目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第11話 底辺テイマーは魔柿猿のボスに会う

 シェリルの顔は輝くほど可愛らしく、その柔らかそうな唇に吸い込まれるように近づいた時だった。


「大変だ~!」


 どこからか叫び声が聞こえた。それは一人や二人ではない。そして、悲鳴まで聞こえてきた。

 火事か?

 俺はシェリルから離れて声のする方に行くと、そこは猿が人を襲っていた。

 普通の猿ではない。山で見た白い毛に尻尾が二本の魔柿猿。


「なんで、こんな所に魔柿猿が……」


 魔柿猿は魔柿が主食だ。魔柿を求めて群れで山を移動をして、普通は街に降りてこない。

 手に棍棒や石を持って、人々を襲っていた。それは、人間を殺そうとしていると言うよりもただ、嫌がらせのために襲っているように見える。そのため、街の人が反撃をし始めると、屋根を飛び跳ねて逃げて、また別の人間を襲いに行った。


「嫌がらせか? でも、なんで?」

「美味しそうね。ねえ、マックス。あれは食べちゃってもいいのかしら?」


 戸惑う俺の隣でシェリルは魔柿猿を見て舌なめずりをしていた。

 シェリルはさきほどの俺との話の通り、俺に確認を取った。

 その言葉で気が付いた。

 魔柿猿は報復に来たのだ。シェリルに仲間を食い殺された報復。自分達を殺すとこんな報復が待っているから手を出すなと。ならばここでまた、魔柿猿を殺すのは報復を増大させるだけかも知れない。魔柿猿を全滅させるか、この報復を甘んじて受けるかの二択なのかも知れない。

 いや、もう一つ選択肢がある。魔柿猿達の意図を理解した上で、テイマーである俺が出来る事。

 群れには必ず、ボスがいる。そのボスをテイム出来れば、魔柿猿達を山に帰らせる事が出来る。

 そう考えた俺は、シェリルにストップをかける。


「だめだ、あいつらは仲間を人間に殺されたと思い込んで、報復に来ているんだ。ここでまた、殺してしまえば戦争になる。シェリル、ボス猿を見つけられるか?」

「そんなのは簡単よ。ちょっとまっててね」


 そう言うとシェリルは鼻をクンクンさせると、俺の手を引いて駆けだした。

 混乱する街を抜けてある街外れの広場に出ると、そこには七、八匹の魔柿猿達がいた。その中央には一際大きな猿がいた。

 ボス猿だ。


「シェリル、他の魔柿猿をお願い。ただし殺すな」

「了解。でも、難しい事を言うわね」


 そう、魔柿猿は草食であるため、それほど強くはない。シェリルにとって殺さずに相手をするのは骨が折れるのだろう。

 それでも、この騒動を収めるのためには必要なことだった。

 あとは俺がこのボス猿をテイム出来るかどうかだ。


 テイムをする方法は、テイマーによってやり方が違う。その上テイムされるモンスターによっても異なる。

 しかし、最終的にやることは一緒だ。

 テイマーがモンスターに契約紋をつけて契約する。

 違うのはその契約紋をつける過程だ。

 強力なテイマーが弱いモンスターに契約紋をつけるなら、強引に契約紋を取り付けてしまうことで契約が完了する。


 しかし、多くのモンスターは契約紋に逆らおうとする。

 だから、契約紋をつけられても仕方が無いと、モンスターに思わせることが重要だ。

 一つは、力で主従関係を思い知らせて、契約紋を取り付ける。

 もう一つは、モンスターと仲間になり契約紋を受け入れて貰う。

 俺がソナーバッドに行っていたのは後者だった。

 傷ついたソナーバッドを見つけて、治療や看病をして心を交わし、契約紋を受け入れて貰った。

 いま、俺の目の前で威嚇をしているボス猿に俺が仲間だと思わせることは難しい。

 そうであれば手は一つしか無い。実力で主従関係を思い知らせる。


 俺は残っている右手に盾を構える。

 魔柿猿は仲間が殺された報復を考える程度に知能は高い。俺の左手がなく、盾しか持てない事を理解して、馬鹿にしたように鼻をほじっていた。


「そうだ、そのまま油断をしておいてくれよ」


 俺は盾を前にしてボス猿に突っ込んだ。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?