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第100話  力士はプチ巨人の香り


 妹はマルコ少年に連れられて小屋から出てきた。

 脚が不自由だということで、少年の肩に掴まり片方の手には杖が握られている。

 少年とはあまり似ていない、線の細い少女だ。

 栄養が足りてないからか、髪がボサボサで、身体も痩せぎす。こんな坑道の中で陽に当たらない生活をしているからか、肌も青白く、不健康この上ない。

 この世界では、とっくに仕事を開始している年齢には達してると思われるが、外で仕事をするというわけにもいかないだろう。せいぜい、内職ができる程度か。

 スラムに暮らしている以上、生活が楽じゃないのは見て取れる。


「……少年。お前、この妹を一人で護ってきたのか?」


 つい、そんな質問をしてしまう。

 俺よりずっと年若い少年が、一人で脚の不自由な妹を養ってきたというのか。


「そうだよ! 家族なんだから」


 家族、か。

 親はどうしたのかとか、訊くだけ野暮ってもんなんだろう。

 人にはそれぞれ歴史があるなんて言うけれど、この兄弟がこのスラムに暮らしているのにも、それなりの物語ストーリーがあるのだろうから。 


「……そんなことより、兄さん、ギルドでもうシロのこと聞いたんじゃないのか? どうして助けてくれたんだ?」


 シロってのは、俺がこのマルコ少年から買った鉱石のことだ。

 砂金といっしょに取れる鉱石で、ルクラエラじゃあ金と混じらないように手作業で選別せねばならず、厄介もの扱いされているとギルドで教えてもらった。

 マルコ少年はその鉱石を、珍しい品と偽り旅行者に騙し売っていたのだ。

 俺がギルドに用があると言ったら急いで逃げていったからな。

 実際、ギルドではシロと金とを選別する作業を入口で何人もの男たちがやってたし、バレバレってもんだ。


 まあ、俺には鑑定能力もあるし、実際にはそう悪いものでもなさそうってことで買ったわけだから、別に騙されたという感覚はない。だが少年からすれば騙した相手が騙されたと知っていて助けに来てくれた――という感じなのだろう。


「あの子たちに頼まれたからだよ。それに、まあ、これも縁だからな」


 周囲の警戒をしてくれている、マリナたちを指差す。

 それに一期一会って言葉もあるし。俺もこのマルコ少年は嫌いじゃないしな。こんな世界で頑張って生きているやつをどうして嫌いになれよう。


「それより、さっさと出よう。いつまたモンスターが湧き出てくるかわからない――」

「ジロー!! 危ない!」


 レベッカさんの叫び声。

 反射的にマルコ少年と妹を引き倒すようにして、俺は体を投げだした。

 すぐそばを何かがすごい速度で通り過ぎるような風切り音が耳を打ち、その次の瞬間、強烈な炸裂音と共に少年の家の壁が崩れ去った。


「ななな、なにごと!」


 粉塵を払いながら、体を起こし坑道の奥に目を向ける。

 そこには――


「オ………オーク…………?」


 豚の頭部に、力士のようにゴツくデップリした体。

 身体の一部だけを覆う、申し訳程度の金属鎧。

 ゲームではよく出てくるお約束の種族、オークさんのお出ましだった。


「マジか。ゴブリンの次が、あんな巨漢って……」


 オークさんは、いかにも「岩投げ終わったとこです」って感じの体勢。


 俺が攻撃を避けたのを確認すると、次弾をおもむろにゴソゴソとそのへんから見つけ出し、オーバースローで躊躇なく投擲してくる。

 さほどコントロールはよくないのか、岩は明後日の方向へ飛んで行く。

 だが、シンプルで強力な攻撃だ。あんなものが直撃したら軽く死ねる。


 とはいえ、直線的。投げるのを見ていれば避けることはできそう。

 しかし、モンスターのくせに物を投げてくるなんてな……。

 ある程度強いものになると、知性があるのかもしれない。


 ブヒィ! ブッヒィ! と怒りの声をあげるオーク。

 どうやら癇癪を起こしたようだ。


 その声に反応してか、奥からさらに数体のオークが姿を見せる。

 その数ざっと四体。

 全部で五体はヤバイ。連続して岩投げられたら詰みそう。


 だが、やらなきゃ。

 今更撤退して、後ろから岩投げられたら対処する自信がないし。

 つらい時こそ前に出ろって、シェローさんの教えにもあったしな……!


