夢邦と縁和君が応接間で相対していた。ビクビクしてとっても居心地悪そうな縁和君をなんだか見てられなくて私は縁和君の隣に座る。
「琴流?どうした?」
「大丈夫だよ、縁和君。私が隣にいるから……それで夢邦………さっき縁和君が言ったけれど」
夢邦はイチゴオレを豪快に呑んだ後勢いよくそれをテーブルに置いた。
「お姉ちゃん、別にいいのよ………そいつがスパイだってのはどーでも」
「どうでもいい?」
「ええ、どうでもいいの。それで縁和、話はそれで終わりじゃないんでしょ」
「あ……ああ………」
まだ震えている縁和君の手をギュッと握った。私の方を向いた縁和君を安心させてあげたくて深く頷く。
「夢邦……そのスパイを俺に頼んだ相手なんだが………お前の伯父さんの幸充さんなんだ」
「えっ!?」
幸充おじちゃんが?そんな………
「…………あらそう」
「驚かないのか?」
「驚いてるわよ。ええ、とっても驚いているわ……」
夢邦は軽く息を吐きながら頬杖をついた。
「でもやっぱりどーでもいいわ。身内に馬鹿をするバカがいただけの話よ。
で?そんなどーでもいい話をしにきたの?」
夢邦は全てを見透かしたような瞳を縁和君に向ける。これだ、私にはとても出来ないこの瞳……私と違って探偵としても忍者としてもとっても凄い才能を持っている夢邦にしかできない瞳。
お姉ちゃんとしてとっても嬉しい。
「………お前に俺の妹を助けて欲しいんだ?」
「妹?」
「ああ、俺には病弱な妹がいるんだけど……今幸充さんに保護されてるんだよ……でも………俺はお前につく方がいいと思った……これからはお前の言うとおりにするから……だから、妹を………美緑を代わりに保護して欲しいんだ」
縁和君はとってもエネルギーを使ってそう喋ったようだった。そんな縁和君に夢邦は細い目を向ける。お姉ちゃんの私でも感情が分からない目だ。
縁和君と結んだ手をギュッと握る。
「……ええもちろんよ」
「本当か!!??」
「ありがとう夢邦!!」
「お姉ちゃん、そんなに喜ばないでちょうだい。友達やその妹を守るなんて人として当たり前のことじゃない……だけど縁和、あたしが聞きたいことはやっぱりそれじゃあないのよ」
「え?」
夢邦は私と縁和君の繋がっている手を見ながら口を動かした。
「どうしてそれをゲロる気になったのか……あたしが知りたいのはそこよ」
「な、なんでって……それは………」
「それは?」
チラリと私の方を見た。何かな?と思っていると少し頬を赤らめる。
「琴流に誠実でいたかったんだ……後ろ暗いところを抱えてこれ以上接するのは出来ない……そう思ったから………」
「え、縁和君………」
私の……ため……………かぁ
「そ…そっか……えっと、ありがとね」
どうしよ……なんか嬉しい……にやけてきちゃう。
「いや、俺の方こそ……ありがとな」
すると夢邦クナイよりも鋭い動きで床に置いていた紙袋を取り出し縁和君に押し付けた。
「分かったわ、あんたの気持ちも主張も分かった」
何か言いかけた縁和君の口が動く前に夢邦が再び口を早く動かす。
「さっき渡した札束を裸でもっとくのもなんだから直しときなさい。あと、ついでにこの中にあるもんを伯父さんに渡してくれるかしら?」
「えっ?あ、ああ分かった」
「夢邦、ありがとう!!本当にありがとう!!」
「だから、そんなに感謝してくれなくていいのよお姉ちゃん……話はそれで終わりかしら。ご飯にしましょう」
そして私たちは私が作ったご飯をお腹いっぱい食べた。
ふふふ、幸せだなぁ。
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「ふーん、夢邦ちゃんが僕にこれを?」
「はい」
俺は夢邦から預かったものを幸充さんに渡した。幸充さんは俺が彼を裏切ってしまったことを知っているはずだがそんな素振りはまるで見せず無防備に紙袋を受け取る。
「………これは………ネクタイ?随分としゃれたものをくれるんだ………まぁいいか、それでこれは……」
幸充さんは便箋を取り出した。そこから丁寧に封を破り手紙を読んでいく……すると笑みが浮かんできたではないか。まるで子供が悪戯を思いついた時のような笑みだ。
「ほうほう、なるほどなるほど……ついにこの時が来たか」
「ど、どうしたんですか?」
「縁和君、ありがとう。君のおかげで夢邦ちゃんからのラブレターが来たよ」
そう言って幸充さんは俺に手紙を見せてきた。
『今週の土曜14時、花染家本家の伯父さんの部屋でお話をしましょう。プレゼントしたネクタイを締めてきてちょうだいね。
マザコンに相応しい話を用意してあるわ』