー、そうなのね」


 ママはうまく説得してくれたみたいね。流石はあたしのママ。


「ごめんね縁和くん、本物の忍者とクナイの投げっこするって約束してたのに……」


「別に良いんだよ。あんなの軽いジョークだし」


「そう?でも男のロマンだってあんなに楽しみにしてたじゃん……本当にごめんなさい」


 あたしの知らないところで変な約束しないでちょうだいよ。


「あっ、そうだ夢邦!クナイ持ってるよね。せめて普通に投げるだけでも」


「ダメに決まってるでしょう」


「え~~ケチ……」


「ダメなものはダメなのよ。縁和、お姉ちゃんの約束が反故になって悪かったわね。詫びとして物販で適当なもん奢ってあげるわ」


「いや……別に気にすんなって」


「良いのよ。孫の特権で実質タダで手に入るんだから。ガキは強欲でいなさい」


「ガキって……お前も同い年だろうが」


「ふんっ」


 縁和の野郎、いつもと比べて様子がおかしいわね……心ここにあらずって感じ………


 ふふふ♪ざまーみなさい。


「はーい、皆さん集合して下さーい。今から忍者屋敷の見学を始めますよ~~」


 青色のリボンがトレードマークの副担任である湯鏡先生があたしたちを呼び集めた。二列になって進んでいき、屋敷に入ったところで別々の行動となる。


 今回の課外学習は簡単に言えばこの屋敷の中にあるマル秘情報(おもちゃの手裏剣が貰える合言葉)を手に入れるというアトラクションに挑み、その情報を手に入れた順番を班ごとに競うというものである。


『忍者の秘密を解剖しに初川忍者屋敷にやってきた葉船小学校の良い子たちへ♡

 忍者って言うのは昔にいた情報をゲットだぜするプロで、女の忍者はくノ一って呼ばれてたんだよ。なんでくノ一なのか知ってるかな?女っていう漢字を分解するとくとノと一ってなるでしょうだからくノ一ってなったんだよ。


 今回のマル秘情報も色んな場所に分解して隠しておいたから頑張って見つけてみて、探そうとしていれば答えは後についてくるから頑張れ♡

注意として展示されているクナイとかの刃先は危ないから触らないこと。皆の心生まれた時と同じように、土の上を歩くのを初めて知った時のように、初心な気持ちで気を付けてね。

 君たちは皆何かノ名人です。今日前までに身に着けたそんな力の全部を出して頑張ってマル秘情報を探してくださいね♡』


 配られたプリントを眺めながら一つの確信をする……これ書いたの多分バーバね………まぁどうでもいいけれど。


「さぁ、どこから調べようかむーちゃん、こっちゃん」


「縁和、あんたの直感にまずは任せてみるわ」


「は?俺の??」


「うんっ、私も賛成!!縁和くん頑張って!!」


 あたし達の班は、あたし、お姉ちゃん、龍虎、縁和の四人である。ちなみにマル秘情報を知っているのはあたしだけで、あたしが知っていると言うことさえ他の三人は知らない。


「えっと………そうだなぁ………うーん」


「縁和くん、直感だよ直感!!あっちに行こう、こっちに行こうって直感を教えてくれればいいの!!」


「じゃあ、あっちかな?」


 お姉ちゃんの言葉で決意がついたのか縁和は迷路の方を指さした。(もっとも忍者屋敷の図面なんかはないのでそこに迷路があることなんて知らないだろうけれど)お姉ちゃんは元気いっぱいに歩き出す。