「レベッカさん! とにかくこの子たち先に逃がしてください! あの豚野郎をなんとかしないと」

「わかったけど、ジローはどうするのよ! 私たちが戦うから、ジローもいっしょに逃げなさい!」


「ダメですよ! 俺だけでやります!」


 彼女たちには戦わせられない。


「なに言ってるの! 急にそんな勇ましいこと。死ぬわよ!」

「主どのは、安全なところで待っていて欲しいのであります! 戦うのがマリナの仕事であります!」


 レベッカさんもマリナもすごくやる気だ。

 しかし……。


「でもダメです……! 女騎士にオークは……!」


 いっしょに来ているのは、マリナもレベッカさんもエレピピも三人とも騎士だ。

 女騎士だ。

 そして相手はオーク。

「……くっ、殺せ!」となること請け合いってことだ……。

 負けなければいいだけなんだけど!


 …………。

 さて。

 冗談はさておき、協力してさっさと倒してしまおう。

 オークは投石での力強さを見ても、ゴブリンとは比べ物にならない腕力だろう。

 体格だって、関取級だ。

 武器は棍棒。

 ピッチャーだったりバッターだったりスモウレスラーだったり忙しいやつだ。


 少年と妹のことはエレピピに任せて、俺とレベッカさんとマリナの三人でオークと戦うことにした。

 レベッカさんとマリナの貞操もかかっているし、負けるわけにはいかん。


「ジロー、マリナ。アレの武器、棍棒だけど当たればヤバイのは刃物と同じだからね。面が大きい分、下手な剣よりも厄介だと思って戦いなさい」


 レベッカさんのアドバイス。あんなのが相手でも存外に冷静だ。女騎士の天敵じゃないのかな……ってそれはもういいか。


「わかりました!」「了解であります!」


 と返事をしている間にも、雄叫びを上げてオークに突っ込んでいくマリナ。

 相変わらず勇ましい。あんな武蔵丸みたいな身体した豚面のオッサンによくぞ……。


 ハッキリ言って一撃貰ったら詰みだ。

 かすっただけでも大ダメージだろうに……。


 ああいう相手にマリナが怯まずに済んでいるのは、いつもいつも「一撃ももらっちゃダメ」な訓練をしているからだ。俺も言うほどビビってないしな。

 そういう相手と戦うことが当然になっているからか、ゴブリンは異常に弱く感じたし、オークを見ても『普通のモンスター』にしか見えない。

 だが、常識的に考えて、オークだって充分ヤバいモンスターだろう。

 実戦向きの訓練をつけてくれたシェローさんとレベッカさんに感謝だな。


 とはいえ、敵は5体。

 ある程度の連携が必要だろう。


 俺とレベッカさんも剣を抜いて走る。

 オーク達も武器で戦うことを選択したようで、ブヒィブヒィと喚きながら向かってくる。


 最初に攻撃したのはマリナだった。

 上段に振りかぶったハルバードを、すさまじい勢いでそのまま叩きつける。

 オークはその攻撃に反応し、棍棒を合わせようとして――


 スコンッ!


 と、気持良く真っ二つに切れた。分厚い木でできた棍棒が。

 ――と思った次の瞬間には、目にも止まらぬ第二撃を袈裟斬りに放っていた。

 ハルバードの斧部が肩に深く食い込み、オークは絶命――その姿をコブシ大の魔結晶に変えた。


「うっそ。マリナ、オーク相手でも楽勝じゃん。なんなのあいつ」

「ふふっ。鍛えてるからねー。血反吐はくほど鍛えてるからねー」


 まあ、確かにエトワを雇ってからは午前中はほとんど訓練に費やしてきてる。

 野盗に一度襲われたってのもあって、道楽というには本格的すぎる訓練をやってたし、中でもマリナは特に熱心にやっていた。

 いっしょに訓練することもあったが、女子メンバーはレベッカさんが担当して、見えないところで訓練することが多く、前にこっそりマリナに訊いたら「タイチョーどのは主どのがいるところでは猫を被っているのであります!」ということだったので、かなりのハードトレーニングを実施しているのだろう。


 だが、俺だってシェローさんと「あ、ちょっとこの人、常識通じないタイプかも? うっかり殺される可能性もある!! 『いけね! 殺しちまった!』とか言いそう!」と恐怖しながら実戦訓練しているのだ。


 絶対オークなんかに負けたりしない!


