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第6話  底辺テイマーは隣街を目指す

 山で一晩過ごした俺達は日が昇ると共に目を覚ました。

 グー!

 俺じゃない腹が鳴る音がした。


「おはよう、シェリル」


 シェリルは目を覚ますと同時にお腹の音であいさつした。

 涼しく爽やかの山での目覚めだが、昨日の酒場での食事の途中で逃げ出した上に、シェリルは長い間食事をしていない。腹が空くのもしょうがない。俺は夜の間に仕掛けていた罠を確認しに行ったが、残念なことに何もかかっていなかった。

 夜の間にモンスターや動物たちが襲ってこなかったのは幸いだった。


「お腹空いたよな。とりあえず食料を探しながら、隣街を目指そう」

「そうね。この時期だと魔柿(まがき)に実がなってるわよ」

「ずっとダンジョンの中にいたのに良く今の季節がわかるな」


 俺はシェリルの言葉に驚いた。確かに今の時期は、山奥にだけ生える魔柿と呼ばれる果物がなる。

 魔柿は柿の一種なのだが、その中に魔力をため込んでいる。そのため、魔法使いたちが好んで食べる。

 俺は灰に砂をかけて、キャンプをあとにした。

 この山を越えるととなりの港街へ行ける。

 俺達は歩き始めた。

 幸いなことにダンジョンに持って行った道具を、そのまま持って酒場に行ったのがせめてもの救いだった。


「おかしいな?」


 俺は一時間ほど山を歩いて異常に気が付いた。


「どうしたの?」

「おかしい」

「なにが?」

「鳥の鳴き声が聞こえない。それに動物の気配もない」


 自慢ではないが俺は底辺テイマーだ。トリスたちと組むまでは、ダンジョン探索だけでは生活が成り立たなかった。その補填に何でもやった。収穫期は農家の手伝い、狩猟時期には猟師の手伝いもやっていた。そのため獲物の発見には自信があった。

 しかし、動物の気配どころか鳥の鳴き声一つしない。

 この山には動物がいない死の山なのか?


「あ、ああ。ごめんごめん、久しぶりで忘れてた! ついつい、楽しくて油断して気配消すの忘れてた。ごめんね」


 シェリルは自分の頭をぽかりと叩いて、ぺろりと舌を出した。

 何だこの可愛い娘は。

 いやいやそれより、今、なんて言った? 気配を消すのを忘れてた? もしかして、昨日の夜からモンスターも動物も見かけないのはシェリルが居たから? そう言えば、こんな姿をしているが、真の姿は巨大な狼だ。そのシェリルを恐れて動物たちは逃げ出したというのか。

 まさかな。たまたま今日、運が悪かっただけだけだろう。


「なんだかよくわからないけど、いいよ。さっさと食べ物さがそう」


 しばらく山を分け入ると、鳥の鳴き声が戻って、魔柿も見つけることが出来た。


「この木って魔柿だな。しかし、まだ実がなっていないな。奥を探してみようか」


 俺が草をかけわけ奥へ行くと、何やら鳴き声が聞こえてきた。

 俺はシェリルに合図をして、気づかれないように移動した。

 食べられる動物ならいいな。俺も腹が減ってきた。

 その動物は木の上にいた。

 それも一匹や二匹ではない。軽く十匹以上は群れでいた。

 白い毛に真っ赤な肌の猿。尻尾が二本あり、その尻尾を器用に使い、木の上にいた。


「あれは、魔柿猿だな。流石にあの数は多すぎるな」


 魔柿猿はその名の通り魔柿を主食にする猿だ。それほど危険性のない動物だが、群れで襲われると流石に危ない上に、木の上から一方的に攻撃されてはどうしようもない。

 俺に左手があれば弓で応戦することも出来るが、片手で扱えるのはクロスボウくらいしかない。しかし、クロスボウでは連射が効かない上に、飛距離も厳しい。

 俺は魔柿猿が立ち去らないか様子を見ていると、魔柿猿は魔柿を食べながら、何やら地上に向かって威嚇をしていた。

 ある者はまだ熟していない固い柿を投げつけたり、糞を投げてつけていた。

 その地上から、魔柿猿に向かって文句を言っている声が聞こえた。


「猿! 柿を分けてよ。そんなにいっぱいあるんだから、一個くらい分けてよ。パパにあげるんだから」


 俺はその声の主を見て驚いた。

 そこには高さ一メートルくらいの薄ピンク色の蟹が叫んでいた。

 右手のハサミは異常に大きく、左手にはカメの甲羅のようになっており、その甲羅で魔柿猿が投げつけてくる物を防いでいる。

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