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第13話 「奇想天外」



次の日の朝。


透が村の外れで身体を伸ばしていると、信じられないほどの“歓声”が飛び込んできた。


「いたぞォ!!人間のにーちゃんだ!!」

「ぎゃああああっホンモノだーっ!!」

「俺の娘が命拾いしたんだぞ!?握手!握手!!」


わらわらと集まってくる獣人たち。

角のある者、鳥の翼を持つ者、虎のような尾を振る者──種族も性格もバラバラなのに、その全員が、今は透を見て笑っていた。


「えっ、ちょ……いや、ちょっと待て、距離感!」


一気に囲まれ、次々と手を握られ、何故か小さな子供に肩車までされる。

感謝の言葉、礼の品、涙ながらの握手。

まるで、村の英雄。


「ちょっと、そんな大したことしてねーっての……」


困惑しながらも、透の表情にはうっすらと笑みが浮かんでいた。

認められた。

あのときの恐怖や痛みが、少しだけ報われた気がした。




「ほっほっほ……どうやら人気者じゃな」


その賑わいの中、ガルドが現れた。

足には分厚い包帯が巻かれ、獣人たちに両肩を支えられている。

それでも、威厳ある村長の声はいつも通り、落ち着いて響いた。


「わしも命拾いしたわ、あそこでお主が立ち向かうとはな…」

「っつーか……その足、大丈夫か?」

「まぁまぁと言ったところじゃ、まだ引きずるが、立てる。問題はない」


そう言って、ガルドはふっと声を落とす。


「それと──ギルメザがお主に話があるらしい」


「え?」


その瞬間。


「おいコラァアアアアア!!!!!」


遠くから響き渡る、耳が痛くなるような怒声。

振り返ると、銀色の小さな影が、信じられない速さで突っ込んでくる。


てちてちてちてちてちてち!!!!


走ってくる音が擬音で聞こえそうな勢いだ。

尾びれには包帯がぐるぐる、顔には絆創膏が3枚ほど貼られ、片目に至っては絆創膏で半分隠れている。


「てめぇばっかヒーローみてぇな顔しやがってぇ!!!」

「は!?」


ギルメザは叫びながら、透の胸ぐらを掴んだ。

……が、身長が低すぎて、掴んだ場所は腹の下あたりだった。


「オレだって強ぇんだぞ!! あのときは……あのときはちょっとタイミング悪かっただけで……! ま、まぁオレが動いたら逆に村が破壊されちまうって判断して、あえて動かなかっただけで……!」


完全に言い訳である。

透は眉をひくつかせながら、ギルメザの“虚勢”を聞いていた。


「……あー……それで、話ってのは?」

「決まってんだろ!! オレも連れてけぇぇぇ!!!」


「は?」


ギルメザは大きく鼻息を荒げ、地面をドンと蹴った。


「てめぇだけが目立ってんのがムカつくんだよ!オレも冒険して名を上げて、いつか王様になってやる!!」

「お前数日前まで……」

「うっせぇぇぇ!! 今の話してんだ今の!! オレは変わった!!」


よく見ると、包帯の隙間からちらっと覗く小さな歯が、妙にギラギラしていた。


「お前が一人で旅してまたなんかピンチになったら、オレが助けてやる! そういう流れだろ!? そういうのが“相棒”ってやつだろ!?」


完全に自分で都合よく話を組み立てたギルメザは、拳を突き上げる。


「つーわけで、オレも行く!!ついて行くからな!! 拒否権はねぇ!!!」

「お前なぁ……」


「じゃあ! 今夜出発しようぜ! な? 村の奴らが泣いて止めても、オレたちは颯爽と旅立つんだよ! ……で、旅の途中でなんか大きな奴が現れて、お前がやられそうなところを……オレが助ける! カンペキだろ!」