 マリナとレベッカさんの戦闘も気になるが、俺も一体くらいは倒したい。

 訓練の成果を確認したいってのもあるし、剣士の天職の傾向なのか、アドレナリンが出てきてテンションが上がってくるのだ。


 オークに肉薄する。

 デカイ。

 縦にも横にもデカイ。

 棍棒なんて俺の胴体ほどもある。

 巨人の小さいやつと言っても過言じゃない迫力だ。

 小柄な巨人|(ブタ)だ。


 俺が最初に武器を選んだ時、レベッカさんが『両手持ちの武器にしなさい』と言った理由も理解できる。

 こんなデカイやつ相手に、片手剣じゃあチマチマしすぎているもんな。まして短剣なんかじゃ殺しきれないだろう。


 俺は魔剣を構えた。

 魔剣の特殊能力は、『吸収』『回避率アップ』『対魔獣プラス補正』である。

 実際にどれも、クマと戦った時に体験しているが、どの能力も有用。特に吸収はヤバイ。体力に自信の無い半ヒキニートでも、無限に戦い続けられる。

 なぜなら、相手の元気を吸って疲れが取れるからだ。どういう原理かは不明中の不明だが、体力的なものを吸い出しているんだろう。下手な栄養ドリンクの100倍効く。


「ブヒィ!!」


 オークが丸太と言っても差し支えないような棍棒を振り下ろしてくる。

 どうやら、人間語を喋るほどの知性はないようだ。

 よかった。「オークックック!」とかいう笑い方だったらどうしようかと思った。


 オークの攻撃を、バックステップで避ける。

 オークはそのまま棍棒を地面に叩きつけた。


 デカイ。

 そして、力が強い。

 それは素直に脅威だ。

 ……だが、それだけとも言える。なんとかなりそう。


 オークの追撃。

 棍棒をブゥンと横薙ぎに振るう、雑な攻撃。

 俺がこれを避けると、勢いを殺しきれずに背中を見せるありさま。


 俺はすかさず無防備なその油っぽい背中に剣を叩きつけた。

 魔剣は、切れ味に優れた剣だ。

 黒く濡れた刀身は、血糊で切れ味が落ちることもなければ、硬いものを切って刃こぼれを起こすこともない。

 ヌトっと背脂を斬り裂き漆黒の刃が豚肉の中に入っていく。

 剣が反対側に通り抜ける頃、オークは魔結晶に姿を変えた。

 一丁上がりである。

 モンスターは血が出ないから戦いやすい。


 これで俺が一体、マリナが一体倒した。

 残りは三体。

 できれば、増援というかさらなるモンスターが湧く前に撤退したいが――


「よし! 魔結晶拾って帰るわよー」


 レベッカさんの声。

 見れば、すでにオークは一体も生き残っていなかった。

 マリナとレベッカさんで倒しきったらしい。つええ。


「うわぁ。レベッカさんの戦いぶり見そびれました!」

「え? 別に普段通りよー? 近寄ってブスリって」

「あっはい」


 あんなデカいモンスター相手にそれやれるってのがすごいよ……。

 しかし倒したならいい。長居は無用、とにかく戻ろう。


 魔結晶は、ゴブリンの分とオークの分でけっこうな量になった。

 ある程度管理されている狩場でこれなら、ものすごく儲かるけど、今はどんなんが出てくるか未知数だし、ヒトツヅキ級のも湧いてるらしいからなぁ。

 今ちょっと旨味があるからと言って、欲をかくと必ずしっぺ返しを食らうというものだ。




 ◇◆◆◆◇




「主どの」

「ん?」

「これは主どのの物であります。受け取ってほしいのであります」


 坑道から出る道すがら。

 マリナがついさっき手に入れたばかりの精霊石を手渡そうとしてくる。

 ずいぶん前に出たマリナのお導き『モンスターを倒してみよう』をクリアした証だ。

 マリナは、『はじめての精霊石』をクマとの戦いで失っている(厳密には、マリナの怪我の治療の為にディアナが精霊魔法のエネルギー源に使った)。


 本来『はじめての精霊石』は自分の記念として、手元に残す人が多いらしい。

 俺もそれほど意識したわけでもないが、最初に出た精霊石ラピスラズリはまだ手元にある。

 マリナにとっては、今日手に入れたこの石が、感覚的には初めての石になるはず。

