イオンさんの口から紡がれる記憶。
それは現代日本に生きてきた俺にとって、あまり現実感のない話だった。
もちろん、嘘や偽りを語っているわけじゃないだろう。だが、物語の中の出来事のようにしか思えなかった。
その渦中にいた本人が目の前にいるというのに。
イオンさん――ルクリィオン姫は、ハノーク帝国皇帝の長女として生を受けた。
詳しい話は割愛するが、普通にお姫さまらしい生活を送っていたらしい。
……十歳になるまでは。
この世界では――厳密にいうなら、帝国では十歳になると神殿で祝福を授かる。そして、天職を得る。これは皇族だろうと例外ではない。
イオンさんは十歳になり、祝福を授かった。
基本的に内輪の儀式なので、家族と親戚衆などが集まり、気楽な感じに行われたらしい。
父親である皇帝、その正室である母、
だが、祝福の内容……いや、授かった天職がまずかった。
レア天職『
兄二人にも発現しなかった、
イオンさんは正妻の子で、兄二人は側室の子だ。
さらに、兄二人はちょっと地味な天職持ちでそれがコンプレックス。
儀式に臨席していた親戚衆もイオンさんのレア天職にテンションが上がり、その日以降、そこら辺でペラペラと人に喋ってしまい、イオンさんの立場は祝福を受けて以降、一気に微妙なものになっていったらしい。
イオンさんは、正室の子で帝位継承権3位。
……とはいえ、イオンさんは女だ。
兄だって二人もいる。
なんぼ天職が珍しかろうが、なんぼ正室の子だろうが、政略結婚で隣国に嫁に出されるのがイオンさんに与えられた未来であり、事実、そのはずだった。
――だが、そうはならなかった。
イオンさんは、わりと無邪気に『将軍』としての勉強をしたいと考えており、それを父親に相談したのだとか。
これは別に不思議なことでもないだろう。
天職は神が授けた己の進むべき道。
そうであるならば、そうであれ。そう考えるのは当然であるといえた。
時の帝国は戦争のまっただ中。
エルバステ紛争だかなんだかという戦いで、帝国は女だらけの傭兵団に出し抜かれそうになったのを、傭兵団『
そこの団長が『
アイザック・マイトリー。
娘が自分と同じ天職だったからといって、皇帝自らは勉強に付き合うわけにはいかない。
そんな暇はないし、それをしたら娘を後継者に選んだと噂になる可能性もあるからだ。
そこで、当時帝都でも噂の的だったアイザックに白羽の矢が立った。
実際に『将軍』の天職を持ち、なおかつその天職に見合った活動をしている人間は、帝都には皇帝とアイザック以外には存在しなかったらしい。
それほど将軍の天職を持つ者は稀であった。
通常、どの国でも珍しく有用な天職を持つものは、国が保護し教育し国で働くことが多い。アイザックがどういう生まれで傭兵なんかをやっていたのかは定かではないが、男子の『騎士』であるならば国の騎士団に入れるし、『聖騎士』だの『将軍』だのなんて天職なら、国が三顧の礼でもって迎えるレベルだろう。
それでも、見つからないほど『将軍』は少ない。『聖騎士』なら毎年数人は見つかるというのに。
そういう点でも、イオンさんとアイザックは注目された存在だったのだとか。
「ルクリィオン姫が帝位を継ぐのでは?」という噂は帝都でも飛び交っていたらしい。
この世界は男女差が少ない。だからイオンさんが帝位を継ぐという可能性も普通にあったのだそうだ。まあ、継承権があるのだから当然だ。噂ぐらいは立つだろう。
だが、それはあくまで「いざとなったら」それでもいいというだけのことでもあった。現在は継承権3位でも、弟が生まれれば継承権が繰り下げになる程度には。
教師に任命されたアイザック・マイトリーは、実直な男であったらしい。
皇帝陛下自らに、娘の教育係を頼まれればNOとは言えない。いや、実際にどうだったかは定かではない。皇帝に恩を売っておこうと思ったのかもしれない。
