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第104話  キュクロープスはパンクスの香り

 見るからに危険なモンスター。

 一つ目の巨人っていうと、サイクロプスとかいうやつか。目からビーム出してきたらどうしよう。


 なんでいきなり泣き叫んでるのか不明だが、とにかく危険だ。二重の意味で危険だ。

 こいつが俺のお導きにあった、『祭壇座アルターのアルゲース』というやつだろう。クマの時と同じく言葉をしゃべるし、ほぼ間違いなさそう。

 となれば、こいつを倒さなければお導きは達成できまい。


 いや、お導きの達成はこの際どうでもいいか。

 どっちにしろ、外に出てきてしまったモンスターは倒すよりほかにはないのだ。


「ディアナ! エリシェの神官さまに援軍頼んだのって、どれぐらいで到着するのかわかるか?」

「おっ、おそらくあと1時間ほどで着くはずなのです!」

「けっこうかかるな……」


 今は単眼の巨人だけだが、そのうちオークやゴブリン、さらにはそれ以外のモンスターも湧きだしてくるだろう。

 すべてを抑えるのは無理だ。今ある戦力でやれることは限られている。

 だが、モンスター相手に逃げる場所なんてない。隠れても魔力源を見つけて自動追尾してくるんだから。

 究極的には、自分たちだけなら逃げ切れる。そして、それを責める者もいないだろう。

 だけど、うちの子たちはなぁ……。

 逃げるなんて選択肢は拒否するだろうし、俺としても、できるだけのことはやんなきゃダメかなと思う。てか、まあ、確実に俺のお導き関係で起こった事態なんだろうしな。

 もちろん、エリシェから援軍が来たら丸投げにする気マンマンだけどね。


 なるほど、ヒトツヅキが厄介な災害だってのがよくわかる。

 ちゃんと準備をしてなければ、必ず被害が出る。しかもモンスターに殺されるという形で出るのだ。

 さて、困った。



 ◇◆◆◆◇



 俺たち、というか俺がグズグズしてる間に、シャマシュさんは行動を起こしていた。

 戦う気だ。

 腕を振り上げ、ゴブリン相手にも使っていた氷の槍を空中に出現させる。


 空中に浮かぶ鋭利な氷柱は全部で6本。

 巨大なサイクロプスはゴブリンなんかとは比べられないほど、デカイまとだ。

 すべての氷柱が、シャマシュさんの腕の振りと共に弾丸となりサイクロプス目掛けて射出される。

 すべて命中したかと思われたが――


「レジストッ!?」


 サイクロプスに命中した氷は、サイクロプスを覆う透明な壁のようなものに当たり、6本中4本が砕けてしまった。

 魔法無効化能力というやつだろうか。そういうのもあるのか。

 戦うならシャマシュさん頼りにする予定だったんで、これはなかなか痛いかもしれない。

 でもまあ、2本は命中している。物量で押せばなんとかなるのかな。


 巨人はというと、突き刺さった氷柱を見てキョトン顔。

 すごくバカっぽい仕草だが、それ故に恐ろしくもある。

 なにしでかすか分からない系。


「うおおおお! い、いだいぃいぃいいい! なんでごとすんだよぉおおおおお!」


 でかい一つ目から、レモンサイズの涙をボロボロと流し叫ぶ。


「モンスターって痛覚あるんだな……」

「いろいろと規格外ね。なんなのあいつ……」


 レベッカさんも若干引き気味だ。モンスターって魔力溜まりから湧く『現象』なんじゃなかったっけ。アルゲース氏はすごい生物感あるタイプやぞ。


 水たまりができるほどの涙を流したサイクロプスが、癇癪を起こしたように右手に持った槌をブゥンと振り上げる。

 槌の周囲で瞬きはじめる、青、白、黄色の雷光キラメキ

 バチバチッとスパークする音がここまで聞こえてくる。


 ……あかん。

 アレ、確実にあかんやつや。


「シャマシュさん、逃げてッ!」


 叫ぶ。

 シャマシュさんとサイクロプスとは、まだ15メートルほども距離がある。


 こちらを振り返り、首をかしげるシャマシュさん。

 逃げろたって意味がわからないかもしれない。


 勢いよく振り下ろされる槌。

 サイクロプスとて、槌が物理的に届かないことぐらいは承知だろう。

 完全にアホみたいなモンスターではあるが、そこまで底抜けなバカでもないはず。


 雷光を迸らせながら振り下ろされた鉄槌の先端が地面に接触した刹那、激しい雷鳴とともに、幾条もの細い稲妻が周囲へ広がった。


「――ッ!?」


 さすがのシャマシュさんも、一瞬で迫り来る稲光りを躱すことはできなかった。

 爆心地を中心に、一瞬で光の噴水が完成する。

 雷の速度は亜光速。避けられるわけがない。


「ぴっ!?」


 直撃を喰らい、ビクンと身体を硬直させ、


「はらほれひれはれ……」


 力なく崩れ落ちていくシャマシュさん。やっぱりあかんやつだった! 

