そこは俺達が落ちた所と同じような縦穴だった。
違いと言えば、俺達がと落ちた所よりも深くて、壁が石で出来ている所くらいだった。
そこを魔柿猿達は器用に登って。ダンジョンから出て行った。
シェリルはともかく、片手の俺はここから出られないだろう。
俺はボス猿に尋ねた。
『ちょっと、ここは登れないな。他に出口はないか?』
『他は分からないが、変なところなら知っている』
『変なところ?』
『模様が光っている部屋がある』
模様が光っている部屋? もしかして転移の魔方陣か? ボス猿はあの縦穴しか出入口がないと言っていた。ダンジョン主は空を飛べるのかも知れないが、そもそも転移の魔方陣で出入りしていてもおかしくない。
ボス猿の案内でやってきた部屋には直径五メートルほどの魔方陣が光っていた。
俺がその魔方陣を確認すると、思わず声を上げた。
「やっぱり、転移の魔方陣だ。これで外に出られるぞ」
『主人、良かった。助けて貰ったお礼になるか?』
『ああ、ありがとう。そうだ。もう人里を襲わないと誓えるなら、強制的な主従関係を解除してもいいぞ』
『襲わない。襲っても俺達になにも良いこと無かった』
『約束だぞ』
『わかった。あとこれはお礼だ』
ボス猿は金色に輝く柿を俺に渡してくれた。
『これは?』
『神魔柿。何十年に一度生まれる。珍しい柿。種まで食べられる』
『そうか、ありがとう』
俺がその柿を丸ごと食べると、ボス猿は嬉しそうに目を細めた。
そして、俺はボス猿の背中に回ると、契約紋を解除した。
そうするとボス猿はキーキー鳴いて踊ったあと、俺達に頭を下げてダンジョンの奥に戻って行った。群れに合流するのだろう。
その姿を見て、シェリルは不思議そうに俺に聞いた。
「どうしたの? あのお猿さんは」
「ああ、俺との主従関係を解除したから、群れに戻ったんだろう」
「……つまり、ワタシだけがマックスのものって事で良いの?」
「ものっていうか。唯一のパートナーだな」
「嬉しい! いくらワタシが正妻だといえ、あまり妾が多いと愛情が分散するからいやだったのよね」
正妻って、意味分かっているのか? それにあのボス猿はオスだろう。まあ、いいや。とりあえず、ここから出てドワーフの村を目指さないとな。オックスフォード卿も待っているだろう。
「さあ、さっさとここから出よう」
俺達が魔方陣に入ると、魔方陣は青い光を放ち、その光は天井まで達して円柱状の青い光が完成した。その光は円柱の中を満たすと、五感が消失する感覚が俺を包む。
これまでにも何度か使ったことがる転移の魔方陣に間違いなかった。
ああ、これでこのダンジョンから出られるのだな。
ゆっくりと五感が戻る感覚。
転移が終わったようだった。
俺は目をゆっくり開けた。
「なんだ? ここは」
そこはダンジョンの外ではなかった。
部屋の中。ダンジョンの部屋ではない。かといって、木や石で出来た部屋でもなかった。
三方の壁は真っ黒な金属でてきている。そして扉も、同じような金属で出来ていた。床の魔方陣が点滅して、頭がぶつかりそうな低い天井はぼんやりと光って部屋中を照らしていた。
「名前とここに来た目的を述べよ」
どこからともなく部屋に声が響いた。
俺は思わず、声の主を探してキョロキョロしたが、俺とシェリル以外に見つけることが出来なかった。
もしかして、妖精に騙されているのではないだろうか?
これは返事をしても良いのだろうか? 返事をすることによって、騙されるのではないだろうか。
そんな不安な気持ちで黙っていると、シェリルが銀狼の姿から美しい女性の姿になっていた。
「ワタシはシェリルよ。ランリーに会いに来たのよ。彼女はまだ生きてる?」
シェリルはそう叫んだのだった。