 ……本当は自分で持っていたいくせに……無理しやがって。


「うん。じゃあマリナに預けとくわ。なくさないように預かっててくれる? いつか、必要になったら言うから」

「……マリナが……持っていていいのでありますか?」

「ディアナにもたくさん持たせてるだろ。奴隷の仕事のうちだよ。精霊石の管理もな」


 その言葉に顔をほころばせるマリナ。


「仕事でありますか。なら仕方がないであります。マリナが自分で管理するであります!」

「うん。たのんだ」


 マリナに「いらないから自分で持ってろ」とか言っても聞かないからな。

 こんな風に言っておけば、ずっと大事に持ってるだろう。



 途中で、エレピピたちと合流した。

 妹さんは脚が悪く、スピードが出ないからな。

 こんな道の悪い坑道じゃあ、車イスだって使えない。車イス自体があるかどうか知らんが。


「……大丈夫だったの、若旦那?」


 エレピピはいまいち表情の読めない子だが、素人目に見ても、あのオークは脅威に映っただろう。心配そうに尋ねてくる。


「案外ね。なんとかなったな」

「倒したってこと?」


 ポケットからコブシ大の魔結晶を出して見せてやる。


「エレピピよ、レベッカさんもマリナも超強いぞ」

「……知ってる。私もがんばんなきゃ」

「まあ、エレピピはこれからだよ、これから」


 エレピピも本当は戦ってみたかったんだろうか。せっかく鍛冶屋で武器も借りて来ているんだし。

 マルコ少年と妹のことがなければ、あの戦闘を見せるだけでも彼女にとっては収穫になったのかもしれない。

 まあ、さすがに数日しか訓練してないエレピピを実戦投入するわけにもいかん。

 ゴブリンくらいならいいけど、オークは無理だな。「くっ殺せ」とか言う余裕すらなく負けそうだ。




 俺たちが坑道を出るのと、大空から一匹のドデカい鳥が舞い降りてくるのとほぼ同時だった。

 鳥の上には、アラビアンな扇情的服装の褐色の女。

 アイボリーの髪。非現実的な頭部のツノ。

 魔族ことナイトメア族のシャマシュさんだ。

 もう、坑道を一つ封じて来たらしい。仕事が早いな。


 ものすごい注目を集める中、シャマシュさんは優雅な仕草で鳥から降り、そのまま一直線に俺のところに歩いて来た。

 警戒するマリナとレベッカさんを手で制し、一歩前に出て話しかける。


「おつかれさまです、シャマシュさん」

「アヤセくんもね。すまない、思ったより遅くなってしまった。現場の人間が、なかなか状況を理解してくれなくてね。雷を四つほど落としてきたよ」

「こっちも同じですよ。なんとか避難は完了してますが、まだ始まったばかりだってのは理解されません」


 遅くなったというが、別れてまだ一時間ぐらいだろう。

 シャマシュさんが封じてきた坑道への距離がどんなもんかは知らないが、十分に早いと言えるだろう。


「……主どの。その方はお知り合いでありますか? ターク族に似ているであります」


 マリナが不思議そうに云う。

 褐色がターク族の特徴なのかはしらないが、確かに身体的な特徴は似ているかもしれない。

 扇情的な肉体に褐色の肌だ。

 シャマシュさんの耳はエルフ耳じゃないけども(ちょっと尖ってるけど)。


「む? アヤセくん、彼女は君の奴隷かい? ターク族じゃないか」

「そうですよ。マリナっていいます。ほら、マリナ挨拶!」

「主どのの奴隷のマリナであります! 天職は騎士であります!」


 マリナは元気だ。美徳だな。

 てか、ほんとに物怖じしない性格……。

 ツノ生えてて巨大鳥に乗ってやってくるような相手に。


「紹介ありがとう。私は魔族のシャマシュ。シャマシュ・オーレオールという」

「魔族……なんでありますか? マリナと少し似ている感じがするのであります」

「肌の色がね。ターク族は魔族と同じ肌色をして、エルフと同じ耳を持つ。この世界では生きにくい種族だ。……だが、君は幸せそうに見えるな」


 シャマシュさんが目を細め、マリナを眩しそうに見つめる。

 ターク族迫害の裏にはそんな理由もあったのか? 偽エルフっていうだけでなく、魔族と同じ肌の色だから――なんてのも。

