夢邦と琴流が二人並んで龍虎たちの下に向かっていると不意に湯鏡先生が現れ二人に声をかけてきた。
「あっ、こんなところにいたのね二人とも。どう?マル秘情報は見つけられた?」
「まだなの……思った以上に難しくって………」
「あはは、琴流ちゃんなら出来るよ。ファイト!!
ああでも探しているところ悪いんだけどちょっと先生と一緒に来てくれないかな?」
「え?どうして?」
「少しお話があってさ。すぐに終わるからお願い…夢邦ちゃんもいいよね」
こくんと頷いた。
「良かった、じゃあいこっか」
「分かりました。じゃあね夢邦、また後で!!」
二人が去った後残された少女は大きく息を吐きだした。
「ふぅ~~~~~~」
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湯鏡先生の後をついて行くと忍者屋敷とは少し乖離した近代的な扉が現れた。
「先生、ここどこなんですか?」
首を傾げると先生は少し辛そうな顔をした後にか弱い少女の身体を抱えてハンカチを口に当てる。
「ごっ……ばばば…………ぐっ……」
「ごめんなさいね琴流ちゃん…少し寝ていてちょうだい…すぐに終わるから………」
指で目を開けてモニターの前に持っていく、モニターに『認証しました』と無機質な文字が浮かび上がり小さな音と共に扉が開いた。湯鏡先生は扉の中に入り、すぐさま扉を閉める。
「さて……と、早く終わらせなくちゃね」
近くにあったPCを開きカタカタと手早くタイピングを続けていく。一瞬暗転した際、画面に湯鏡先生の微笑みが反射した。
「…多分これね………まったく、なんで私がこんなことをしなくちゃいけないのかしら「そりゃ社畜だからじゃないですか?」っ!!!!????」
あたしはしっかりとモニターに書かれていたものを目に焼き付けた……そして確信する。
「やっぱりそうか……やれやれね」
伯父さんったら……あの時のあたしの判断はやっぱり間違っていたのかしら。
「琴流ちゃん、貴女いつの間に目を覚ましたの」
先生の身体に多大なる虚勢と隠しきれない恐怖心が過ぎっているのを確かに見た。そんな先生をこれ以上怖がらせるのは忍びないと優しいあたしは返答をしてあげる。
「最初っから寝てませんよ。昨日はぐっすり寝ましたし、気付け薬を歯の中に仕込んでましたから」
「……気付け薬……??えっ………ちょっと待って………貴女………琴流ちゃん?」
まったく、困った先生だこと。
「先生に必要なことって色々あるとは思うんだけど……まだ未熟で大人にもたれかからなきゃきちんと生きることも出来ない子供たちから信頼を得るのが大事だってあたしは思うのよね……その点から言うと、先生は最低なことしてるわよ」
麦わら帽子と共に、お姉ちゃんの髪型をあしらったウィッグを脱ぎ捨てた。
「生徒を間違えるとか言語道断極まりないわ。ましてクソガキのあたしと可愛いの化身であるお姉ちゃんを見間違えるなんて……信じられない」
「入れ替わっていた……?」
狭い部屋だというのにあたしから距離を取った、尊敬すべき先生があたしから離れてしまってとっても寂しくなってしまったあたし、花染夢邦は一歩近づく。
「そりゃ、変装はしたわよ。双子だから顔立ちそのものは似ているし、わざわざお姉ちゃんの声になるようにこのチョーカー型の変声器も用意したわよ………だけどそれでも間違わないだろうって予想してたの……なのにこの段階で引っ掛かるとか……本当にもうがっかりよ」
「……ちょっと待って………何それなんでそんな準備を……まさかこっちの計画が……いや今はそんなことどうでもいい」
湯鏡先生はあたしと周りをしっかりと見回す。この場からとんずらするか、それともあたしを制圧するかを迷っているのだろう。
「ナンセンスね」
ここをどこだと思っているのかしら……あたしが長年遊んできた初川の実家……地の利はこっちにあるのよ。例え一瞬であろうと逡巡するのは愚の骨頂。
あたしは地面を強く踏みしめた。すると音を立ててあたしの向かい側にある壁にボタンが現れる。間髪おかずに六角手裏剣を取り出しそのボタンに飛ばして押した。
「なにっ!?」
「先生が考えることはたった一つよ」
瞬間的に先生の床が開いた。当然地球の重力に従い先生は落下していく……うふふ、ドッキリを仕掛けられた芸人みたいに楽しいお顔ね。
「ぎゃぁぁ!!!??」
間抜けなことにあたしが保育園の時、バーバに頼んで作ってもらった罠に引っ掛かった先生を覗き込みながらあたしは柔和に微笑んでやる。
「これからどうやってあたしを悦ばすか……それだけ考えてちょうだい」
「わ……私をどうするつもりなの?情報を搾り取ろうっていうつもり?」
この状況でそんな平凡な疑問が湧き、臆することなく口にするのは笑えるわね。うふふふ。
あたしはその問いに答えることなくただただこれから先生にする楽しいお仕置きを想像して微笑んだ。
「やっぱりストレス解消には敵をいたぶるのが一番よねぇ……
さて、敬愛すべき湯鏡先生。手始めに今からこの穴の中に物を落とそうと思うんだけど触るだけで皮膚に痛みが走るレベルの激辛ソースと硫酸どっちがいいかしら?」
「ひぃっ!!」
「先生の威厳を見せてちょうだいよ」
あー、楽♡し☆み♪
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私は夢邦……私は夢邦………夢邦になるの。
つい先ほど夢邦に連れられ女子トイレに言った際、夢邦に「ちょっとの間あたしと入れ替わってちょうだい。楽しいサプライズを用意しているのよ」と言われ、私は夢邦になった。
夢邦は湯鏡先生とどこかに行っちゃったけど、一人でもしなきゃ……あれ?でもこの状況になっても一人で夢邦のフリする必要あるのかな?でも変装しているししなきゃもったいないかも………
そんなことを考えているとりゅーくんと縁和くんが見えてきた二人は私を見て小走りでやってきてくれる。
「よっす、なんで一人なんだ?」
「えっと……ちょっとお姉ちゃんは先生に呼ばれちゃって………」
思わず夢邦のフリを続けた私の言葉に縁和くんは首を大きく傾げた。
「え?お前……琴流だよな…」
「分かるの!?」
「いや…え?……そりゃ分かるけれど……」
「あれ?え?私夢邦の変装しっかりしてるよね……忘れてた??」
慌てて鏡で確認するけれどやっぱり間違ってない、ちゃんと夢邦の髪の毛をつけてる……
「何でわかったの?」
「いや、なんでも何も……お前とあのクソ生意気な夢邦を見間違えるとかないだろ」
キュンッ
「そっか…えへへ」
えへへへへへ、嬉しいっ♪