そうして、アイザックが家庭教師となり、勉強会が行われる日々は数年続いたのだそうだ。
アイザックには傭兵団長としての仕事もあったため、勉強会は週に一度、半日だけ。
もちろん、ふたりきりで部屋に閉じこもって勉強なんていうものではなく、常に何人もの侍女やら別の教師やら近衛騎士やらに囲まれてのものだったらしい。
それでもイオンさんにとっては蜜月の日々であったのだそうだ。
帝国も、エルバステ紛争から後、大きな戦いは減り、小競り合い程度が時々国境線で起こる程度。
イオンさんは天職通りに『
内政も、戦争が一段落して落ち着きを取り戻しつつあった。
イオンさんは、そんな日々が幸せで堪らなかったらしい。
まあ、そうだろう。まさにお姫さまという感じだ。
皇帝な父、后な母、皇子な兄二人、イケメンな家庭教師に騎士やら兵やら。
戦争も一段落して平和な日々。
だが、そんな日々も父親が倒れてから一変した。
イオンさんの父親はまだ若く壮健だった。
戦争にどれほど出ていたといえど、常に近衛のエルフが二人も精霊石片手に待機してるような立場だ。怪我をしても怪我したそばから治されるし、年齢だって精霊石を使い、いつまでも三十代前半を維持していた。
倒れたといっても、死んだわけではない。
原因不明の体調不良で臥せったということらしいが、それでもこの世界では一大事だった。
それはつまり、エルフでも治せない病気か怪我を負ったということに他ならないからだ。
とにかく、皇帝は倒れ、まだまだ先の事と思われていた後継者問題が勃発。
通常、直系子孫の男子が帝位を継承する。
この場合、イオンさんの兄、それも長男が継ぐのが普通で、そうでなかったとしても次男が継ぐと思われた。
だが、一つだけそうならない道があった。
――現皇帝が自ら跡継ぎを指名した場合である。
◇◆◆◆◇
「それで、イオンさんが指名されちゃったってわけですか?」
自分と同じ天職で、しかもやる気があり才能も開花され、兵や民にも人気が高いお姫さま。
父親がイオンさんを指名したとしても別に不思議じゃないような気もする。
兄二人がどういう人間なのかは不明だから、なんとも言えないけど。
「いえ……。父にはそんなつもりはありませんでしたし、私にもありませんでした。……でも、そういう可能性があると考える勢力は存在して……これは今だから言えることですが、私は利用されてしまったんですね」
「つまり?」
「……その……私にも非があることなのですが、そそのかされてしまって。父にお願いに行ったんです。ザックと、その……結婚させてほしいって……」
おお。まるで物語の出来事のようだ。
レベッカさんの視線が、氷点下を超えて絶対零度に到達してるけど、仕方がない。レベッカさんも胸中複雑なんだろうからなぁ。
「それで、どうなったんですか? アイザック氏は傭兵じゃあ、いわゆる身分差ってのがあったんでしょう?」
「そうです。本来ならば、許されるはずがないでしょう。……ですが、ザックは国内でも有数の傭兵団を持ち、なにより稀有な才能の持ち主でした。だからこそ――こんなことになってしまったのかもしれませんが――」
イオンさんがアイザック氏に惚れているのは、周囲にはバレバレで、ちょっとした公然の秘密であったらしい。
アイザック氏は立場もあり、そういう素振りは見せなかったらしいが、イオンさんの話では、けっこう悪くない関係だったとかなんとか。
皇帝が倒れた時、イオンさんは十五歳。
結婚にはまだ少し早かったが、婚約くらいなら問題ない年齢だった。
とはいえ、イオンさんもガチのお姫さま。どれほどアイザック氏がいいオトコだろうと、しょせんは傭兵。実際に結婚できるなどとは考えていなかったらしい。