ガルドが遠くから肩を揺らして笑っていた。

「元気になったようでなにより」という意味だろう。


透は大きくため息をついた。


「……わかったよ。ついてきたきゃ勝手にしろ」

「ふははは!! じゃあ今からオレは“勇者”な!! トオル、お前は“その仲間”だ!!」


「いやいや、普通逆だろ?」


「細けぇことはいいんだよ!! あ゛ぁ!?」


◇ ◇ ◇


──出発の朝。

村の中央。

かつて透が十字架に括り付けられていたその場所に、今は亜人たちがずらりと並んでいた。空は雲ひとつない晴天で、空気も澄んでいた。だが、旅立ちを控えた透の胸中は、晴れとはほど遠い。


原因は隣にいる“チビ”。


透は視線を落とす。自分の腰あたりまでしかない、小さな亜人──ギルメザが、誇らしげに胸を張って立っていた。


身長、約110センチ。

見上げる必要のないサイズのくせに、態度はとにかくデカい。


 「あ゛? そんくらい当然だろ、トオル。俺はなァ!!生まれついての超戦闘種族なんだよ!」


ギルメザは声を張り上げる。口の端には絆創膏、尾には包帯。やんちゃキッズのテンプレみたいなビジュアルで、ずっと喋ってる。


(いや、俺の方が絶対修行量は多いんだけど……。)


思わず苦笑する透をよそに、ギルメザは勝手に話を進めていく。


「それに俺のパンチ、一発でイノシシ吹っ飛ばせるからな! お前あの盗賊の時マジでビビってたし? 俺がいれば百人力だぞ!」


「……お前いなかったよな? あのとき。」


「うっ……け、ケガしてたし!!」


あからさまに誤魔化すギルメザ。明らかに図星を突かれて動揺していた。


それでも口だけは止まらない。


「てめぇだけ目立ってんの、腹立つんだよ! いいか!? 俺も強えーってとこ見せてやっからな!!」


 「……ついてくる気満々かよ」


 透は呆れて空を仰いだ。

 その横で、ギルメザは今度は村の大人たちにむかってイキり始めていた。


 「よーく聞いとけよお前らァ!この俺様、ギルメザ・ザッハーク様が、いまからこのひよっこ人間を連れて修行の旅に出てやるんだ! 俺がいれば無敵だぜ!! って、何無視してんだよ!!おい聞けよオラ!!」


 「ははは……元気だな」


 村人たちの目線は優しかった。最初はあんなに人間を拒絶していた彼らが、今では見送りに集まってくれている。透は軽く頭を下げ、ギルメザの後ろから馬車へと向かった。


 ──もちろん、ギルメザも飛び乗ってくる。


 出発の合図がされ、馬車がゆっくりと動き出す。

 荷台の木の床が軋む音、車輪が土を踏む音、そして──。


 「おいトオル! なぁトオル!!次行くとこって戦えるやついんのか!?なぁなぁ!なぁってば!!」


 「……はあ」


馬車の中が一瞬で騒がしくなった。

鳥のさえずりも、風の音も、まるでかき消されるかのように。


「俺が強えーってとこ見せたら、今度こそみんなビビるだろ!? なぁ!? 俺が敵のアタマかち割ってやっからさ!」


「……せめて静かにしてくれ。今、五秒だけでも」


「ふざけんなよ!!俺喋んの好きだし!」


──この先が思いやられる。


透は額を押さえながら、ギルメザの喚き声をBGMに、北へと向かう馬車の揺れに身を委ねた。


色々話し合い、『水中都市』とやらに行くことにした。


その道中、ドワーフの村に立ち寄ってみることに。




◇ ◇ ◇



ドワーフの村は、岩山を削って築かれていた。


 石畳の道、燻る炭火、鉄と油のにおいが鼻を突く。どこもかしこもトンカントンカンとハンマーの音が鳴り響き、重々しい鎧に無骨な大剣を背負ったドワーフたちが歩き回っていた。小柄だが筋肉の塊みたいな連中が、見た目にもわかるほどの職人気質を醸し出している。

