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第7話 触れた優しさ、隠された意図

 ***クラウス視点***


「クラウス・アイゼンハルト君だよね?」


 レオナルド・シュヴァリエと名乗る男は、まるで“ただの同級生”に話しかけるように、穏やかな微笑みを浮かべながら声をかけてきた。


 濃い金髪と、良く晴れた日の空みたいな瞳。

 整った顔立ちだけど人形のようではなく、温度のかよった優しい笑みだった。


 そんなふうに笑いかけてくる奴は初めてで、俺は咄嗟に「おう」としか返せなかった。

 けれどレオナルドは、俺の様子を気にするふうでもなく、「これからよろしくな」と自然な流れで手を差し出してきた。

 握手を求められたのだ、と分かったのは一拍置いてからだった。


 レオナルドはそれからも、俺を“普通”に扱った。

 怯えることもなく、媚びるわけでもなく、ただの同級生として接してくれた。


 俺の顔色が少しでも曇れば、「どうした?」と、責めるわけでもなく、やわらかに微笑みながら顔を覗き込んでくる。

 何かに困っていると「それはこうすればいいんだよ」と馬鹿にすることもなく、そっと教えてくれた。


 なんでも知ってて、頭がいいのに、それを鼻にかけたりしない。

 俺以外の誰に対しても同じだったが、それでも、そんなふうに“普通”に“優しく”接してくれるレオナルドの存在は、なんだかこそばゆくて、あたたかかった。


 優しくて、よく気が付いて、穏やかに笑う奴。


 それが、レオナルドの印象だった。



 ***レオナルド視点***


「軍の名門・アイゼンハルト伯爵家の血を色濃く継ぐ」という評判に、偽りはなかった。

 クラウスは、優れた血統とともに、高い才能と能力を併せ持っていた。その“力”には、好感と興味を覚えた。

 だが同時に、価値があるからこそ、慎重に見極めなければならない“力”でもあった。


 利用できるか。取り込めるか。

 益になるか、害となるか。

 駒として扱えるか、それとも排除すべき存在なのか。

 ――適度な距離を保ちつつ、シュヴァリエ侯爵家に利する形で関係を築いていこう。


 だが、「癇癪持ち」という噂とはそぐわない。

 感情豊かではある。しかし不満が顔に出ることはあれど、決してその苛立ちを他者へぶつけることをしない。

 怒鳴ることも、相手を侮辱するような言葉を吐くこともない。攻撃的な感情は意図的に抑え込んでいるようだった。


 真っ直ぐで誠実――私から見れば『甘い』性質だ。

 感情が表情に全て表れることも含めると、確かに貴族としては落第点だ。

 しかし、だとしても、あのような悪評が流れるほどだろうか。


 威圧感のある――良く言えば野性味を帯びた容貌からそうした噂が立ったのだろうかと思案したが、そのライトグリーンの瞳からは情の深さが見てとれる。

 大きな誤解を生むほどのものではなく、少し話せば、いわゆる『優しい』人間だと気付くだろう。


 まだ見えぬ一面があるのかもしれない。

 より深く、観察する必要がある。

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