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第25話 底辺テイマーはランリーから依頼を受ける

「ところで、沈まない船の件はどうなりましたか?」


 食事をして、お腹が落ち着いた頃、俺は気になっていた事を口にした。

 港街の領主オックスフォード卿からの依頼。漁場にいるモンスターを退治するために必要な沈まない船。

 俺の左腕という個人的な目的とは別の、街の存続に関わる大事な目的。

 ランリーは水を一杯飲むと口を開いた。


「ああ、一応あったぞ。私たちは海なんぞに行くことは無いのだが、研究してる者がいてな」


 そう言って、数枚の紙を取り出した。

 俺にはよく分からないが、何やら奇妙な船が描かれていた。一言で言うならば、ふたつの大きな船を上下にくっつけている。


「これは?」

「沈まない船の設計図だ。アホな人族でも分かるようになるべく簡易化させておいた。それを船大工に渡せば造れるだろう」

「そうですか。ありがとうございます」


 そう言ってその設計図を受け取ろうとした俺が手を伸ばすと、ランリーはひょいと設計図を取り上げた。

 どうやら素直には渡してくれそうになかった。


「えーっと、素直には渡してはくれないのですね」

「まあ、その腕はハヤテの父の遺品を持ち帰ってくれた礼と、シェリルと私の仲なので無償でつけてやったが、ここから先は代償無しで渡すほど私は甘くないぞ」


 ランリーはその少女のような顔を意地悪く歪ませた。


「では、どのような代償を渡せばいいですか?」

「そうだな。お前さんの命とか」


 そう言ったランリーの首にシェリルの右手が伸びていた。


「……と言うと、こうなるわな」


 ランリーは冗談だとばかりに、冷静に答えた。シェリルがほんの少し力を入れるだけで、自分の首の骨が折れるというのに。


「冗談はさておき、今のドワーフの現状から話させて貰おう。話しづらいから手を離してくれ」

「ランリー、いくらあなたでも言って良いことと悪いことがあるわよ。本当にそんな考えを持っているならあ、あなたひとりの命じゃ済まさないわよ」

「悪かった。ちょっと悪乗りをしてしまった」


 ランリーは両手を挙げた。


「シェリル、手を離してくれ、話が進まない」


 俺がそう言うと、シェリルはまるで俺を守るかのように、俺の膝の上に座ってランリーを睨みつけていた。シェリルが落ち着いたのを見て、俺はランリーに話しかけた。


「それで、ドワーフの現状というのは?」

「私達は色々な発明をする事を生きがいにしている種族なので、文明レベルは人族よりもかなり進んでいる」

「そうですね。街の作りを見ても俺の知らない物ばかりですね。そんな、ドワーフ族に何の問題があるのですか?」


 こんなに文明が進んでいて、何の問題があるのか想像も付かない。

 モンスターに襲われたとしても、軽々撃退するだろう。そうするとドワーフ同士の内部抗争だろうか?

しかしそんな事を俺がどうにかできない。とりあえず、ランリーの言葉を待つ。


「ここは、山の中をくりぬいて造られた街だ。それは外敵から守られて、煩わしい他種族との交流をしなくて、発明に集中できる分、食料品が乏しいのだ。そのくせドワーフは酒が好きなので、麦も米も芋も酒にしてしまうんだよ。そのせいで、余計食べ物が少ないんだ。定期的で良いのだが、食料品を売りに来てくれないか?」

「それは普通に行商人に頼めば良いのではないですか?」

「私達は、他の種族との交流を嫌うんだ。お前さんはもう、私達を知ってしまっているし、誰にも懐かなかったシェリルをここまで信頼させているんだ。私はお前さんを信頼することにした」


 信頼。

 今までの俺に縁の無い言葉だった。冒険者仲間からも聞いたことがなかった。無能な俺を仕方が無く、使ってやる。といったスタンスだった。

 俺がドワーフ族の長老に信頼されていると言うことに、単純に嬉しかった。


「分かりました。俺の本業は冒険者だが、できる限りの事はしよう。それでいいか?」

「ああ、今でも飢え死にが出るほどではないから、できる限りで良い。なるべく持ってきてほしいものは、後でメモを渡すから、よろしく頼む」

「では、設計図を渡してもらえますか?」

「もう一つ、条件がある」


 ランリーは人差し指を立てた。

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