「そうすると、ずっと空腹なのか?」
長年、ダンジョンの檻に閉じ込められたシェリルは空腹だと思っていた。だからできるだけ、シェリルに食事をして欲しかった。しかし、それがシェリルにとって、我慢した結果だったとは。
「いえ、そうじゃないのよ。食べようと思えば、あの百倍食べられるんだけど、別に空腹って感じじゃないのよ……ねえ、マックスの身体って特別?」
「特別なわけないだろう。なんでだ?」
「昔は食べても食べても、空腹だったんだけど。マックスの左腕を食べてから、耐えきらないような空腹を感じなくなったのよ。不思議よね」
シェリルは不思議そうに俺を見て言った。
そのシェリルの言葉に反応したのはランリーだった。
「お前、自分の旦那の腕を食ったのか!? 暴食とは言え、限度を考えろ!」
「いや! 違うんだよ!」
「違うのよ!」
ランリーの言葉に俺とシェリルは同時に否定して、俺が初めてシェリルと会ったときの事を説明すると、ランリーは納得してくれた。
「何だ、そういうことか。それなら、お前が昔のような空腹を感じなくなったのは分かる気がする」
「どういうこと? やっぱり、マックスの身体が特別なの?」
「まあ、マックスは特別なんだろうな。ただ、身体が特別なんではなく、存在が特別なんだろう」
「……ねえ、ランリー。ワタシの頭が悪いからって、馬鹿にしてる? ねえ、マックス。彼女の言っている意味が分かる?」
俺は首を横に振った。俺の存在が特別? ただの底辺テイマーの俺が特別? そんなわけがない。ランリーはシェリルが言っているように、俺達をからかっているのだろうか。
「分かるわけがないだろう。と言うよりも、俺が特別なわけがないだろう」
俺とシェリルは顔を見合わせて、頭を捻った。
それを見て、ランリーは微笑んだ。
「まあ、良い。君の左腕のことだったかな、その腕は君の物じゃないのか?」
「いや、これはここに来るまでに、見つけたドワーフの死体が持ってた物を貰ってきたんです」
「ちょっと見せて貰って良いかい」
「どうぞ」
それは、金属製の左腕を渡した。
ランリーはそれを色々な角度から見ると、ひと息、ため息をついた。
「悪いが、人を呼んでも良いかい。これを作った者の身内の者だ」
「ええ、それはかまいませんよ」
俺はそう言うと、ランリーは手の平サイズの金属で出来た板を取り出すと、耳に当てた。
「もしもし、ハヤテ。ランリーだ。お前の父のことで話がある。すぐに来れるか? ああ、私の部屋だ。客人を待たせているから、大至急来てくれ」
そう言うと、金属の板を耳から離した。
「それは何ですか?」
「ああ、これか。電話だ。遠くの者と話が出来る機械だよ」
「そう言えば、この町はなんなんですか? 転移陣があったところにいたドワーフも変なボウガンを持っていましたよね」
「ああ、アレか。あれは銃だな。まあボウガンの一種だが、ボウガンよりも威力があって扱いやすいぞ」
ランリーはそう言ってニヤリと笑った。
「威力があるって言ったって、ワタシの毛皮を貫けるほどじゃないでしょう」
「それは試したことがないから分からんが、プレートメイルは後ろまで貫通したぞ」
プレートメールは防御力重視の鎧だ。普通の剣では斬ることが出来ない。
鎧の中にダメージを通すためのハンマーや、鎧同士の隙間を付く細身の剣などで対処するしかないのだが、だいたい、プレートメイルなんて機動性がないものを着込んでいる奴が大盾も装備しているから、めったなことでは倒せない厄介な盾役になる。しかし、動きが遅いため、攻撃面では役に立たず、必ず攻撃役とセットで行動する。そんなプレートメイルを貫通できるとは、なかなかの威力だと言えるだろう。
「あら、試してみる?」
「こんなことで無駄に怪我をする必要は無いだろう」
俺達がそんな話をしていると、一人の男性ドワーフが部屋にやってきた。