俺の言葉が終わる前に、ミノタウロスの姿はなくなっていた。
銀狼の姿になったシェリルにミノタウロスの上半身はひと飲みされて、下半身はデッドハットの姿になったハットンの触手に絡み取られて消化されてしまった。
「あんた、あたしの足も一緒に食べようとしたでしょう」
「あんたの神経毒だらけの足なんて食べないわよ。ワタシだって食べる物は選ぶわよ」
巨大なクラゲと銀狼はにらみ合ったまま、お互いを罵り合った。
その姿を見た俺は太陽光にきらめくクラゲの身体と銀色の毛をもつ狼をうっとりと見つめていた。
「マックス! あなたも何か言ってよ」
「二人とも綺麗だな」
俺は急に呼びかけられて、思ったことをそのまま口にした。
俺の言葉にハットンはその触手をくねくねとくねらせながら照れたようだった。
そんなハットンを見てシェリルは尻尾をフリフリさせながら叫んだ。
「マックスの浮気者!」
巨大な銀狼の姿のままのシェリルはそう言う俺の奥襟をかんで持ち上げると、ハットンから逃げ出した。
「ちょと、シェリル。待ってくれ!」
「嫌よ。あれ以上、あなたがあの女と一緒にいる所なんて見たくもないわ。このまま、街まで走るわよ」
「街まで? 荷物はどうするんだ?」
「じゃあ、荷物を取って大急ぎで街に行きましょう。あの性悪女は街が嫌いだから、街まで行けば追ってこないはずよ」
そうして、大急ぎで荷物を取ったシェリルは巨大な銀狼の姿のまま、山を下りていったのだった。
~*~*~
シェリルは風のように走り、二日はかかると言われた道中を半日で駆け下りたのだった。
そして、シェリルは人の姿に戻る前に、あたりの匂いを嗅いでハットンが追ってきていないことを確認した。
「なあ、シェリル。ハットンは何で街が嫌いなんだ?」
「そんなの簡単よ。あんな真っ白な人間なんているわけ無いじゃない。だから、馬鹿な人間どもが、やたらと寄ってくるからよ」
「馬鹿な人間ども?」
「奴隷商人とか、下心満載の人間どものことよ」
あの姿を見て思わず、綺麗だと思ってしまった俺も下心のある人間の一人になるんだろうか? 今度会ったときは変なことを口走らないように気をつけようと夕日に誓った。
「ねえ、あたし、いっぱい走ったからお腹すいちゃった」
「そうだな、もう夕方だし、今日はゆっくりと休んで、明日領主のところに行こうか」
「賛成! 今日はいっぱい食べて、ゆっくり休もう!」
そうして、俺達は宿屋に泊まることにしたのだった。