ランリーに案内されたドワーフの里は、驚くべき町だった。
そこは地中の大きな空洞だった。その天井は町を照らす明かりが降り注ぎ、建物は全て金属で出来ている。道は全て自動で動き、乗っているだけで目的地へと連れて行ってくれた。
俺達が案内された部屋でランリーはコーヒーを入れてくれたのだが、お湯を沸かすのに火を使っている気配がなかった。魔法でお湯を沸かしたのかも知れないが、たかだかお湯を沸かすくらいで、魔法を使うくらい、ランリーは魔力が豊富なのだろうか?
俺は思わず、まじまじとランリーを見ていると、人間の姿になったシェリルに太ももをつねられた。
ランリーはそんな俺達を見て口を開く。
「それで、100年ぶりに尋ねて来た要件はなんだ?」
「彼の左腕を造って欲しいの」
「なんだい、藪から棒に。左腕ならついてるじゃないか」
ランリーはコーヒーカップを口に運びながら、俺の左腕を指さした。それはただくっつけただけの、まともに動きもしない鉄の塊の左腕だった。
「これは拾いものでとりあえず、つけてるだけ。ワタシの旦那様にふさわしい、ちゃんとした左腕を造って欲しいの」
シェリルの言葉にランリーは思わずコーヒーを吹き出した。
「ゴッフォ、ゲッヘン、ちょっとまて! 今なんて?」
「拾いものじゃない、ちゃんとした左腕を造ってって言ってるの」
「そうじゃない。この男はお前の何だって?」
「旦那様よ。良いでしょう。えへへ」
そう言って、シェリルはその豊満な身体を俺に押しつけてきた。
幸せそうな笑顔のシェリルと対照的に苦虫を潰したような顔をして、ランリーは俺に尋ねた。
「さっきのシェリルの姿を見て、動揺していないと言うことは、お前さんは当然こいつの正体は知っているんだろうな」
「……シェリルが魔獣だと言うことですか? それは初めて会ったときから知っています」
「ならば、当然、シェリルが"暴食の魔獣"と呼ばれていることも知っているな?」
「暴食の……魔獣?」
「ちょっと、ランリー」
シェリルがランリーの言葉を遮ろうとするが、伴侶に隠し事をするつもりかと言われて、シェリルは黙ってしまった。
「こいつは食欲が旺盛な上に雑食だ。モンスター、動物はもちろん、人やお前達が言うところの亜人。果ては魔獣すら食べてしまう暴食の魔獣。あまりの暴食ぶりに、他の魔獣達から頼まれて、私がダンジョンを造った。そのダンジョンに入ってくる者しか食べてはいけないという制約をかけられたほどに、食い荒らしていたんだよ」
そう言えばシェリルの食欲はスゴイ。それは長年、あの檻に閉じ込められて食事をしていなかった為だと思っていた。
「でも、ダンジョンに閉じ込められるほど、食べるのを見たことが無いんだが」
俺はランリーの言葉に反論した。
そう、確かに食欲が旺盛だが、恐れられるほどではないだろう。
「ほう、シェリル。もしかして、好いた男に大食らいだと思われたくなくて、食欲を抑えているのか?」
「……」
シェリルはランリーの言葉に、恥ずかしそうに真っ赤になってうつむいてしまった。
え! アレで抑えている? 本当に?
「なあ、シェリル。本気で食べようと思ったら、今までの何倍くらい食べられる?」
シェリルは恥ずかしそうに両手の指を立てた。
「十倍!?」
俺の驚いた言葉にシェリルは首を振ってつぶやいた。
「百倍……くらい」
それは暴食と言われて恐れられるわ。
俺はとんでもない人を伴侶にしてしまったのかもしれない。