レオナルドは、クラウスという化け物を畏れた。
クラウスという
クラウスという力に憧れた。
——クラウスという光に、魅せられた。
その強すぎる光に照らされ、レオナルドに「貴族令息」として以外の、「ただのレオナルド」としての影が生まれた。在るべきではない、「ただのレオナルド」の感情が形を成してしまった。
クラウスとレオナルドは、軍人学校に入学してすぐ出会った。少なくともクラウスにとってはそうだった。自分にも笑いかけてくれるレオナルドという少年と、入学してすぐに出会った。
けれど、レオナルドから見たら、『クラウス』という少年と『レオナルド』は、きっとこの瞬間に出会った。この瞬間に出会って、絆されて、クラウスを独りにしないでやりたいと思った。
クラウスという光も、化け物も、才能も、少年も、独りにしないでやりたいと思った。
レオナルドは、自らの右手でぐしゃりと頭を掻くと、小さくため息をつき、わずかに緩んだ口元を整え、顔を上げて「いつも通りのレオナルド」を作った。
レオナルドは誓った。光を、翳らせないでやろうと。
実力をつけてクラウスの隣に並び立ち、この天才を独りにしないでやろうと誓った。
クラウスの実力を目の当たりにして、生徒も教師も皆遠巻きになった。遠巻きにならずとも、彼らからの恐れは確かに感じられた。
クラウスは、そうだろうなと思っていたが、心の底では寂しさを感じていた。
しかしレオナルドは、授業の終わりに「今日は疲れたな」と、普段と同じ柔らかな笑顔で隣に並んだ。その表情には、クラウスへの恐れなど一切感じられなかった。
——レオナルドは先ほど感じた、そして今も腹にある「恐れ」も「畏れ」も、「高揚」も「憧れ」も、一片たりとも表に出さなかった。
クラウスは、いつも通りに微笑むレオナルドに驚き、そして、胸の奥がギュッと、温かくなった。