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第22話 ドキッ

「あ~~あ、怠いわねぇ……」


 あたしは今一人ぼっちになっている。お姉ちゃん、縁和と意図的に離れ、龍虎があたしの指示に従いお姉ちゃんの近くに行っているから仕方ないことだ。


 あたしの計画通りに進んでいるとしたら…ことが起きるのは多分ちょっと後ってところかしらね…


 あたしは暇つぶしにさきほどもらったプリントを見た。


『初川忍者屋敷にやってきた葉船小学校の良い子たちへ♡

忍者って言うのは昔にいた情報をゲットだぜするプロで、女の忍者はくノ一って呼ばれてたんだよ。なんでくノ一なのか知ってるかな?女っていう漢字を分解するとくとノと一ってなるでしょうだからくノ一ってなったんだよ。

今回のマル秘情報も色んな場所に分解して隠しておいたから頑張って見つけてみて、探そうとしていれば答えは後についてくるから頑張れ♡

注意として展示されているクナイとかの刃先は危ないから触らないこと。皆の心生まれた時と同じように、土の上を歩くのを初めて知った時のように、初心な気持ちで気を付けてね。

君たちは皆何かノ名人です。今日前までに身に着けたそんな力の全部を出して頑張ってマル秘情報を探してくださいね♡』


「バーバもお遊びが好きよね」


 この文は暗号になっている。と言ってもそれほど複雑なものではない。


 漢字を分解したらくノ一になると今時保育園児でも知っていそうなことをわざわざ書いていること、そして日本語の不備があるような場所が散見しているので勘がいい奴なら分かるであろう。


 書かれている文章の探そうとしている答えは後についてくる……このセリフから察するに何かの後ろにある言葉を拾えば答えが出てくるのだろう……で、その言葉は恐らく。


「忍者屋敷だもの、そりゃ忍者よねぇ」


 忍者を分解すれば出てくる言葉は刃、心、土、ノ、日、この文章の中からその文字と次の文字だけを抜き出せば

『刃先』『心生』『土の』『ノ名』『日前』で、刃、心、土、ノ、日を消して順番に読めば……


「先生の名前」


 つまり我らが担任宇賀町先生、そして副担任である湯鏡先生が答えと言うことなのだろう…まぁこんな暗号を解かなくても普通にこの忍者屋敷を探せばこの答えは出てくるだろうけれどね。


「あーあ……暇ねぇ」


 恐らくバーバが作ったであろう暗号を解いた後にあたしは適当な場所に置かれていた甲冑を眺める。その後に時計を確認した。お姉ちゃんと縁和が消えてからもうすぐ5分……


「そろそろかしらね」


 あたしは幽鬼のように足音を消して行動を始めた。


~~~~~~~~~~~~


 そろそろだ………そろそろあの二人がここに来るはず………そして琴流を浚う……でも大丈夫だ、琴流はすぐに解放される。危険なことは何にもない……


「うーん……なかなか見つからないなぁ………縁和くん、それっぽいものはない?」


「いや、全然ないな。マル秘情報ってどんなんだろう?」


「分かんない……うーん……でもこんな隠しルート絶対にどこかに宝物が眠っているもんだよね。あっ、あの宝箱の中とか怪しくない?」


 そして琴流が宝箱に足を向けたその時……


「むぐぅっ!!??」


 どこからか現れた男が武骨な手で琴流の口を塞いだ。そして俺の方に目配せをする。


「むごごぉぉぉむぐぅぅぅ………」


 バタバタと足を動かしているが当然9歳の女の子の力で成人男性から逃れられるわけがない。そして後ろから女性がやってきた、手にスタンガンらしきものを持っている。


「ごめんね、ちょっとの間だけだから」


 そしてスタンガンが琴流の首に向かって行く………その時、琴流の視線が俺を捉えた。


「えnわぐん!!!」


 泣きそうなその顔が俺の心にぐさりと突き刺さる……


 ドンッ!!


「うおぉっ!?」


 あれ?俺……なんで体当たりなんか………何やってんだ…………俺は今何やって………


 俺の予期せぬ体当たりで一瞬面を食らった男性が俺の方をにらんだ。


「はぁはぁはぁ………」


 俺は……なんで。


「お前何やってんだ!!!」


 怒号が聞こえたのと同時にその男性の身体がまるでお手玉のように宙を舞った。男性も何が何だか分からないと言った顔で地面に落下をする。


「んgとh!!」


「貴方達、僕の友達に何をやってるんですか?まさか、こんなところで誘拐?」


「あっ……なんで…どこにいたの?」


「ん?僕のこと知ってるんですか?まぁいいです、取り合えずお二人まとめて捕獲しますね」


 そこにいたのは闇堂龍虎だった。彼は慣れた様子で成人の男女二人を捕獲していく……その時、俺の腰に暖かいものが飛び込んできた。


「縁和くんっ!!」


「こ、琴流……大丈夫か?」


「うんっ、ありがとうね。また助けてもらっちゃった」


 グサリ


 また俺の心に槍が刺さった……俺は何をしてるんだ………俺は何をしたんだ……


 俺は………俺は…………


「気、気にするなって………」


 これからどうなるのか、俺は…美緑はどうなってしまうのか……不安が俺の魂を圧し潰そうとして……


「本当にありがとう、縁和くん」


 ドキッ……


 一瞬、そう、まさしく刹那よりも短い時間で不安感が消えていった。


 代わりに明るい琴流の笑顔が俺を満たした。


「どういたしまして」


 ………覚悟を決めろ、俺。


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