 ──そんな村の真ん中に、透とギルメザはいた。


「ちっせぇクセに偉そうに歩いてんじゃねぇよ、短足ゥ! オイ、てめぇ! そのツラで鍛冶とかギャグか!? バーカバーカ!」


 ギルメザが全方位に暴言をばら撒いていた。


 村に足を踏み入れて五分も経たないというのに、すでに周囲からの視線が痛い。ドワーフの眉間が軒並み寄っている。


 透は思わず頭を下げた。


「ほんと悪い…!!……アイツ口悪いだけなんで、許してやってくれ!!」


「てめぇもなんか言えよなぁトオル! 黙ってねぇで! お?なに?ビビってんのか?」


 ギルメザはどや顔だが、すでに四人くらいのドワーフに取り囲まれていた。


「おい……あのガキ、もうひと吠えしたらブーツの裏で黙らせていいか?」


「先に鼻を潰そうぜ。口が悪ぃんじゃねぇ、鼻の穴がデカすぎるんだ」


「こいつ、ウチの娘に似てる声してるな……ぶっ飛ばしても問題ねぇよな?」


 物騒な会話が聞こえてきて、透は慌ててギルメザの口を塞いだ。


「お前マジで黙れって!!」


「んぶぶー! うごごご!! は、はなせぇーっ!」


「もうほんとに………はぁ……ちょ、ちょっとだけ見てもらいたいモノがあるんだけどいいか?コレなんだけど」


 トオルは荷物袋から、一本の剣を取り出した。


 それはルクスから譲り受けた剣──見た目は質素で黒ずんだ鉄剣。しかし、その重心、光沢、鍔の刻印。どれも尋常ではない造りをしていた。


「ん?」


「……こ、これは……?」


 ドワーフたちの目が、剣に吸い寄せられる。


 その場にいた鍛冶師の一人が、わずかに震える手で剣を受け取り、じっと観察し──突然、叫んだ。


「バ、バカなッ……この均整、この重み、この鍔……いや、まさか!? 刃の内部構造が二重になってる!? 何人で鍛えたんだこれは!? ありえんぞ!?」


「芯に使ってる金属、これ、七等級精鉱じゃねぇか!? 普通は国家備蓄に回されるクラスだぞ!! しかも無加工のまま!? 何考えてんだこの製造者ァ!!」


「やばい! これ手元に置いてたら震えが止まらん! こんなもん握ってたら一週間は酒が飲めねぇ!!」


 そこからはもう、地獄絵図だった。


「ちょっと見せろ!」「俺に持たせろ!」「解体させろ!」「叩かせろおおお!!」


ドワーフたちが我先にと群がり、もはや喧嘩寸前。ひとりが剣を持てばもうひとりが奪い合い、地面に転がった拍子に誰かが殴りかかり、さらに別の誰かが泣き始める始末。


「ちょっ、おまっ、マジで返せよ!?」


「これはなァ……! 剣じゃねぇ! もはや芸術!! 否、神の細工だ!!」


「ハンドルの革巻き、なんだこの肌触り!? マジでカビ生えてるのか!? あ゛あ゛!? 職人の境地かよオイ!!」


もはや何がどうなっているのか分からない混沌の中、ギルメザはぽかんと口を開けて立ち尽くしていた。


「……おい、トオル。てめぇの剣でなんでこいつら発狂してんだ?」


「知らねーよ!! ……でも多分ルクスがくれたコレ、やっぱヤバいやつだったんだな……」


 改めて、もらった剣の重みを感じた瞬間だった。







ドワーフの村を離れるとき、トオルは一抹の不安を感じていた。


「……なんか後ろまだ騒いでね?」


「ぎゃああああ!! 見せろおおお!!!」


「ワシが一番詳しいんじゃああ!!この角度じゃああああ!!」


「いやちょっと待って!? 返して! マジで! それ俺の!!!!」


 村の奥から、怒号と悲鳴がこだまし続けていた。


 それを背に、トオルたちは早々にドワーフの村を後にした。剣はなんとか回収したものの、帰り道までずっと「ちょっとだけいいですかァ!?」という鍛冶職人の猛追が続いていた。


