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第5話 底辺テイマーは旅に出る

 俺達がビールを飲みながら食事をしていると、冒険者のグループが店に入ってきた。

 スキンヘッドの筋肉質な大男を中心とした男だけのグループ。大男の名前はドドンガと言い、トリスと友人の男である。

 ドドンガは俺達を見つけると、近づいて来た。


「よう、マックス。デートかい? 珍しいな、お前が女連れなんて」


 ドドンガはそう言いながら、値踏みをするようにシェリルを見て、シェリルを口説き出した。


「よう、姉ちゃん。こんな冴えない男と一緒だと、退屈だろう。俺達と一緒に飲もうぜ!」

「ドドンガさん、ちょっと止めてくれないか?」

「あ!? 何だ? 俺はお前になんて聞いていないんだよ! 底辺テイマーは黙ってろ! おっ? お前、その左腕はどうしたんだ?」


 ドドンガは切り落としてしまった俺の左腕に気がついた。冒険者であれば傷はつきものだが、さすがに欠損までくると戦力に関わるため、みんな気にする。


「ええ、ダンジョンでちょっと……」

「どうせ、お前のことだからドジを踏んじまったんだろう。お前がここにいるって事はトリスもダンジョンから帰ってきてるんだろう。あいつはどこにいるんだ? 一仕事終えた後一緒に飲もうと約束していたんだが」


 ドドンガはつるっぱげの頭を左右に振って、トリスの姿を探した。


「トリスは死んだよ。トリスだけで無く、俺以外の仲間はみんな、ダンジョンで死んだよ」


 俺の言葉を聞いて、ドドンガは笑い始めた。


「おいおい、それは何の冗談だ? 優秀なトリスが死んで、無能なお前が生き残ったと言うのかい? それは笑えない冗談だな」

「……冗談じゃない」


 ガタン!

 ドドンガは俺の襟を掴んで無理矢理、椅子から立たせると、壁に押し込んだ。


「ふざけるな! なんで、お前の尻拭いをトリス達がしなけりゃならないんだよ! お前が死ねばよかったじゃないか! この無能!」

「ち、違う……」

「何が違うんだ! トリスが死んで真実を知る者がいないからと嘘をついたって俺には分かるんだよ!!」


 ドドンガはそう言いながら俺をどんどんと壁にぶつける。

 硬い壁に俺は背中も頭も打ち付けられて、痛みと恐怖が体中を蝕み、言い訳すらどこかに逃げて行ってしまった。


「その手を離せ」


 俺が言いたかったことを代弁してくれたのはシェリルだった。


「うるせえ、このアマ、てめえは後で可愛がってやるからおとなしく待ってろ」

「ワタシが、手を離せと言っているんだ!」


 シェリルはそう言うと、ドドンガの顔を殴りつけた。普通の手ではなく、手だけ本来のシェリルの狼の手で。

 その手はドドンガの体の半分くらいの大きさの上、大きな爪はドドンガの頭を切り裂いていた。

 俺の目の前で、首から上がないドドンガは血を吹き出しながら、床に倒れた。

 何か起こったのか理解できない俺が正気に戻ったのは、いくつもの悲鳴が酒場に響き渡ったからだった。


「なんだ、あの女は魔物か?」

「に、逃げろ」

「ドドンガの敵だ! あの女を殺せ!」

「警備隊を呼べ!」


 悲鳴と共に色々な声が酒場を飛び交う。

 このままではまずい。それだけは俺にも分かった。


「シェリル、逃げるよ」

「え、なんで? 悪いのはこのはげ頭でしょう」

「そうなんだけど、殺したのはやり過ぎだ。人が集まる前に、逃げよう」


 俺は右手でシェリルを引っ張ると、シェリルは不満げながらも素直に付いて来てくれた。

 このまま、俺の宿に戻るという手もあるが、酒場の親父は俺の身元を知っている。警備隊に踏み込まれる可能性が高い。

 金はたんまりある。街を出て、ほとぼりが冷めるのを待った方がいい。

 俺はそう考えると、街の外へと逃げたのだった。


~*~*~


 俺達は宿に戻ることなく、ダンジョンで見つけた宝物とシェリルの服だけを持って郊外に出ていた。

 天には今にも落ちてきそうなほどの無数の星々。

 走って逃げたため、ほてった身体に冷たい風が心地よかった。

 とりあえず、街道から遠く離れた山でキャンプをしながら、俺はシェリルに話しかけた。


「ここまで来れば一安心だ。さて、これからどうするかな? 当分街には戻れないだろう」

「それなら、このままマックスの左腕をどうにかしに行きましょうか」

「酒場でそんな話をしていたな。具体的にどうするんだ?」

「ワタシの古い知り合いにドワーフがいてね。彼女ならどうにかしてくれるでしょう」


 ドワーフ!? そんなものは本当に存在するのか?

 話にだけは聞いたことがある。ずっと地底にいてオーバーテクノロジーな武器や防具を造っていると聞く。

 ダンジョン内で見つかるアイテムは全てドワーフが造っているというが、その姿を見た者はいない幻の存在とされている。

 そんなドワーフの存在を知るものが目の前にいて、会いに行こうと言われて断る冒険者はいないだろう。

 俺もそのひとりだ。


「ドワーフに会ってみたい!」

「じゃあ、まずは彼女の所に行ってみましょう」


 こうして冒険者パーティだけでなく、街まで追放された俺は幻の種族ドワーフを捜す旅に出かけることになったのだった。


~*~*~


 そこは人間など近寄ることなど出来ない魔獣城の一室。

 その部屋には五体の魔獣が集まっていた。

 魔獣とはモンスターの中でも知能も魔力も高い上位種のことを言う。


「シェリルが解放されたみたいだな」

「ああ、あの魔力はシェリルですね。確か、封印の檻に閉じ込められていたはずではないのですか?」

「封印が弱っていたのかもにゃう。仕方がないが、誰かがまた封印をしに行くかにゃう」

「奴も長年の封印で力が弱っておるじゃろう。だったら、封印をするよりも殺してしまったほうが手っ取り早いじゃろう」

「殺して良いのなら、ワシが行こう」


 巨大な蟹がそう言うと、大きなハサミをガチガチと鳴らしたのだった。

 こうして、封印が解かれたシェリルに対して、魔獣の刺客が放たれていく。俺達は世界の運命を決める大きな戦いに巻き込まれて行くことになるのだが、その時の俺達はそんなことに全く気が付いていなかった。

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