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第8話 底辺テイマーは漂う厄災に出くわす

「ところで、魔柿猿なんて食べて平気なのか?」


 俺が魔柿を食べているのを、楽しそうに見ているシェリルに聞いてみた。

 猿系は内臓ばかり多く、肉が少ないと猟師から聞いていたのだが、まるごと食べてしまったシェリルには関係ないのかも知れない。


「魔柿猿はごちそうの部類よ。特にこの時期は魔柿を食べて魔力が凝縮されているから美味しいのよ。キモが一番美味しいけど、そうも言ってられないでしょう。本当はもうちょっと食べたかったけど、あなたとあの女をふたりっきりにするのもいやだったし……」

「女? そんなのどこに居たんだ?」

「さっきのクラブジラよ。カサミって言う名前の」


 ああ、女だったのか。

 まあ、シェリルがいない状態で襲われたら、片腕の底辺テイマーなんてイチコロだろう。そういう意味では街に入るまではシェリルから離れない方がいいだろう。


「ありがとうな」


 俺はお礼を言ってその綺麗な銀毛を撫でると、シェリルは嬉しそうに目を閉じて横たわったと思うと、人型になった。


「ちょっと、何してんだ?」


 真っ裸になって膝枕をしているシェリルに俺は慌てた。


「良いじゃない。誰も居ないんだし。今日はぽかぽかして気持ちいいわよ」


 食事をして気持ちよくなったのか、シェリルはそのまま眠ってしまった。

 しょうがなく、俺はシェリルを起こさないように魔柿を食べると空を見上げた。

 確かに今日は天気が良く、暖かな日差しが差し込み、山の気持ちのいい風が吹いていた。

 しかし、俺って本当に何も出来ないな。

 テイムするのもモンスター一匹しか出来ない。その上、強力なモンスターはテイム出来ない。

 テイマーの能力は大きく分けて二つに分けられる。数多くのモンスターをテイム出来るか強力なモンスターをテイムする。強力なモンスターを何匹もテイム出来るのは上位テイマーだ。

 普通、テイマーは何匹もテイムして、状況に合わせてモンスターを使い分けて,モンスター自体を成長させ、強力なモンスターパーティを作りあげる。しかし、そんなことは今の俺には夢のまた夢だった。能力をあげて、複数テイムできるように頑張らないとな。

 そんなことを考えていると、ある疑問が浮かんだ。


「あれ? シェリルって魔獣って言っていたな。モンスターの上位種の魔獣をなんで俺がテイム出来たんだ?」


 普通のモンスターでさえテイムが出来ない俺が、魔獣をテイム出来るわけもない。

 そう言えば、シェリルは俺にテイムされた訳じゃないって言ってたな。

 そうすると今、俺はモンスターを持たないテイマーか?

 全くの役立たずのままじゃないか。その上、左腕までない。

 本当に、この左腕はどうにかなるんだろうか?

 俺は気持ちよさそうに眠るシェリルの銀色の髪を撫でながら不安になる。


「う、うーん」


 しばらくするとシェリルが目を覚まし、すっきりしたように背伸びをした。

 久しぶりの外だろうから、のんびりとさせてやりたいのだが、出来れば今日中に隣街まで行きたい。

 そこに行けば、ちゃんとした食事やお風呂をシェリルに与えてやれる。


「さあ、行こうか」


 そう言って、俺たちは山道を進み始めたとき、空がほんのり暗くなった。

 俺の本能が反応したのか、一気に冷汗が出て、勝手に体が動いた。

 俺は黙ってシェリルの手を引くと木の陰に隠れて、空を見上げた。

 そこには巨大な透明の物体が浮いていた。その姿は空浮かぶ巨大なクラゲだった。

 それが空高く漂い、無数の触手をひらひらとさせていた。


「シェリル、静かにしろ!」


 俺は空飛ぶクラゲを見ながら、シェリルの口を押さえる。

 何も知らない大鷲が、クラゲの下を通ろうとしている。クラゲの触手がふらふらと大鷲に近づくと、大鷲はそれをかわそうとする。しかし、無数の触手の一つが触れると、大鷲は一つ大きく鳴き、しびれたように力が抜けたようだった。すかさず触手は大鷲を絡め取ると、クラゲ本体に運んでしまった。

 生きたまま、身体が動かず、ゆっくりと消化されてしまう大鷲。

 そうして巨大なクラゲは何事もなかったようにまた、ふわふわと去って行った。


「マックス、何するのよ!!」


 クラゲが完全に見えなくなってシェリルの口から手を離すと、開口一番文句を言われた。


「怒った顔も可愛いな」

「茶化さないで!」

「ごめんごめん、さっきのは綺麗な巨大クラゲはデッドハットと言って、かなり危険なモンスターなんだよ。別名漂う厄災とまで言われているんだ。さっき見たように触手にはしびれ毒があり、その上、俺達に手の届かない上空から電撃まで降らすし、毒も降らす。あいつに下手に手を出して壊滅した都市があるくらいだ。基本的に隠れていればこちらに積極的に手を出すことはないから、ああして、あいつがいなくなるのを待っていたんだよ」

「ふーん、そうなの。まあいいわ。でも、これからワタシの口を塞ぐなら手を使わないでね」

「手を使わなくて、どうやって塞ぐんだよ」


 足か? いや足で口を塞げるほど器用でもないし、足の方が汚いだろう。布を使って塞げと言うことか? まあ、その方が汚くないかも知れないな。


「どうやってって……そんなのワタシの口から言わせないでよね。恥ずかしい」


 そう言うとシェリーはどんどん先に進んでしまった。

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