原初この世界には海だけがあった。
そこに星の海を渡って
ユリシアは空を創り星と海を分かつと、星の海に浮かぶ月の一つを砕いて海へと降らし大地を…
ルナリア大陸を生み出すとそこに降り立った。
ユリシアの子ら〈天空の民〉は父を助け、
森を山を河を、そこに生きるものを創造し、導き、穏やかなる秩序を築いた。
だがやがて、ユリシアはふたたび「星の海」へと旅立つことを決め、天空の民もまた、父たるユリシアに従い、この世界を去った。
残された地上の民
エルフは森と海と地下に隠れ、
ドワーフは山を穿ち続け、
人間は平原に小国を築き、争い、滅ぼし、また築いた。
それは、幾千年も続く果てなき混沌の歴史――。
やがて、大陸南方では異界より降臨した女神の導きにより、
民が治める「共和国」が興り、長い平穏が訪れた。
しかし北方では、諸侯が乱立し、麻のごとく乱れ絡み合い、絶えぬ戦が続いていた。
今から百年前――
大陸北方の火山半島に、一人の男が生まれた。名は〈アイゼンハルト〉。
鉄を鍛え、火薬を生み、
知と力と鉄の意志をもって諸侯を屈服させた彼は、
北部を統一し、死後もその覇業は娘に受け継がれ、
ついに中原を併呑し、〈鉄の帝国〉を築き上げた。
人々はアイゼンハルトを太祖「鋼帝」と称え、
その偉業を讃えた。
しかし、統一から十年――
帝国の栄華に呑み込まれてなお消えずに燻り続けた熾火が今、燃え上がろうとしていた。
大陸歴669年 黄葉月/九の月
中央山脈により分断される大陸南部と中原を繋ぐ
唯一の山岳回廊を守護する「共和国の盾」スクトゥム王国に、〈鉄の帝国〉が宣戦を布告。
第三皇子率いる帝国軍が、国境の大河・ドナ河を渡ろうとしていた──