 さて………と。


 あたしはこっそり龍虎の袖を引いて耳打ちをする。


「龍虎、あたしがお姉ちゃんから離れるようなことがあったら任せるわよ」


「え?なに?どういうこと?」


「言葉のままよ。いい?しっかりお姉ちゃんを守ってちょうだいね」


「………うん、了解」


 さて、それじゃあ始めましょうか。楽しい楽しい課外学習をね。



 ~~~~~~~~


 大丈夫だ……何も問題はない……皆無事に終われる……


「縁和、どうしたのよ。気分がすぐれないのかしら?」


「え?大丈夫?」


「夢邦、琴流…大丈夫だ。タフなだけが俺の自慢なんだからな」


「そう?具合が悪かったらすぐに言ってね」


「ありがとう琴流」


 胸が痛む……俺のことをこんなに心配してくれてる琴流を俺は……裏切ることになるんだから。


 昨夜俺は今日の計画について聞かされた。



~~~~~~~~~~~~


 大人の男女二人組が俺に子守歌でも聞かせるようにゆったりと計画を話した。


「初川の忍者屋敷に夢邦が情報を隠している場所があるんだけど、あの女が隠しているだけあってかなりガードが厳しいんだよな」


「で、そんなガードの中で一番難しいのが網膜認証なんだけど、これがさ初川家の人間しか登録されてないらしいのよ」


「網膜認証?」


「ああ、君はそんな難しいこと考えなくていい。要するにだ、初川家の血を引くもの、夢邦か琴流が必要って話なんだけど……まぁ君も知っての通り花染夢邦って女は小学生のくせに隙ってものがない……だから明日俺たちは花染琴流を誘拐する」


「誘拐!?」


 重たい単語に俺の血管が締まっていくような感触がした。


「まぁそんな難しく考える必要はないって、ちょっと身体を借りたらすぐに返すさ。目的を果たした後でまで誘拐し続けるのはリスクしかないからな……で、君にして欲しいことはそのサポートだ」


 男性が女性にアイコンタクトをすると地図が広げられた。その中の一点に〇がつけられている。


「このポイント、私たちが仕掛けと共にスタンバっておくからここに誘導するとともに琴流から夢邦と龍虎を引き離してくれる?」


「そんなのどうやれって……」


「そんなの話があるとか言えばいいじゃない。告白だと思ってホイホイついてくるかもよ」


「そんなわけ」


 俺の反論なんて興味ないと言わんばかりに男性が口を挟んだ。


「ま、やり方は任せるさ。このポイントじゃなくてもいい具合に二人きりになれたら連絡してくれればすぐに向かうから……とにかくそういうわけだからよろしく」


「……もし出来なかったら?」


 ニヤリと嫌らしい笑みが俺を捉えた。


「君は聞かないいいね……ま、穏便にはならない可能性がある………とだけは言っておこうかな」


 生唾を呑み込んだ感覚が酷く気持ち悪かった。


 ~~~~~~~~~~~~


「ぎゃっ!!こんにゃくが!!」


 唐突に落ちてきたこんにゃくに驚いた琴流が弾かれたように俺の腕に抱き着いてきた。気を緩ませていた俺はその勢いに耐えることが出来ず壁に当たる……するとぐるんっと壁が回転して違う道にやってきたではないか。どんでん返しって奴だろうか。


「ご、ごめんね縁和くん……びっくりしちゃって」


「いや、別に全然気にすんな……にしてもここどこだ?」


「……ん?本当だ??もしかして私たち運よく隠しルートに来たんじゃない?やったやった!!マル秘情報もきっとこの辺にあるよ!!探そう!!」


「お、おお」


 興奮しているせいか琴流は全く周りが見えていないようだ。夢邦や龍虎とは今のしかけのおかげで分かれてしまったようだ。


 ドクンッ


 今がチャンス……


「あの辺が怪しくない?ねぇ、怪しくないかな縁和くん!!」


 屈託のない笑みを見た瞬間、美緑の顔が浮かび上がってきた……考えるな……考えるな。


「大丈夫……すぐに解放されるんだ……だから………平気だ」


 そう………平気だ………琴流は絶対に平気だ。


「どうしたの縁和くん!!いこいこっ!!マル秘情報ゲットだよぉぉ!!」


「あ……ああ」


 俺は琴流の顔を見ないように俯いた後、あの二人に連絡をした。


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