 実際には聞いたことないから、今では最初の理由は忘れ去られて差別だけ残っているってパターンかもしれないが。


「マリナは、とっても、とっても幸せであります。……マリナではこの気持ちを言葉では言い表せないくらいなのであります」


 普段見慣れた俺でもドキッとするような、とろけるような笑顔をみせるマリナ。

 シャマシュさんが、そんなマリナを見て息を飲むのが傍目に見てもわかった。

 ターク族であるマリナが、幸せそうにしているのが予想外だったのだろうか。


「なるほど……。そうか。これは誤算だ。だが、嬉しい誤算だ……」


 独り言のように、誰にともなく呟く。


「……私も、君のように笑えるときが来るのだろうか」

「笑えないのでありますか?」

「いや……そういうわけではないのだが……」


 ストレートに突っ込まれ、目を泳がせる。

 かぶりを振り、マリナに手を差し出し握手を求め、


「とにかく、私は君の後輩奴隷ということになるな。勝手がわからず迷惑をかけるかもしれないがよろしく頼む」


 そう言った。


「言っちゃったー!」


 まさかこんなタイミングで! 一段落してから切り出そうと思ってたのに!


「……こうはいどれい? でありますか?」


 キョトン顔のマリナ。

 うん。まあ、そうだね。わけわかんないね。俺もわけわかんない!


「私が、このアヤセくんの奴隷になるって話さ。ちょっとした条件を飲んでもらう代わりに、そういう事になったんだよ。なに、私のほうは全く乗り気だ。むしろ、こんな気持ちになったのは初めてかもしれない。なるほど、この気持は言葉では言い表せないな……」


 腕を組みしみじみと吐露するシャマシュさん。

 対するマリナは、唇を戦慄かせ、呆然としていた。

 奴隷が増えるとか、考えてなかったのかもしれない。


「……マ、マリナが目を離したからであります。うすうすそんな気はしていたのであります。上位互換であります、勝ち目がないのであります」

「薄々そんな気はしてたって……」


 まるで俺が、目を離すとすぐ女引っ掛けてくるロクデナシみたいじゃないか!

 ……いや、エレピピの時はほぼナンパだったか。

 今回も、シャマシュさんだけじゃなくイオンさんだっているし、言い訳できないカモ……。


 まあ、しかし。


「ちょっとシャマシュさん暴走しないでくださいよ。その件はまだ完全に決まったわけじゃないんですから。言ったでしょう? 仲間と相談してからって」

「それもそうだった。すまない、つい……な。すっかりその気になってしまっていた」


 うーむむ。そんなふうに言われると弱い。

 今更、断れる気がしない。

 けど、マリナが嫌がるなら断るしかないかなぁ……。

 まだ、レベッカさんも、なによりディアナの説得もあるってのに……。


 ちらりとレベッカさんを見る。

 レベッカさんは、坑道の入口を注視しながらもこっちの会話は聞いていたようだ。

 マルコ少年と妹を、危ないからあっち行ってなさいと退避させ、笑顔。

 にっこりと満面の笑顔。


 あれ……? なぜ俺がプレッシャーを感じているのか!

 まるで俺が、目を離すとすぐ女を引っ掛けてくるロクデナシみたいじゃないか!


「まあ、それはさておきシャマシュさん。どうします? 先に坑道封じるんですか?」

「ああ、そうだな。急いだほうがいいんだった、ちょっと行ってくる。少し奥まで行かないとトワイライトミミックを仕掛けるには、広すぎるからね」

「僕らも手伝いましょうか?」


 まだモンスターは湧く。

 いくらシャマシュさんでも危険だろう。


「いや、心配には及ばないよ。近くに強いやつがいないのは感覚でわかるからね」


 そう言い残し、シャマシュさんは颯爽と坑道内へ入っていった。


 後に残る俺とマリナとレベッカさんとエレピピ。

 少し離れたところにいるディアナからの視線も痛いほど感じる。


 説明……しなきゃなんだなぁ……。



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