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第13話  異世界勝負は無謀な香り





「自己紹介がまだでしたね。私は御用商ソロ家のエフタ・ソロと申します。第1自由都市マリシェーラの者ですが、今日はエリシェに奴隷の納品をしに来ましてね。丁度これから奴隷をこちらに運ぶところだったんですよ」



 御用商……ってことは、国のお抱えの商人さまってこと? やっべ、超大物なんじゃね。

 奴隷商館の店員かも!? なんて思った自分をぶん殴ってやりたい……ってほどでもないか! エルフ扱ってるなら結果オーライだ!



「はい。それでは、今日こちらにエルフのフリーの奴隷を連れて来てるってことなんですか?」


「いえ……、先ほども申しましたが、エルフの奴隷は予約制でしてね。私のところだけでも8名待ちという状況ですから……。今の国の情勢で正規に予約待ちをするなら、最低でも5年は待つことになるでしょうね」


 8名待ちが多いのか少ないのか判断付きかねるけども。値段すごい高いみたいだし、ボチボチ多いってことなんだろうな。厳密にはいくらくらいするんだろうな。

 しかし、5年待ちとか凄いな。どんだけ人気なんだよエルフ。俺が世界一エルフ愛してるとか、撤回しなきゃならないかもしれないほどのエルフ人気だよコレ。


「そんな状況であるのに、勝負? に勝てば僕にエルフを譲ってくださるんですか? 勝負の内容にもよりますけど、あ、でもお金はすぐには用意できませんよ」


「いえ、あなたが勝った場合お金は結構です。そのかわり、あなたが負けた時はそれ相応のペナルティを負っていただくということで。――どうです?」


 どうです? ったって内容がわからなきゃどうしようもないんですけお……。

 だいたいこういう「うまい話」ってのは、必ず酷い結末になるものだよね。教訓だらけの世界で育った日本人を甘くみなさんなよ! ブラック企業じゃむしろ「うまい話」で騙す側だったんだよ! 


 でもいちおう話は聞いちゃう! どういう勝負かわからないけれど、どっかに抜け道があるだろうからな。ひょっとするとブッコ抜けるかもしれんし。


「ではまず勝負の内容を教えてください。あまりにも勝機のないものなら、さすがに夢が掛かっていても乗るわけにはいきませんから」


「勝負内容は、簡単に言えば贈り物対決です。相手はエリシェの市長。贈り物を相手に気に入られたらあなたの勝ち。それ以外なら私の勝ち。簡単でしょう?」



 簡単でしょう? じゃないよ。賄賂ワイロじゃねーか。

 しかも贈るの俺だけってことは、贈賄でアレされたら俺だけナニされるってことじゃねーのコレ。さりげなく酷い提案だな。


「なるほど……。それは僕、ジロー・アヤセ個人として市長に贈り物をすればよいのでしょうか?」


「そうなりますね。私が市長に渡りを付けますからご安心ください」


「……つまり、エフタさんに紹介された僕が市長に贈り物をして、市長がそれを気に入れば僕の勝ちだと。そういう勝負ということでしょうか」


「そうなりますね」


 ソロ家とエリシェとの関係がイマイチよくわからないが、贈り物作戦がうまく行くならエルフくれてやっても良いくらいの旨みがあるということなんだろうな。

 一応俺の名義で贈り物をするけど、うまくいったら旨みはエフタ氏が総取りする……と。

 そういう話だなコレは。汚いさすが御用商汚い。


 しかし、下手こいて変なもの渡せばアレされる可能性のほうが高い……と。もしくは市長が高潔な人物で賄賂が効かないとかか。

 そうでなければ、見ず知らずの俺みたいなのに、こんな話を持ちかけたりはしないだろうしな。

 エルフが欲しいなんていう世間知らずをダメ元で使ってみようという話なのか……。


 そもそも、この国における贈賄の罪の重さってどんなもんなんだろうか。一発死刑とかだとしたら、いくらなんでもギャンブル過ぎるなぁ。


 つまり、この勝負に勝つためには、まず市長について調べあげて、市長になんらかの商売上の便宜を図ってもらえるくらいの贈り物ワイロをする必要があるってわけだ。

 そして失敗したら、あくまで俺が勝手にやったこととして、エフタ氏は俺を見捨てる。トカゲの尻尾切りっていうのかな、この場合も。


 うーむ……。どうなんだコレ。



「……僕が負けた場合のペナルティを教えてください」


「あなたが負けた場合は……、そうですね。精霊石を10個いただきましょうか。手持ちがなければ、これからあなたがお導きを達成するものを予約するという形でもかまいませんよ」


