***クラウス視点***
レオナルドは、めちゃくちゃ面倒見がいいやつだ。
だけど、怒らせると怖くてスパルタだ。
皆の前ではそんなことはしないが、俺と二人きりだと「チッ」と舌打ちをして、苛ついた顔をする。なのに、見捨てずに最後まで説明してくれる。
「分からないこと」を「分からない」と言うと、たぶん基礎中の基礎なんだろうな、というところから根気強く教えてくれる。
「分からない」と言わず、ただ頭で「よく分からないな」と考えていると、「何が分からないんだ?」と訊いてくれる。
なんで俺が分かっていないことに気付いたのかを尋ねたら、「顔面に『分からない』と書いてある」と答えられた。そんなこと、初めて言われた。
俺が「分からないこと」がなんなのかすら分かっていないときは、一緒に「何を理解していないのか」を探してくれる。
たぶん、すごく——どころか、ものすごく頭がいいんだと思う。
体術や魔術の勉強をしているときもそうだ。
俺にいろいろやらせて、それを見ながら、ぶつぶつといろんなことを言う。
「どれそれの応用ってことか」とかいろんな公式(だと思われるもの)を呟いたり、この前は「結局、術陣と詠唱を同時に組み込み、両方を省略するのが最適解か?」とか、独り言みたいに考えをまとめていた。
意味はカケラも分からなかったが、すごいやつだなと思った。
***レオナルド視点***
クラウスは、バカだ。
頭が悪いというわけではない。説明すれば理解する。
語彙力が足りないせいか、単語の意味から教えなければならないこともあるが、理解力自体は決して低くない。
クラウスは、「大人しく机に向かえないバカ」だ。
時間をかけて勉強を教えた。テスト前に口頭で問題を出したときには答えられていた。しかし、実際のテストでは及第点しか取らない。
「座ってると集中できないガキ」のようなものなのだろうか。
昔、家庭教師が「そういった子供も存在する」と言っていた記憶がある。当時は自分に関係のない話だと思い、深く掘り下げなかった。今になって、あのときもっと問いを重ね、そういった者への対応策を聞いておけばよかったと悔やまれる。
だが、クラウスは時折、誰も思いつかないような角度から発想を出す。基礎知識が足りないはずなのに——いや、むしろそうだからこそ、既存の「答え」にとらわれず、新しいアイディアを生むのだ。
そういった視点からも、軍人としての「才能」を感じる。……悔しい、と思う。
クラウスはバカだが、すごいやつだ。