そこは俺が思ったよりも広い川だった。
俺はしばらく茂みに隠れて川の様子を見ていた。
これだけ立派な川ならば、野生動物だけでなく、モンスターも水や魚を求めてやってくる可能性がある。
俺は注意深くあたりを確認すると、俺の目はあるところで止まった。
川岸にあるさほど高くない岩の上に横たわる人影が一つ。
溺れて流されてきたのだろうか? それならば早く救助しないとまずい。
そう考えた俺は、周りにモンスターや獣の気配がないことを確認して近づいた。
「なんだ?」
岩の上に横たわる人物の詳細が見えるところまできて、俺は思わずつぶやいた。
髪の毛から足先まで透き通るような真っ白な女性が薄手のワンピースひとつを身にまとい、無防備に横たわっていた。年の頃は二十代後半くらいだろう。長く白い髪を広げて大の字になり、太陽の暑さと川の冷たさを楽しむように素足を水の中につけて眠っていた。
街近くの川であれば驚かなかっただろうが、こんな人里離れた、いつモンスターや獣が出てきてもおかしくないところで、こんな無防備な格好でか弱そうな女性が昼寝をしていては驚かない方がおかしい。
昼寝ではなく、意識を失っているのかも知れない。もしかしたら死んでいるのかも知れない。
そう思った俺は恐る恐る声をかけた。
「君、大丈夫か?」
俺の声に女性は反応しなかった。
俺は静かに近づくと女性の頬に触れてみた。
暑い夏にもかかわらず、ひんやりとしてきめ細やかな肌が気持ち良かった。
「……ん」
女性の長く白いまつげが揺れた。
良かった、生きている。
俺はゆっくりと起き上がる女性に向かって声をかけた。
「おい、大丈夫か? なんで、あなたのような可憐な女性がこんなところにいるんだ? この辺りはモンスターも出る危ない場所だぞ。他に仲間はいないのか?」
「ん? ここって水も綺麗で風が抜けて気持ち良くて、お昼寝をするにはちょうど良いのよ……ところでどちら様?」
女性は岩に腰掛けて、川に足をつけたまま、のんびりと大きな伸びをしながら答えた。
「俺の名前はマックス。仲間とはぐれたのなら人里まで送ろうか?」
「あたしはハットフィールド。長いのでハットンっと呼んでちょうだい。あなたこそ、こんなところで、素敵な男がひとりで大丈夫?」
「これでも一応、冒険者なんですよ。それに相棒も一緒なので」
「相棒? あら素敵ね。あたしはいつもひとりだから」
ハットンは透き通るような爽やかな笑顔を見せた。その笑顔の奥にほのかな寂しさが見えた。それがなんともいえない色気を醸し出していた。
「あなたのような綺麗な女性なら、言い寄る男はいくらでもいるでしょう」
「あら、こんな上から下まで真っ白な女を綺麗といってくれるの? お世辞でも嬉しいわ」
「いや、お世辞ではなく本当に美しいですよ」
「本当に嬉しいことを言ってくれるわね。でも、あなたの相棒が怒るわよ」
そう言って俺の後ろを指さした。