 ……精霊石10個ねぇ。まだ精霊石の価値を調べてないけれど、昨日今日でもう2つもあるし、精霊石10個とエルフとじゃ釣り合い取れてなさ過ぎる。


 てことは、これは形だけのペナルティってことなんかな。失敗したら贈賄でアレでナニしちゃうんだろうから……。

 それともそもそもがダメ元のお試しなんだろうから、エフタ氏的には精霊石の10個も取れれば元出なしで小遣い稼ぎくらいにはなるって考えなんだろか。。精霊石なら取りっぱぐれのない債権としちゃ、優秀なんだろうしな。

 それともなんらかの当て馬的なものとして利用とか……。


 ……考え出せばキリがないか。



「どうです? 勝負しますか?」


「その前に確認をさせてください。まず、エルフは予約制で手元にいないんじゃないんでしたっけ?」


「いえ、ついこの間ひょんなことから手に入ったエルフがおりましてね。予約の方々とは少々条件が折り合わないので、まだ手元にあるのですよ。まだ若い美しいエルフの少女ですし。その点はご心配なく」


 ふむぅ。いることはいるらしい。

 どうするかもっと詳しく聞くか。でも嘘並べられる可能性もあるし、現物を見ないことにはどちらにせよ信用しきれないし……。


 でも「若い美しいエルフの少女」って聞くだけで、命を賭したギャンブルでもやってみたくなるから男ってのは愚かだわぁ。相手の思う壺だよ!





 ◇◆◆◆◇





 そして俺は命を賭けた勝負をすることにした。


 いろんな材料を天秤に掛けて、おそらく上手くやれると判断したからだ。

 でももし上手くやれなかったら、なんとか屋敷まで逃げて、ほとぼり冷めるまで異世界は禁止か、泣く泣く鏡自体を売るしかなくなるかもしれないが……。

 それでもエルフ少女がかかってる以上、やるしかねぇんだぜ。悪い奴隷商に捕まったエルフ少女を助け出す俺とかってこの上ない胸熱シチュだよね。これは惚れざるを得ない。



 贈り物はエリシェ設立50周年のパーティで……とのこと。ハッキリ言ってハードル高いんだけど、ブラック企業のころパーティでの売り込みとかわりとやらされてた俺に死角はなかった。職歴って偉大だなぁ。


 エリシェ設立50周年パーティは、「エリシェ設立50周年祭」の2日目の昼過ぎから開催されるそうだ。俺はそのときにエフタ氏に紹介されて市長に贈り物をする。そういう段取りである。

 実行日の50周年祭まで、あと15日ほどあるのでその間に準備をしなければならない。ハッキリ言ってあんまり時間ないんだけれど、俺がんばるよエルフちゃん!


 勝負の内容が口約束だけなのが気になったんだが、当日にエフタ氏のお抱えのエルフによって正式に精霊契約を結ぶんだとか。「逃げてもいいんですよ?」などと挑戦的なエフタ氏だったが、準備しきらなかったら考えさせてもらお。


 最後にさりげなく「どうして市長に贈り物をするの?」と聞いてみたら「50周年のお祝いですよ」とシレッと答えたエフタ氏。じゃあなんでお前は贈らないんだよ。バカなの? 死ぬの?





 ◇◆◆◆◇





 15日後に中央広場の前で待ち合わせる約束をしてエフタ氏と別れた。


 さて、これからこの勝負に勝利するために打てる手をすべて打たねばならない。まずは市長についての情報収集。贈賄の罪の有無。50周年祭について。

 細かいことを言えば、もっといろいろ調べることはあるが、到底1人では無理なので誰かに協力して貰う必要があるな……。


 いろいろ考えたが、結局、シェローさんとレベッカさんに頭を下げて手伝ってもらうことにした。あのとき、逃げ出してしまったことも謝っちゃって、協力してもらおう。

 これから鏡の屋敷に住むなら、ご近所さんになるのだしな。









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