俺はひとつ、つばをゴクリと飲み込んだ。
「もう一つの条件とは?」
「簡単なことだ。お前さんは冒険者なんだろう。手に入れた素材を私達に売ってくれないか? この山は鉱物が豊富に取れるのだが、それ以外の素材がなかなか手に入らない。特に生体素材なんかは常に不足している。手に入れたらでいいから、優先的に持ってきて欲しい。素材さえ手に入れば、もっと良い腕も造ってやれるぞ」
「これよりも?」
「ああ、そんな物よりも強力で精巧で繊細で役に立つ腕を造ってやるぞ。今のままだと夫婦げんかしたときに心許ないだろう。私が造った腕ならシェリルなんぞ、ワンパンで倒せるぞ」
ランリーは何度もワンツーをシェリルに向かって繰り出す。
シェリルは腰に手を当てて、大きな胸を張ってフンっと笑った。
「昔も今も、ちび助のお前にワタシが倒せる訳がないだろう」
「フン、昔から何一つ変わらないお前とは違うんだよ。こちらの技術はずっと進化し続けているんだよ」
頭一つ分以上ある身長差でにらみ合うふたりだった。
その姿は本気でにらみ合っていると言うよりも、ふざけ合っているように見えた。
しかし、シェリルをワンパンで倒せるほどの腕。ランリーが大きく言っているとして、その十分の一でも相当な戦力になる。
それに、こんな俺でも、ドワーフ達の頼られるのが嬉しかった。
「分かりました。素材の方はどこまで期待に応えられるか分かりませんが、できる限り素材も持ってくるようにしますよ」
「よろしくな。それと、この街の事は他言無用でお願いします」
こうして、俺は無事に左腕と沈まない船の設計図を手に入れた。
手術後の様子を見るため、数日街に滞在した。
その間、街を見て回って、ドワーフの技術力の高さに驚いた。
山の中をくりぬいた街はここ以外にも上と下にもあり、そこにはエレベーターと呼ばれる昇降機で移動出来る。それは、背の高い建物にも使えて楽に移動出来る。
そして、街中も馬車ではなく自動車と呼ばれる乗り物で動くことも出来る。
しかし、食事に関しては俺達とそれほど変わらなかった。
その分、お酒に関してはびっくりするほど種類も味も豊富だった。しかし、どれも度数が高かった。
それをランリーとシェリルは水のように飲んでいた。
「しかし、お前さんに伴侶が出来るとはのう」
ランリーは何杯目か分からないウイスキーをストレートで飲み干しながら、からかうように言った。
「いいでしょう。あんたはどうなのよ」
「私か? 旦那は三人、子供、孫、ひ孫を合わせて三十人以上の大所帯だよ」
「ふん、なかなかやるわね。でもマックスより素敵な人はいないでしょう」
何かと張り合う二人を見て、俺は気になった。
「二人ってどういった関係なんだ?」