だが、結婚する手段があるとそそのかすものがあれば、話は別である。イオンさんはすっかりその気になってしまったらしい。
「父は病で臥せっていたからでしょうか、驚く程簡単に許可をくれました。もともと、私に対して、それほど興味を持っている人ではなかったからというのもあったでしょうが」
「じゃあ、なにも問題ないじゃないですか」
「いえ、そこで兄――上の兄ですが――が口を出してきたのです。結婚して皇族となるからには、あの男にも相応の身分を与えなければならないし、妹に相応しい人間かどうか、兄として確かめなければならない……と」
「なるほど……」
ふむ。
まあ、妥当だろう。
むしろ譲歩したほうなんじゃなかろうか。
この国の皇族がどの程度
「ですが、これは罠でした」
「罠?」
「兄は私が祝福を授かってから……いえ『
アイザックと結婚すれば、アイザックという単体でも強力な協力者(傭兵団付き)が手に入る……か。
まあ、それにダブルで『将軍』の夫婦ってのは、確かにちょっとすごい感じあるかも。国民人気も高まりそうだし、実際、アイザック氏はイケメンだったらしいし、イオンさんも(獄紋があるからよくわからないが)美人だ。
兄に憎まれてたってのは、やはり唯一正室の子で、レア天職持ちで人気者だから……なんだろうか。
つまり嫉妬。ちょっと情けない感じもするけど。
「……今となってはだいたい予想ができますが、誰かが私をそそのかしたように、兄をもそそのかしたのでしょう。
……兄はこう話を持ちかけてきました。ザックと私の愛を確かめる為に、
覚悟を見る為にと私は『ザックに真相を話してはならない』ことと、『三十日以内に帰る』という精霊契約を結ばされました。
……ふふ、今となってはおかしな話です。あの時の私は舞い上がっていたんですね」
うーん。まあだいたい話が見えてきたけど、相手が自分を陥れようと思っていると知らなかったなら、十五歳のお姫さまが騙されるのは仕方ないのかもしれない。
詐欺師の天職持ってる俺が言うのもなんだけど、騙されるほうが悪いなんてのは詭弁だ。
騙すほうが悪いに決まってんだから。
「当時……恥ずかしい話なのですが、私は獄紋を知りませんでした。当時の文言は『契約を違えた場合、乙は獄紋を負う』。これだけで、祝福を剥奪されることすら知らなかったんです……」
だから、そういうことも知らず、脳みそお花畑状態で、アイザック氏とお供数名を連れてイオンさんは旅立ったらしい。
帝都から山岳までは馬車で一〇日ほど。それなりの距離だが、この世界では旅ってそういうもの。イオンさんにとっては、それはそれで楽しい楽しい旅行であったらしい。
兄がこんな試練を用意するのも、単純に外聞に対するパフォーマンスだろうと、お付きの侍女が話してくれたりもしたらしい。
ザックも、訝しみながらも騎士として同行し、まったく危なげない旅路だったのだそうだ。
しかし、山岳に到着してから事態は一変。
簡単に手に入るかと思われた、『メリドカルディア』が、実は山岳でも奥地にしか咲かないもので、金を積めば手に入る種類のものではないと言われてしまう。
期日もある。アイザックには真相を話せない。
だが、イオンさんは特に焦らなかった。
最悪、ダメだったとしても兄はわかってくれるだろうと楽観的に考えていたし、期日は越してしまうかもしれないが、何日かすれば花も手に入ると地元の業者が請け負ってくれていたからだ。
精霊契約のことは、同行者の誰にも言ってなかったのだそうだ。
秘密の試練。
花を手に入れて国へ帰れば、アイザックと結婚できる。
それだけが一五歳の少女の願いだった。
しかし、そうはならなかった。
無事『メリドカルディア』を手に入れたイオンさんだったが、花を手に入れるのに、思いの外、時間がかかってしまった。