 そもそも、稲妻って横に飛ぶようなものだっけ? よくわからないが、感電させられたのは確かだろう。

 雷属性の槌。まさに、雷鎚イカヅチってやつだ。


 前にディアナとマリナ用の護身用具としてスタンガンを買ったんで、自分の肉体で試したことがあるのだが、あれはけっこう洒落にならないものがあった。

 本当に動けなくなるのだ。それに近いのかもしれない。


 まあ、パッとみた感じ、シャマシュさんの意識はちゃんとしてるようだし、そこまで深刻なダメージではなさそう。

 いや、感電ってけっこう洒落にならないからな、不幸中の幸いと言うべきなのか? これは。実際、威力がたいしたことがなくて運が良かったといえばそのとおりなんだが。


 てか、武器による特殊効果の全周囲攻撃みたいので、致命的な威力があったら、どう考えても倒せないかんな。

 いや、一時的にでも戦闘不能ってだけでもだいぶヤバいんだが。


「マリナっ! 付いてこい、シャマシュさん回収するぞ!」

「了解であります!」

「ディアナは精霊石用意しといて。やばそうなら使うから」

「えっ、あっ、はいっ!」


 とりあえず、俺は飛び出してシャマシュさんを回収することにした。

 マンガみたいにぴくぴくしてるんで、はやく助けないとヤバい。物理的にゴスン! とやられたらミンチになってしまう。

 てか、さっさと作戦を考えて実行してかないといかん。時間はないけど、だからこそ効率のいいやりかたをとらないと。


 一つ目サイクロプスは、シャマシュさんの魔術である氷の槍を、四苦八苦しながら肩から抜いている最中で、こちらの動向には気を払っていない。敵の排除に全力なタイプじゃなくて助かった。

 サイクロプスとの距離は15メートルほど離れてるんで、シャマシュさんの回収は簡単だった。

 えっほえっほと運んで、合流する。


「うう……すまなかった。助かったよ。格好付けて飛び出しておいて……とんだ失態だったな……」


 まだちょっとビリビリしてるようだが、案外平気そう。

 攻撃というより、スタンの状態異常ってイメージだな。


「いえ、あれは読めませんよ。たいしたことなさそうで良かったです」

「ビリっと来て体の自由が利かなくなったが、これといってダメージが残ってる感じじゃないからね。……しかし、あれは恐ろしいモンスターだぞ、魔術も効きにくいし……」

「ホントにダメージないんですか?」


 雷だったら、いろいろダメージ残りそうなもんだが。魔族だから平気なのかな。


「ああ、ああいう魔術は多少無効化できるからね。これでも魔族だから……。だが、君たちはそうもいかないだろう。あれの対策ができなければ、戦い様がないんじゃないか?」


 確かに対策なしでは、どうしようもないだろう。全員で攻撃してる最中にあれをやられたら一発で全滅もありえる。これから、サイクロプスだけじゃなく、普通のモンスターの相手だってしなきゃなんだから。

 動けなくなったところを、生きたまま丸齧りとかホント勘弁。

 てか、魔術なんだあれ。いや、そりゃそうか。


「とにかく、これからどうするか考えましょう。被害を出さないために早めに対処してかないと。……幸い、あの一つ目巨人は足は遅いようなんで、誘導できれば時間を稼げるかもですが、問題は――」


 今はまだ沈黙を保っている坑道の入り口を見やる。

 シャマシュさんもわかってるようで、コクリと頷いた。


「……ああ。ミミックがやられたから、普通のモンスターが坑道から出てきてしまうな。ルクラエラでは、坑道外にモンスターが出てきてしまったことは、ここ何年かほとんどないはず。住民も対応できないだろう」


