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第4話 レオナルドという少年

 シュヴァリエ侯爵家は、長い歴史を持つ同時に、〈血統主義〉として名高い家柄だ。

 才能の宿る血統は宝であり、それを後世に残すことこそが、貴族としての使命であると公言していた。

 理念を掲げるだけでなく、領地経営にも力を注ぎ、潤沢な資産をもって国政に強い発言力を有していた。


 クラウスが生まれる数ヶ月前、そんなシュバリエ侯爵家に、レオナルドという少年が生を受けた。


 生まれ落ちたレオナルドを見て使用人たちは、「天の御使がシュヴァリエ侯爵家に届けたのではないか」と思った。

 それほどまでに、彼は愛らしい容姿の男の子だった。


 レオナルドは、賢い子供で、〈シュヴァリエ侯爵家〉という多くを求められる環境において、常にその期待に応えた。

 


 その結果、幼い頃から貴族としての価値観が深く根付き、何に価値があるかを自然と理解してしまっていた。

 その立場に正しく、家の利益を第一に考え、侯爵家次男としての役割を自覚する、冷静で合理的な少年に成長していった。


 幼少期より、レオナルドは学問、魔術、武術、社交、その全てで秀でていた。

 しかし、それは“才能”だけの産物ではなく、彼の積み重ねた学びと、鍛錬のたまものでもあった。


 レオナルドは自分の才能や能力、立場を正しく認識していた。

 故に、自らに何が足らないか、何を必要とするかを認識していた。

 そして学んだ。本に、人に学んだ。


 常に理論立てて考え、物事の根本から学んだ。

 知識を身につけ、実践に移す。その過程で見出した反省点をさらに深く学び、また実践に移す。

 その繰り返し。


 彼は、ただただ正しく積み重ね続けた。


 生まれ持った魔力量は、侯爵家の中でも優れてはいたが、「圧倒的」と呼ぶほどではなかった。

 魔力の適性に関しては、家門が誇る〈水〉が際立っており、また、〈土〉〈風〉の適性も有していた。

 ――しかし、“天才”と称するには至らなかった。


 クラウスとは異なり、〈土〉も〈風〉も、それを強く引き継ぐとされる血統の者よりも、生まれ持った適性が低かった。


 だがレオナルドは、〈土〉〈風〉はもとより、適性のない〈火〉までも扱えるようにした。

 理論と摂理を理解し基礎を固めると、そこで止まることなく応用に取り組み、既存の魔術を学ぶだけでなく、試行錯誤を重ねていった。

 血統特有の魔術を使えるようになるのは、半ば必然だった。


 武術に関しては、身体的に恵まれていたとは言えなかった。

 すらっとした長い手足を持ちながらも、筋肉が付きづらく、遺伝的にもそれは期待できそうにない。

 シュヴァリエ侯爵家は血統を大切に継承してきたが、それは魔術的素養を強く残したという意味であり、武門とは遠い家柄だった。

 故に代々、武術を厳しく求められる家系ではなかった。


 だが、だからと言って、レオナルドにとってそれは鍛錬をしない理由にはならなかった。


 身体の扱いも、論理的に習得した。

 緻密に計算し、自らの肉体を扱った。

 確かな目的を見据えて訓練をし、結果、繊細な技術を身につけた。

 肉体も、成長を阻害しない程度の適切な負荷をかけ、着実に鍛え上げた。


 また、社交においても、優れていた。

 高位貴族の息子はその将来を見据え、幼少期から他家の人々と関わりを持つことが求められる。

 レオナルドは正しく〈貴族〉であり、政治の重要性を幼くして理解していた。

 故に彼は事前に相手の家柄や政治的な繋がりを確認し、会話では相手の言葉や仕草に注意を払いながら、持ち前の甘いマスクで人と接した。

 常に柔らかな笑顔を携え、柔和な態度を保ちながら、周囲の観察を怠ることもせず、家の利益に資する交流を行っていた。


 そうして「侯爵家の次男」として求められる理想の社交を体現していたレオナルドは、同世代で誰よりも完成された〈高位貴族〉であった。

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