そうして、俺たちはドワーフの街を出る日がやって来た。
シェリルが帰り支度をして、少し離れている時に、俺たちを見送りに来ていたランリーが俺に話しかけてきた。
「なあ、旦那さんよ」
「なんでしょうか?」
「これからもシェリルを助けてやってくれ」
そう言ってランリーは俺に頭を下げた。
ランリーはシェリルの正体も強さも知っている。その上で俺にシェリルを助けてくれと言っている。それは言葉通りの意味ではないのだろう。俺はその疑問を素直に疑問を投げかけた。
「どういう意味ですが? 魔獣であるシェリルが俺のような底辺テイマーの助けが必要だと思えないのですが」
「ああ、助けてくれと言うよりも、救ってやってくれ。私が見るにお前さんと一緒にいるシェリルは救われている。本人は気がついていないようだがな」
「救うって、何をすれば……」
「生きて、彼女のそばにいてやってくれ。そして、たまに撫でてやってやれば喜ぶだろう」
それって今までと変わらないのではないか? しかし、たったそれだけのことにドワーフ族の長老であるランリーが俺に頭を下げるのだろうか? しかしランリーの瞳はまっすぐに真剣だった。
「そんな簡単なことで良いのか?」
「ああ、そんな簡単なことでいいんだよ。頼んだぞ」
「なに? 二人で何を話しているの?」
シェリルが準備を終えて、合流してきた。
それを見て、ランリーは話を切り上げた。シェリルに今の話を聞かれたくないかのように。
「何でも無い。食料の件を話していたんだよ。それじゃあ、またな。シェリル」
「ええ、またね」
あっさりと、久しぶりに会ったであろう二人は別れの言葉を交わし、俺たちはドワーフの街をあとにしたのだった。
俺たちは来た魔方陣は使わずに、別の魔方陣を使って街を出たのだった。
そこは、人里離れた山の中だった。ランリーが説明してくれた内容が正しければ、ここから港町まで約二日ほどの位置らしい。
「よし、急いで街に戻ろう」
「え~せっかく、ふたりっきりなんだから、ゆっくり帰りましょうよ。天気もいいんだからピクニック気分で」
「そうしたのは山々なんだが、これを待ってる人がいるから、急いで帰ろう」
ランリーから貰った設計図をしっかりとバッグに仕舞い、俺は歩き始めた。
シェリルは俺の後を付いて山を下り始めてきた。
俺達は穏やかな山の中、順調に帰り道を歩いていた。
しばらく歩いた後、シェリルが文句を言い始めた。
「ねえ、マックス。お腹空かない? もう、あんなに日が高いのよ。そろそろお昼にしましょう」
帰り道はまだ長い。無理をする必要は無いと思った俺はシェリルの提案に乗ることにした。
俺達はひと息出来る広場を見つけると、耳を澄ませた。近くに水の音が聞こえた。
「シェリル、俺は水を汲んでくるから、枯れ木を拾ってきてくれ」
そう言って俺は一人で川辺に移動したのだった。