イオンさんは、精霊契約のことを少し甘く見ていたらしい。
俺などは、いちおう商人の天職を持っているし、現代日本人だから契約の怖さはよくわかっているし、下手な契約は絶対にしない。
だが、お姫さまで脳みそお花畑だったイオンさんは違った。
帰りの馬車の中で、期日の三〇日を過ぎてしまったのだ。
「……あの時のことは、今でも夢に見ます。パンという破裂音と共に祝福を失い、無力感が這い寄り、全身にびっしりと黒い紋が浮かび上がる夢を」
そして、その瞬間、お付きの人間の半分が敵となったらしい。
この世界の常識として、獄紋者は人にあらず。
そうでなくとも、獄紋者を神殿に連れていけば報奨金として金貨一枚が貰えるのだ。
「ザックが私を連れて逃げてくれなければ、危ないところでした。しかし、そのために彼は命を落とすことになったのです。……いえ、それも欺瞞ね。半分は私が彼を殺したようなもの……」
そこからは、だいたい聞き及んでいた通りだ。
アイザック氏はイオンさんと数名の侍女と共に南へと逃れたらしい。
途中、なんとか落ち着ける場所を見つけ、そこにイオンさんと侍女に隠れているように言いつけ、自分は帝都へと戻ったのだとか。帝都に戻れれば、獄紋を祓う為の金貨100枚を用意できるからだ。
しかしそこで網を張られていた。
ここからはレベッカさんの証言となるが、獄紋を負った姫を助ける為とアイザック氏は帝国兵の追跡を躱し、なんとか帝都までは到着。
その時点で、すでにアイザック氏には姫をさらい駆け落ちした罪が着せられていた。
結局、数の暴力には勝てず御用。
死人に口なしとするためか、拘束され簡易裁判のみで処刑されてしまったらしい。
イオンさんのほうも、数日で侍女の一人が裏切り、報奨金目当ての村人がやってきて、単身逃げることに。
幸い、アイザック氏との『将軍』としての訓練で、運動自体はそれなりにしていた上に、いわゆるお姫さまルックではなく、旅装束だったため、逃げて逃げて、最終的にルクラエラのシャマシュさんのところにまで辿り着いたのだとか。
「……その後、風の噂でザックが処刑され、父も病に臥せったまま死んだことを知りました。アヤセさんに言われましたが、私には復讐の意図はありません……もし願いがあるとすれば、母に無事が伝えられれば……と思うこともある程度でしょうか。兄は私が生きていると知れば、殺しに来るかもしれませんし」
イオンさんが胸に抱く、シェローさんの家で見た短剣。
その短剣は、皇帝からアイザック氏へと下賜されたものと同じ剣で、イオンさんがわがままを言い同じものを作ってもらったものなのだとか。
「……しかし、その時々出てくるその
イオンさんを強引に追いやることに、どんな旨みがあるのかよくわからない。
長男に憎まれていたという話だから、利害関係だけではないのかもしれないが。
「私に、ザックとの結婚の話を持ちかけてきたのは、商人の男です。御用商と関係があるとかで、ときどき城に顔を出していましたね」
御用商ってことは……。
「御用商――ソロ家。ソロ家は当時、御用商の中では一番格下でした」
おおっと。知ってる家出てきちゃった。
「ですが、兄が帝位についてからは筆頭御用商へと格上げされたはず。……私にザックとの結婚を提案してきたのは、当主の弟を名乗るディダという男でした」
「ディダ? ニヤニヤ笑いのぽっちゃりした?」
「ご存知なのですか?」
「ええ、まあ……」
ディダ……あのポッチャリ商人か?
あのニヤニヤした調子で城にも顔出してたのか……。
つまり、ソロ家の暗躍があったってことなのか。
でも、小細工しなくても元々御用商で、しかも長男とベッタリだったってんなら、放っておいても筆頭御用商とやらになれたんじゃね?
よくわからん。
てか、そもそもアイザック氏を貶めるのに意味があるのか?