「……アイツら、剣に魂持ってかれてたぞ……」


「なんだよ、あのドチビども。短気かよ。あーしんど。てめぇのせいだぞトオル」


「いやお前が口開かなきゃまだ平和だったからな」


 そして数時間が経ち、陽が傾き始めた頃だった。


 道の脇に、チロチロと橙色の光が揺れていた。


 焚き火だ。人の気配がある。警戒を強めながら近づいていくと──そこには信じられない光景が広がっていた。


 焚き火の前で、体育座りして暖をとっている人物が二人。見覚えが、ある。


 ひとりは、艶やかな赤紫のドレスにハットとマントをまとった、どこか妖艶な雰囲気を纏う女性。目の下の涙のマークと、手にした紫水晶の杖が印象的だった。


 もうひとりは、深く被ったフードからのぞく気弱な少女。目は伏し目がちで、ぴったりと胸元にうさぎの人形を抱きしめていた。


「……メルセデリアと、エンリカ……?」


 思わず呟いたトオルの声に、ふたりがゆっくり顔を上げる。


「あら、ごきげんよう。まさかこんな場所で再会するとは……運命めいたものを感じますね」


 メルセデリアが優雅に微笑む。


「ひ、人違いだったら、ど、どうしようかと……おも、思ったんですけど……よ、よかった……あぅ……」


 エンリカはモジモジと身を縮めながら、トオルの顔を確認して小さく安堵したように頷いた。


 そのときだった。


「は? おいおいおいおい……なんだその変な格好。ドレス? なに? なんで外でそんな風に座ってんだよ。もしかして……道端のおかしな奴らじゃねぇの!?」


 ギルメザだった。いつものように透の横からズイと出てきて、仁王立ち。


「てめぇら! オレ様が誰か分かってんのかァ!?この弱っちい人間と旅を共にしてる最強亜人、ギルメザ様だぞ!? ……なに黙ってんだよオラ!」


 メルセデリアは静かに目を伏せ、口元を軽く拭うようにしてから立ち上がった。


「ふむ。お騒がせな御仁ですね。品位という言葉をご存知ない?」


 「え? な、なんだよお前……」


 透はひとつ深呼吸して、ギルメザの肩を叩いた。


「おい。お前が今吠えた相手、魔王軍の幹部ふたりなんだけど」


 ギルメザの顔が、みるみる青ざめていく。


「……は、あ? え、え、今なんつった? ま、魔王軍……?」


「そう。あれが“メルセデリア”。で、あれが“エンリカ”。ふたりとも、ステラ直属の魔王軍幹部」


「…………」


 ギルメザ、硬直。口も動かない。


 エンリカがそっと言葉を重ねる。


「わ、わたしたち……魔王様の命令で、トオルさんを追っている9人の調査を、してました……」


 メルセデリアは杖を地面に突きながら、透へと目を向ける。


「詳細は少し先でお話ししましょう。ですがひとまず…亜人様、ご安心を。私たちは“味方”ですよ」


 ギルメザはカタカタと口を開いたが、何も言えずにそのまま体育座りした。


 小さく、「……だって誰も教えてくんねぇし……」と、うなだれるその姿は、まるで反省中の子供のようだった。





 チリ……と空気が震えた。


 メルセデリアが杖を軽く振ると、焚き火の周囲に、うっすらと紫の波紋が広がっていく。空気が凍ったかのような静寂──音も風も匂いすらも遮断された「世界」が出来上がった。


「……今のうちに話しましょう。トオルさんに関係する、あの“9人”のことを」


 メルセデリアの声が響く。音のない空間に、その優雅で静かな声だけが通る。


 透は息を呑んだ。


彼女たちが言っている“9人”──それはバルマレオを圧倒し、なぜか透を狙っている狂気の存在たち。


「彼らは…あぁ、知恵の使徒様に説明されたんでしたっけ…ではそこは省きます。…コホン、元は古代の魔素理論を実験するために生み出された“災厄の素材”だったとも、あるいは何かの封印を解いた結果現れた存在だったとも……出所は定かではありません。ただ、明らかなのは──“規格外”であること」


 メルセデリアの瞳が一瞬だけ鋭くなる。


「私たちが追っているその“9人”──それぞれ名前も、固有魔法も、性格も異なります。少し整理して説明します」


 杖を地面にトンと立てると、焚き火の中央に小さな魔法陣が浮かび上がり、そこに淡く光る9つの“影”が現れた。





◆【識別された“9人”の一部】


●【カイム・ギアノット】

・性格:狂気。理性が欠落している

・固有魔法:《絶叫爆砕《ボイス・ブラスト》》:声の震動で物理を砕く。咆哮そのものが武器。

・年齢:不明(肉体年齢20代前半程度)


