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第17話 共犯で親友、そしてバカ

 ***クラウス視点***


 何があったのかは知らない。

 俺が応急処置をしている間、あいつは壁に寄りかかって黙ってこっちを見ていただけだった。

 あの後、いろいろ落ち付いてからも、特に何も訊いていない。


 ただ、あの冷静なレオナルドが俺以外にキレるなんて、よっぽどなことがあったんだろうな、と思う。

 でも、どうしても知りたいってわけじゃないから、あいつが言わないんなら、別にそれでいい。


 ――だけど、あんなに冷えたライトブルーレオナルドの瞳は初めて見た。


 俺にガチギレしてるときも、ものすごく冷たい目をしてるけど、なんかまた色が違うっていうか……いや、同じ色なんだけど。

 怖いっていうより、一人にしちゃいけない気がした。寂しい気がした。

 俺が寂しいのか、あいつが寂しいのかは分からない。でも、なんか嫌だった。


 気が付いたら、いつも通りのレオナルドに戻っていて、誰かに呼ばれて駆け付けた教師にもっともらしい説明を並べていた。

 絶対嘘だろって思った。――つーか、俺のことについて説明してるくだりは完全に嘘だった。

 だけど「お前は黙って俺の言うことに頷け」って目を向けられたから、黙って頷いた。


 ……あいつは俺に「お前はなんで感情が全部顔面に出るんだよ」って言うけど、あいつの「瞳だけで指示を出せる」方がおかしくねぇか?



 暴力を振るうのは悪いことだ。自分が悪いことをしたって、ちゃんと分かってる。……思い出すたびに、まだちょっと胸がチクっとする。

 だけどたぶん、また同じような状況になったら――あいつがあんな顔してたら、俺は何も考えず手が……いや、もしかしたら足かもしれねぇけど、出る気がする。


 俺は頭が足りないし、たぶん間違ったこともする。だけど――頼りになるやつが隣にいるから、たぶんなんとかなるだろ。


 そもそも、レオナルドが一方的に絡まれるのも気に食わないんだよな。なんであいつばっかりいろいろ言われたり嫌がらせされたりしなきゃいけねえんだよ。


 バカなことやるときは一緒にヤる。

 ――そうだろ? 親友。



***レオナルド視点***


 なんで来たんだよ、お前は。この、バカ。

 しかも、思いっきり蹴り飛ばしやがって。絶対、隣の部屋のやつ驚いただろ。すごい音がしたぞ。

 ……いや、人間ってあんなふうに飛ぶんだな。初めて見た。

 クラウスの蹴りを喰らったときの俺もあぁなってるのか? 改めて思うが、防御と受け身って大切だな。


 訓練内容の見直しを検討するか。

 軍人学校で鍛え上げた肉体をぶっ飛ばすような、バカみたいな威力の蹴りを繰り出すやつとの今後の喧嘩に備えてな。

 受け方を失敗したら良くて骨折、悪くて内臓破裂。下手したら死ぬ。


 ――なんて、な。

 最低な気分で、最悪な時間だったけど、最後の最後でちょっとだけ笑える思い出になった。


 ったく。

 クラウスがそんなだから、「理想の貴族令息」だけじゃいられなくなったんだ。下卑た顔を見てバカみたいに苛立って、思わず手を出しちまった。

 前までなら、嫌悪感なんかで殴ったりしないで、もっと冷静に潰せてたんだけどなぁ。


 教員への言い訳やら、周囲への根回しやら。後始末に手間がかかった割に、屑を独り潰せただけ。得られたものが少なかった。

 せっかくなら、他のごみ共も巻き込めればよかったんだが……カッとなったのが良くなかったな。


 テメェで自覚があるくらい好戦的になった。

 物事に苛立つようになったし、"ストレス"って言葉が身に染みるようになっちまった。

 ――問題は、そんな自分が嫌じゃないってとこなんだろうな。


 なぁ、クラウス。

 情に厚くて、自分の利益のために動けないなんて、本来、貴族としては失格なんだぜ? 他人の揉め事なんか、どうやったら自分の利益に変えられるかを見てりゃいいんだよ。


 だけどまぁ、お前は首を突っ込んじまうんだろうな。理不尽を放っておけない、お人好しめ。


 ――仕方ないから、尻拭いくらいはしてやるよ。親友。

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