「レベッカさん、どう思います? なんだかやけにきな臭い話でしたけど」
「……うん。ルクリィオン姫が悪くないってのはわかったわ。私が調べた話とも合致するし、現皇帝がアイザックやルクリィオン姫を殺したかった理由もわからなくもないかな」
「そうだったんですか? て、アイザック氏はどうしてそんなにイオンさんの兄から嫌われてたんです」
「光あれば、影があるってことよ。例えば私たち騎士の女にとって、聖騎士の女なんかは嫉妬と羨望の的。自分が上の立場だったら許せないって汚い気持ちになることもあるかもしれないわね……。そうでなくても、現皇帝の天職は『
「ランサーですか。確かにちょっと地味っぽくはありますね」
基本職とか言われちゃうやつや! たしか前にオリカを雇ったときに村の人たち面接したときも、一人『槍士』の子がいたような。それぐらいありふれてるってことか。
それに対して、将軍持ちの
なるほど、劣等感を抱きそうだ。
殺してしまえ! と思ったとしても無理ないのかもしれない。
……まあ、帝国を率いるような人間としては、あまりに小物感があるけど。
「それだけじゃなくて、当時うちの団ともちょっとあったからねー……。皇太子――つまりルクリィオン姫の上のお兄さんが率いてる部隊が、それはもう戦下手でね。ヘティーのとこに、それはもうこれでもかってくらいメタメタにされて、それを助けたのがうちだったから、アイザックに対してすごい逆恨みがあったって話……」
ダメ男やないかい。
でもなんとなくわかる気もするか。大負けに負けたところに、颯爽と王子然とした青年が助けに来て助けられちゃうんだからな。自分が本物の王子なのに。
てか、ヘティーさんがさらっと話に出てきたけど、そうか、あの人も傭兵団率いてた時期か……。
「……皇国側に死神がいたとしても歴史的な大敗には違いありませんでした。その件もあって、兄もこのままでは父が私を後継者に選ぶから手を打ったほうがいいなどと、そそのかされたのでしょう。あのころ、兄の隣にはいつもソロ家の当主が控えていましたし……憶測でしかありませんが」
マジか。
ソロ家の当主って、つまりヘティーさんやエフタの父親ってことか。
世間狭すぎだろ。
ん? そういえば、ヘティーさんは父親の嫌がらせの為に傭兵団やってたとか言ってたっけ? その父親が、皇太子にベッタリだったから、皇太子軍を糞味噌にしてやったってことなんだろうか。
考えられない行動力だな……。
まあ、なんにせよイオンさんはハメられて今ここにいるってわけだ。
匿うのは問題ないが、ソロ家が関与してるとなると問題があるかもしれない。
うちはディアナの件で、ソロ家とは関係があるしエフタだって定期的にやってくる。ディダだって湖畔街行ってくるとか言って去っていったんだし、そのうち戻ってくるはずだ。
……でもまあ。変装してれば大丈夫か。
そうでなくても、エリシェに顔出さなきゃなんとでもなるだろう。
うちには他に目立つのがいるからな。
むしろ、イオンさんが嫌がるかもしれない。
うちはソロ家との関係者だし。
ソロ家といっても、ヘティーさんは味方になってくれそうだけども。
「……話は終わったかい?」
後ろから声を掛けられる。
振り返ると、シャマシュさんが腰に腕を当てたポーズで微笑んでいた。
いつからいたんだ。
「そこ封じるのはとっくに終わってたんだけどね、深刻そうな雰囲気だったから、先に公営坑道に行って封じてきたんだよ。……どうやらイオンの紹介は終わったようだし、私も自己紹介させてもらってもいいかな?」
残る最後の坑道も封じてきてくれたらしい。
話に夢中で気付かなかったな。
シャマシュさんは、俺たちを見回すとニコリと笑い、優雅にお辞儀した。
「私はシャマシュ・オーレオール。見ての通りの魔族というやつだ。特技は召喚魔法と各種魔術。攻撃魔術は氷結系が得意かな、そこのアヤセ君とは大精霊のお導きで、さっき出会ったのだ。ル・バラカが言うところの『お導きで出会った相手とは、一生の友達になれる』というやつだな。イオン共々、仲良くしてやってほしい」
みんな魔族というものに対してどういう思いを持っていたのか、やたらとフレンドリーに魔族を名乗るシャマシュさんに毒気を抜かれたのか、なんとなく全員押し黙ってしまう。
薄笑いでチラチラ様子をうかがい合っちゃったりして。
シャマシュさんはみんなのそんな様子を見ても、あまり意に介さず、ディアナのことを興味深そうに眺めている。
「ふふ……それにしても、まさかアヤセくんが連れているというエルフが、エンシェントエルフだとは驚きだったな! ほんとうに君は……いったい何者なんだい?」
そして、独り言のように、そんなことを呟いた。