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(小話)くだらない会話

 クラウスの初めての帰省から、ひと月と少し経った頃のこと。彼のもとに、一通の便箋が届いた。マルグリットからだ。


 中には、一枚のカード。

 そして、たった一言――「誕生日おめでとう」。


 クラウスはそれで、そういえば誕生日だったな、と思い出した。


 あのレオナルドに連れられて帰省した日の夜、母と二人で茶をした。その後も実家に連れ帰られたときに、何度か。


 そのおかげで、軍人学校入学前よりも、気持ちを近くに感じるようになった。


 あの時間があったから、母はいつもの分厚い手紙ではなく、今回はカードだけを選んだのだと思う。


「ありがとう」くらい返事をした方がいいのだろうか。

 クラウスは机の上にカードを置いて、うんうん唸った。


 ちょうどその様子を見かけたレオナルドが、クラウスに声をかける。


「どうかしたのか?」


 そして、クラウスの前にあるカードを見て「誕生日なのか?」と訊いた。


「おう」

「へぇ。ようやく十五歳か」

「ようやくってなんだよ」


 むすっとしながら問い返すクラウスに「そのままの意味だよ」とレオナルドは軽く笑った。

 その表情は、同学年のクラウスを「ガキ」扱いしているようだった。


「……お前は?」


 不貞腐れた顔のまま、クラウスが訊く。レオナルドは「ん?」と返した。


「誕生日だよ。もう十五なのは知ってるけど、いつが誕生日だったんだ?」

「十二月」

「ふーん」


 興味ないなら訊くなよ、とレオナルドは笑った。

 出会ったばかりの頃よりも、表情が朗らかになった。クラウスはそう感じた。


「ま、せっかくだ。今度飯奢ってやるよ」

「たかだか数ヶ月先に生まれただけで、偉そうだな」


 くだらない会話。

 こんなやりとりが――この関係が、大人になっても続くんだろうな。

 クラウスはなんとなく、口元を緩めた。

 理由はよく、分からないけれど。

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