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第6話  異世界神殿は妖精の香り




「サルディネーラ!」




 神殿は街の中央広場正面に建っていた。そこそこ大きな建物――神殿というより教会みたいなイメージの建物――で、入り口には大精霊のシンボルらしきレリーフが飾られている(牛と蛇と鳥が合体してUの形になったような謎モチーフ)。入り口から足を踏み入れると、神官と思しき女性がこちらに気付いて挨拶らしき言葉を発した。



「サルディネーラ! 久しぶりねシェロー、レベッカ」


 気さくにシェローさんとレベッカさんに話しかける神官さま。


 …………しかし、俺にはもっと重要な案件が訪れており、まずはその件について頭を整理しなければならなかった。



 神官は、細身の若い女性だった。ゆったりとした若草色のローブ。ローブの上には赤、青、白、緑の凝った意匠のカズラ。

 透き通るような輝く亜麻色ブロンドの髪を腰まで伸ばしている。

 切れ長の眼、白磁のような肌、緑の瞳、……そして、特徴的な長くとがった耳……。


 ……みなまで言うな!

 ドワーフとか獣人とかが街を歩いていた時点で、その可能性についてはいつだって考えていたんだ!

 なんてったって異世界。どこからどう見てもファンタジー丸出しの世界! となれば当然の帰結じゃん。

 つまりあの神官は、あの耳がちょっぴり長くて、齧ってくださいと言わんばかりに耳なんか尖らせちゃってる神官様は!


 エルフだ! まごうことなきエルフ!!

 ゆゆゆゆ夢にまで見た、えええエルフが現実に! 俺はついに手にいれた! エルフの国をこの手に! うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!

 俺ディード○ットとか大好きなんだよ!!

 あwせdrftgyふじこlぽ;







 ――――しばらくおまちください――――








「ではそちらの方が祝福を受けるということでいいのね?」


「あ、はい。ジローといいます。よろしくおねがいします」


「なにモジモジしてんのよジロー。神官さまみたいなタイプが好みなのかしら?」


「ははは、こう見えても神官さまはお前の母親よりもまだ年上だぞ、おそらく。だいたい俺がガキのころ祝福を受けたときからこんな感じだからな、って痛い!」


 歳のことを言われてシェローさんの耳を引っ張るエルフの神官さま。

 歳のこととか全然気にしない種族かと思い込んでたけど、そうでもないのかな。萌えるな。



「そうね、ジローさん、そんなに緊張しなくても大丈夫よ。や・さ・し・く・してあげるから」


 しかしこのエルフ、ノリノリである。森の賢者だとか、孤高の種族とか、そんな感じが全然ない。

 背もなんか低くくて可愛いし、俺得すぎるだろJK。



「冗談はさておき、どんどん始めちゃいましょうか。じゃあ、ジローさん、祭壇へどうぞ」


 少し高くなった祭壇へ招かれる俺。可愛いエルフの神官ちゃん(推定年齢50歳以上)の隣に立つ俺。俺のほうがちょっとだけ背が高いね神官ちゃん。フワッとハチミツみたいな甘い匂いがしてきて、21歳童貞の俺には毒すぎるね神官ちゃん。


 俺が脳内でいろんな妄想に花を咲かせているうちに、神官さまは瞳を閉じてなにやら呪文を唱え始めた。どうやら、このまま祝福の儀式がはじまるようだ。

 呪文を唱え終わると、「手を」と両手を差し出してくる。俺はその手をドギマギしながら取った。

 名前と年齢と性別を聞かれたので素直に「ジロー・アヤセ、21歳、男」と答える。


 一瞬、両手に熱を帯びたと思った次の瞬間、辺りをカッと光が包み、そしてすぐに止んだ。


 神官はホッと一つ息をつくと言った。



「おめでとうございます。ル・バラカはあなたを精霊の御子と認め、祝福を授けられました。これより大精霊はいつでもあなたを見守り、あなたを助け、あなたを導いてくださります。きっと実りある人生となりましょう」


「あ、ありがとうございます?」


 ……困った。こんな一瞬で祝福とやらは終わりなのか。ぶっちゃけぜんぜん変化がない。


 祝福を受けてなにかが変わったという感じがしない。


 やっぱ異世界人チキュウジンだしちょっと違うのかな?