●【レリス・カーヴァ】

・性格:快楽殺人者。やたら明るく異常に親しげ

・固有魔法:《血流操作《ブラッド・パペット》》:他者の出血から神経を操作する。

・年齢:15歳(外見)


●【ゾルド=マイデス】

・性格:哲学者じみた沈着な殺人者。魔法学の狂信者

・固有魔法:《量子再構築《コア・リライト》》:魔素の構造そのものを再調整し、空間や物質を変質させる

・年齢:不明(数百歳と推測)


●【ユスティア=エイル】

・性格:無表情。殺人を手段としか思っていない

・固有魔法:《一閃抹消《フラッシュ・ヴァニッシュ》》:一太刀で物理存在を“光”として拡散させる

・年齢:22歳


●【カローナ=ディルフ】

・性格:ただ笑っている。言葉も意味もない

・固有魔法:《笑声呪縛《ラフ・コントロール》》:笑い声を聞いた者の神経信号を乗っ取る

・年齢:不明




「……え、ちょ、ちょっと待て」


 透は眉を寄せた。


「……その5人って……バルマレオのこと潰しかけた奴らだよな?」


「ええ、そうです。ですが今回戦ったのは私たちです」


 メルセデリアが言った直後、透はギョッとした顔になった。


「ちょ、おい……!? その中の5人と戦ったって、お前ら、マジで生きて帰ってきたのかよ!?」


 驚愕。


 透にとって、あの“9人”は完全に別格の存在だった。

バルマレオを簡単に殺しかけたあの“悪意の塊”と、こんなふうに、何事もなかったかのように目の前で話している二人が戦った──それも、5人も?


「……ありえねぇって……だって……」


「メルセデリアが2人、私が……3人」


 エンリカが、抱えたうさぎの人形をぎゅっと強く抱きながら、ぽつりと呟いた。


「……は?」


 透は口を開いたまま固まった。


 信じられなかった。あの気弱でおどおどした少女が、3人も相手に? どうやって? どうやって──


「……そ、それで……わたしの魔法……ですけど……」


 エンリカはそっと、左手を上げた。


 瞬間、空から糸のような光が降り注ぎ、透の前に魔法陣が広がった。


「──《操糸傀儡(トリリオネット)》」


 淡く輝く魔法陣の中から、ひとりの“姿”が浮かび上がる。


 それは──魔王、ステラ・アジャンスタの姿。


 表情も、髪の流れも、細部まで完璧に再現された“人形”。


 ただし動きは滑らかでも、喋ることはなく、魂がないことが明白だった。


「わ、わたしの魔法……“親しい人の人形”を出せる魔法なんです……」


 上空に出現した巨大な“手”から糸が降り、人形と繋がれている。操っているのは彼女──エンリカ。


「他にも……ハロックさん、ハレビアさん、メルセデリアさん……いっぱい、あります……。こ、固有魔法も……使えます……た、たぶん……本人よりちょっと弱いですけど……」



 透は目を見開いた。


「な、なんだそれ……やべぇって……お前、そんな魔法使えるのに、なんでそんなにビビリなんだよ……」


「び、びびっ……てません……ちょっとだけ……慎重なだけで……」


 うつむいて、顔を隠すようにエンリカが口ごもる。


一方その頃、ギルメザは結界魔法の外で

木の棒を使い地面に「オレつよい」などと書きながら遊んでいた。


「うおお! てめぇこのやろーッ! 魔法剣!! ぶっ放し斬りぃー!!」


 (……ぜってぇ会話聞いてねぇな、あいつ)


 透は呆れたように目を逸らした。


 空気と音が絶たれた世界の中、焚き火の光がゆらゆらと揺れる。


 メルセデリアが小さく微笑みながら、口を開く。


「──さあ。ここからが、本題です。あなたに伝えるべきことが、まだ残っていますから」

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