入学して二週間ほどが経ち、学生たちが〈軍人学校〉の生活に慣れてきた頃、初めての実技授業が行われた。その授業ではまず、各自が持つ戦闘能力を披露した。武術の技量に加え、魔力を有する者は魔術の能力も測られた。
クラウスの力は、圧倒的だった。
剣術をはじめとする武術、身体能力、そして魔術――。
レオナルドは、このとき、この瞬間、クラウスに魅せられた。
「天才」などという言葉では足りない。息を呑むほどの才能。
そこに在るのは、ただ「圧倒」だった。
「クラウスは自分をはるかに上回る」?
バカを言え。生き物としての格が違う。あれと比べること自体、
才覚を備え、弛まず修練を重ねた自分でも遥かに届かないその背中に、憧れた。これからどれだけ鍛錬を積んだとしても、その延長線上にクラウスはいない。『才能』が違う。
自分とは遠い。距離を測るのも愚かしい。
胸に在るのは高揚、恐怖、憧れ、羨望、そして――圧倒。肌が粟立つのを感じた。
これほどまでの才能だからこそ、周囲は恐れたのだ。その恐れが悪評を生んだ。レオナルドは、そう理解した。
彼は、クラウスとその父・クラウディウスの折り合いが悪いという噂を以前から耳にしていた。また、実際にクラウスと交流する中で、その貴族的でない考え方や振る舞いが、“由緒あるアイゼンハルト家当主”と合わないのだろうと、その噂に納得していた。
だが、クラウスの圧倒的な力を目の当たりにし、「
クラウディウスは、「管理せねば」と考えたのだろう。“化け物”と恐れられかねないその力を、正しく“軍人”に仕立てねばならないと。冷静に判断し、力を振るえる者にせねばならないと。
それが、立場ある者の責務だから。
実際、クラウスの力を目の当たりにした同級生たちが――いや、教師でさえも、彼に畏れを抱いたことが見て取れた。「自分たちとは違う」と、線を引いたのだ。
レオナルドもまた同様だった。
その力を畏れ、クラウスを“化け物”と認識した。そして同時に、胸の奥が炎のように灼かれるのを感じた。
胸元をぎゅっと握りしめ、表にまで溢れ出そうなほどの感動を、必死に押しとどめた。
だからこそ、いままで接したどんな者よりも、いや、想像したことさえないような才能を見て、高揚した。
美しい宝石に出会ったときのような。
素晴らしい芸術品に出会ったときのような。
そんな高揚。
いや、それ以上に尊く神聖で、世界の色が変わったかのような感動。
たとえ教会でステンドガラスの下、神の声が聞こえたとしても、こんなに心は揺れなかった。
――決して届かぬ光に、魅せられた。
こんなに心が動いたのは、初めてだった。