「ジロー、それでどう? 天職はなんだったー?」


「この瞬間はいつ立ち会ってもワクワクするな!」


 早く天職がなんだったかと教えろとシェローさんたち。

 いやしかし、ぜんぜん変化なしなんですってば。どないせえっちゅうねん。



「シェローもレベッカもあせらないで。彼はまだ天職の見かたもしらないんですから……。ジローさん。集中して。『天職、天職、天職…… 』と念じてみてください。それで自分の天職を見ることができますから。最初は時間がかかるかもしれませんけれど、すぐに慣れますからね。慣れればすぐに”出せる”ようになりますよ」


 またフワっとした説明だな。レベッカさんの説明はコレの受け売りか。

 しかし、ともかくやってみるしかないか。



「天職、天職、天職……」


 念じてみると、目の前にパッと半透明の石版のようなものが出現した。物理的に板が出るとは思いもよらなかったので驚いたが、内容も予想の斜め上だった。


 板にはこうあった。





 ――――――――――――――――――――――


 【 名前 】

 ジロー・アヤセ


 【 年齢 】

 21歳


 【 性別 】

 男


 【 種族 】

 人間


 【 天職 】

 剣士ソードマン

 魔術師ウィザード

 鍛冶師ブラックスミス

 細工師クラフトマン

 詐欺師トリックスター

 商人トレーダー

 料理人コック

 宝石学者ジェモロジスト


 【 固有職 】

  異界の賢者ザ・ライブラリー

     〈スキル〉異世界旅行ザ・ジャーニー

     〈スキル〉世界の理ザ・プリンシプル

     〈スキル〉真実の鏡ザ・ジャッジメント


 【 バラカのお導き 】

 ・猟師にお礼をしよう 0/2

 ・真実の鏡を使ってみよう 0/1


 ―――――――――――――――――――――――






 天職多っ! しかもなんか凄そうな固有職まであるんですけお……。

 しかもバラカのお導きって……。これってひょっとして、いや、ひょっとしなくてもRPGでいうところの「クエスト」じゃね? ご丁寧に進行具合まであるし。なぜだか全部日本語だし。


 ワクワク顔のシェローさんとレベッカさん。神官さまも可愛い顔でどうだった? と首をかしげている。なにこの可愛い生き物。俺がドンファンだったらここまでで20回は口説いてるよ。



「えっと、この天職ってのでいいんですかね。なんか多いけれど……、剣士、魔術師、鍛冶師、細工師、詐欺師、商人、料理人、宝石学者……」


「ちょっ、ちょっと待ってジロー、多いってどういうこと? 今言ったのがみんな天職だって言うのー??」


 レベッカさんが困惑顔で聞いてくる。シェローさんも頭に???を浮かべている。神官さまが難しい顔をして俺に質問してきた。



「ジローさん、……天職は今言った8つあったんですか?」


「えっと、はい。8つです。……『天職』の括りで表示されてるので間違いないと思うんですが……」


「そうですか……。まず、一般的には天職は1人1つです。時々複数の天職を持っている方もいますが、2つの天職を持っている方で30人に1人、3つなら100人に1人、4つ以上となると1000人に1人いるかどうか……。まして、8つともなるとちょっと例がありません。『夢幻の大魔導師』ですら天職は6つだったと言われていますし……。あ」


 突然「思い出しましたわ」 と言わんばかりに瞳を輝かせるエルフ神官ちゃん。なになに、急に近づいてこないで、童貞心がビックリしちゃうよ!


「ひょっとして……、『固有職』を得たんじゃないですか?」




 さて……、どうするか。



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