クラウディウスの教育は、より苛烈になった。
クラウスの力が強大であればあるほど、それを正しく扱えねばいけないからだ。
勉強もせず、すぐに感情的になるクラウスを、放置するわけにはいかなかった。
家の当主として、そして軍の頂点に立つ者として、クラウスという"力"を、正しく教育せねばならなかった。
この頃には、クラウスは長男・クラディアンや次男・クラヴィスとも距離が開いてしまっていた。
クラヴィスは――率直に言えば、嫉妬していた。
尊敬する父の時間を誰よりも注がれる弟に、才能溢れる弟に、嫉妬していた。
クラウスを見て、嫉妬する自分が嫌だった。クラヴィスは、弟を嫌いたくなかった。
クラディアンの思いは複雑だったが、クラヴィスの気持ちを汲んだ。
クラヴィスの気持ちが理解できたこと、そして、家を継ぐ者として、将来的に"長男"を支え、スペアとなる"次男"に寄り添うことを選んだ。
クラディアンは、決してクラウスを邪険にしたわけではない。優しく接した。
しかし、二人を選ばねばいけない時は、クラヴィスを選んだ。
クラウスは、優しい子だ。人のことを思いやる心を持つ。
誰にだって手を差し伸べ、誰にも悲しい顔をしてほしくないと願っている。
だから、兄たちに避けられていることに気付いたクラウスは、彼らの背中を追うことをやめた。
自分のせいで彼らが嫌な思いをするならと、構ってもらおうとするのを、話しかけるのを、やめた。
兄弟の間にあった年齢差は、結果として全員にとっての幸いだったのかもしれない。
この時期には既に長男は軍人として働き、次男は軍人学校で学んでいた。
二人ともそれぞれの寮で暮らすようになっていたので、屋敷で過ごす時間は自然と限られていた。
クラウスの優しさや、思いやりのある性質を、周囲は理解していた。
だが同時に、クラウスが「文字が読めない」と声をあげたり机を叩いたりしたことから、恐るべき力を持ちながらも感情をコントロールできない子供だとも判断されていた。
クラウスは、独りだった。
「優しい」といった性質も、クラウディウスから見たら美点ではなかった。
軍人は、時に非情な判断を求められる。だが、現状のまま成長しても、クラウスにはそれができないだろう。
大局を見て他人を切り捨てる選択をせまられることがあると、教え込まねばいけなかった。
クラウディウスは、国のためであれば家族ですら切り捨てる覚悟を持っていた。
軍人とは、軍を動かすとはそういうものだと、アイゼンハルトの人間として育ってきた。そして、長男、次男、クラウスにもそのように教えた。
しかしクラウスだけは、それに頷くことがなかった。
彼には、誰かを切り捨てるという選択は、どうしてもできなかった。
父とは価値観が交わることも、分かりあうこともないまま、クラウスは軍人学校に放り込まれた。
本来、アイゼンハルトの家の者はそこで学ぶような内容はなく、「他の者に背中を見せ、導くように」と言われ入学するものだが、クラウスだけは「必ず学んでこい」と厳命され、学校へと送り込まれた。