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第15話 "理不尽"の強さ

 ***クラウス視点***


 レオナルドは、唯一の友達というだけでなく、思い切り殴り合える唯一の相手になった。

 殴り合うつもりなんて最初は無かったけど、いつの間にか、喧嘩するときには殴り合うのが当たり前になっていた。


 ちょっと揉めて、俺が黙り込みそうになると、レオナルドは「よし、喧嘩するぞ」と構えを取ってくる。

 最初はそれに「えっ」と戸惑ったが、気付いたら、俺の方から「喧嘩するぞ」と言うことさえ生まれた。

 お互い、好き放題殴り合って、言いたいことを言い合って、喧嘩は終わる。


 レオナルドは「人間は脆い」とか「簡単に壊れる」とか言うくせに、平気で危ない攻撃をしてくる。

 ただの喧嘩のときは、まだいい。本気でキレているときのレオナルドは、正直、めちゃくちゃ怖い。

 殴りかかってくる前から、自然と身体が防御姿勢を取ってしまうほどには、怖い。


 レオナルドは血統的に〈水〉の適性が高くて、氷系統の魔術が得意だ。

 だからか、怒っているときは空気が冷えてる気がする。――いや、絶対に冷気を出してる。


 一度、「冷気、出してるよな?」と訊いたことがある。

 そのときは、「あぁ、気付かなかった」と、柔らかく微笑みながら、空気以上に冷えたライトブルーの瞳を向けられた。


 ……それ以来、怖くてもう訊いてない。


 俺の方がデカいし、力も強い。

 だけどレオナルドは近距離戦の技術が高くて、特に絞め技に長けている。というか、最近はそっちの訓練に力を入れ始めた気がする。

 骨格を使えば筋力差もどうとかって言ってた。あのときは完全に“獲物”を見る目をしてたから、俺は早々に逃げた。


 魔術も、どんどん精密で繊細になってきた。

 ある日喧嘩してたら、突然目の前に〈氷槍〉が現れた瞬間は、心臓が止まるかと思った。〈障壁〉が間に合わなかったら、頭の一部が吹っ飛んでたか、失明してたと思う。

 戦術のバリエーションも豊富で、なんだかどんどん殺傷性が上がっている気がする。本当に怖い。



 ***レオナルド視点***


 知ってはいたけど、クラウスはめちゃくちゃ強い。身体のデカさと魔力のデカさは、そのまま強さに直結する。

 クラウスは、おそらく俺の1.5倍弱の体重で、桁外れの魔力量を持っている。


 殴り合って、改めて「才能」という「理不尽」を思い知らされた。


 クラウスの身体が丈夫すぎて、下手をすると攻撃したこちらの方がダメージを負うのが腹立たしい。

 なんで殴られたクラウスがピンピンしてて、殴った俺の拳にヒビが入ってるんだよ。


 一番腹が立つのは、いくら試行錯誤して意表を突いた攻撃を仕掛けても、クラウスの「勘」や「なんとなく」で避けられることだ。

 死角から「これはキマった!」と確信した攻撃を、ヒョイっと躱される瞬間ほど、苛立つものはない。


 今のところは、クラウスの方が強い。身体的にも、魔力的にも、圧倒的に恵まれている。そんなことは、最初から分かり切ってる。


 だけど、俺は負けるつもりで喧嘩はしない。


 だってさ、ほら――それじゃあ、『対等』じゃないだろ?

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