3年前のある日に起こった、あたしのおばあちゃんにして当主である花染國廣の妻、花染文芳の死は当然のことながら花染家に大きな混乱をもたらした。
現場はおばあちゃんの自室、毒を飲んで亡くなったらしくおばあちゃんのすぐ傍には昔爺さんと一緒に作ったというお手製の湯のみが転がっていたという。
苦悶と言うに相応しい表情で死んでいた。未練がたっぷりと残っていると疑いようのない顔で死んでいた。
誰もが口ではこう言っていた「なんてことだ、信じられない」と。
だけどあたしからすればそれは起こるべきして起こったこと、日が沈めば月が昇るくらい当然のことだった。
だからあたしはおばあちゃんの遺体を見た時こう思ったものだ。
「だから花染家は嫌いなのよ」
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ふすまを開け伯父さんの部屋に入る。
「やぁ夢邦ちゃん、待ってたよ」
「ええ、待っててくれて嬉しいわ」
綺麗な唐草模様を描いた畳の上には大量の事件をまとめたファイルやUSBメモリが散乱していた。伯父さんは数年前から愛用しているゲーミングチェアにもたれかかっている。
「姪が遊びに来るのよ。もうちょっと綺麗にできなかったのかしら?」
「ごめんごめん、忙しくってそこまで手が回らなくってさ。
でも、君の為に色々準備はしてきたから安心して夢邦ちゃん」
「それは楽しみね」
あたしが適当なところに座って頬杖をつくと伯父さんは机の上にあったお茶と茶菓子を差し出す。茶菓子の方はどうやらあたし行きつけの甘味処『甘楼堂』のイチゴ大福のようだ。あたしの趣味をよく分かってくれてるようで嬉しいわ。
「ささ、粗茶だけどどうぞ」
「ありがと、でも自分で用意してきたからいいわ」
「警戒しなくても毒なんて入ってないよ」
いつも通りの柔和な笑みでよくそんなこと言えるわね。
「伯父さんからもらう飲み物に警戒をする姪がどこにいるのよ。単にイチゴオレの方が好きってだけ………イチゴ大福の方はありがたくいただくわ」
フォークを使って上品に口の中に入れた。しっかりと舌で味わう……うん、いつ食べても絶品ね……程よい甘みと酸味が口の中で生き生きとしているわ。
「それで夢邦ちゃん、今日は僕になんのようなのかな?ネクタイ着用なんて言われたからお堅い話だったりする?」
あたしは口を拭いて胡坐をかく。
「だったらこんなプライベート極まりない空間に二人っきりになんてならないわよ……伯父さん、貴方まだ気づいていないの?」
あたしは伯父さんに贈ったネクタイを見つめる……あたしが自ら伯父さんの為に仕立てたネクタイを…
だが伯父さんの反応は芳しいものではない。不思議そうに首を傾げる。
「どういうことだい?」
……はぁ………まぁやっぱりこうなったか………仕方ないわね……
「じゃあ良いわ。本題に入りましょう。
伯父さん、貴方おばあちゃんの事件の真実が知りたいんでしょう」
「……」
露骨と言うほどの物でなかったが、確かに表情が微かに動いた。
「隠さないでいいわ。この前忍者屋敷に放った手下がおばあちゃんの事件の資料を盗もうとしていたもの」
「……そんな話は初耳だな」
「すっとぼけなくていいのよ。それで伯父さん」
あたしはUSBメモリを取り出し顔の前で掲げた。
「あたしが解いたおばあちゃんの事件の真実……いる?」