 そんなことになれば、被害がどういう形で出るのか想像もできない。ルクラエラにどれくらいの人間が住んでいるのかは知らないが、かなりの犠牲が出るだろう。

 だから、できれば囮を使ってでもすべてのモンスターの流れを一本化したい。

 だが、それをやるには人数も力も不足している。


 チラリと窺うと、一つ目がこっちをポカンとしたアホ面で見ている。

 巨大な単眼。瞳はトルコ石のブルー。ぺちゃんこの低い鼻。下唇から突き出た二本のキバ。モヒカン。半裸。

 ……実にパンクだ。

 槌を振り下ろすアクションも、なんとなくパンクスがギターやらベースやらを叩きつける感じに似てなくもない。


 もう周辺には人はいないようだ。シャマシュさんから説明を受けた地元の戦士が、状況を伝えて逃がしてくれたらしい。マルコ兄妹もすでに逃げている。

 となれば、当然、我々が標的だ。

 もちろん、それはそれでいいのだが。


 サイクロプスがノッシノッシとこっちへ向かってくる。

 なにを考えてるのかわからなくて怖いが、図体がデカいからか移動速度は驚くほど遅い。人間の徒歩ほどの速度だ。

 俺たちは、とりあえずサイクロプスとの距離を一定に保つように山道を下りながら、作戦会議を続けた。

 サイクロプスが「なんだよぉおお、逃げんのかよぉおおおお」とか喚いているのが聞こえてくるが無視だ。


 坑道の入り口を見る。

 まだ他のモンスターは湧き出してはいないが、時間の問題だろう。


「坑道にもういちどトワイライトミミックを仕掛けられればいいんだが……」


 シャマシュさんが言う。

 確かにそれが最善だろう。どの程度モンスターが湧いてるのか知らないが、全部出てきたら地獄絵図だ。


「レベッカさんどう思います?」


「私たちであの大型モンスターを足止めしてる間に、魔族さんには坑道に潜ってもらうしかないんじゃない?」


「ええ、まあそれがスマートではあるんですが、問題があるんですよ。モンスターって大きい魔力に惹かれていくんでしょう? そしたら、シャマシュさんのところに全部集まっちゃうじゃないですかね。そうなったら完全に挟撃になっちゃうんで、できれば、今出てきてるモンスターは囮部隊が全部引き受けて、その間にシャマシュさんが速やかにミミックを設置して来るのがいいと思うんです」


 今のところは、普通のモンスターは出てきていない。

 サイクロプスが来る前にいたやつらは、みんなトワイライトミミックに引っかかって亜空間へ落ちたのだろう。だが、ミミック無き今、新たに湧いたモンスターは際限なく外に出てくることになるのだ。

 だから、これの対処を速やかにやっておかないとマズい。


「いや、しかし……君たちにそこまでのことを頼むわけにはいかないよ。これは、もともとルクラエラの問題なんだから」


「シャマシュさん。もう、そういう問答するタイミングは逸しましたよ、やると決めたんなら最大効率のやりかたを導き出さないと。一番いいのは、シャマシュさんが安全かつスピーディにもう一度ミミックを仕掛けて、これ以上のモンスターが出てこないようにしてくれることです。もちろん、ミミックでなくても坑道の入り口を魔法かなんかで崩落させて塞いじゃうんでもいいですが」


 押し問答してる時間はない。時間が惜しいというレベルですらないのだ。さっさと決めて行動しないと、危険があぶない。


「ありがとう、アヤセくん。……それならモンスタートーチを作ろうか」

「モンスタートーチ?」

「魔結晶を材料にして、モンスターを寄せるトーチが作れるんだ。ほんの少しの間でいい、囮をやってくれればすぐに戻ってくる」


 おお、そんないいものが。

 要するに、疑似的、もしくは実際に魔力の塊みたいなものを作り出すことによって、モンスターの目標とするってことだろう。

 確かに、それがあればシャマシュさんの行動を阻害されないかも。


「じゃあさっそく作る。トーチの炎が灯っている間、周辺のモンスターはすべてこの炎に引き寄せられてくるから注意してくれ。……本当に構わないんだな?」


「サクサクいきましょう。いざとなったらトーチ放り投げて逃げますから大丈夫ですよ」


「わかった。……助かる」


 そう告げて、手にした一握りの魔結晶にぶつぶつとなんらかの呪文を唱える。

 すると、魔結晶が一本の青白いたいまつに変化した。

 たいまつには、墨で描かれたような、非現実的な黒い炎が輝いている。


「すげえ」


「よし……。これでモンスターはすべてこれを目標にするはずだ。すぐに戻るからくれぐれも気をつけてくれ」


「ええ。ってか、護衛は? モンスターが出てきますし、一人ではきついでしょう。俺か、マリナでも付けますけど」


「無用さ。多少はモンスターと戦う必要が出るだろうが、身隠しの魔術と併用して進むようにするからね」


 身隠しの魔術なんてのもあるのか。本当に多彩だな。

 ファンタジー世界は魔法なんていうナチュラルチートがあっていいな。

 現実世界にあっても、食い逃げぐらいしか活用法思いつかないけど!


「では、くれぐれも気を付けて」

「もちろんだ。私は君の奴隷になるんだからな」


 ははは、と朗らかに笑う。

 すごい死亡フラグっぽいな。と思ったがそれは言わずにおいた。

 まあ、大丈夫だろう。てか、こっちもだいぶあぶない。


 シャマシュさんが身隠しの魔術とやらを唱えると、存在感が一気に希薄になった。そして、道を大きく迂回してコソコソと坑道の中に入っていく。

 モンスタートーチの効果はテキメンで、一つ目・・・もシャマシュさんには気も留めずこっちに向かって来ている。

 坑道からはすでにモンスターがそれなりに出始めており、もし見つかればシャマシュさんの命はまさに風前の灯火だ。

 だが、もう信じるしかない。


「よし! 俺たちも逃げましょう。足の速さの違いで、一つ目巨人サイクロプスより突出してきたやつを倒しながら後退! トーチはエトワがもって一番前をすすめ! エレピピは道具持ちとエトワの護衛! ディアナは精霊石でいつでも回復魔法が使えるようにしろ! マリナとレベッカさんと俺は戦闘! 大親方と親方もエトワたちを守ってあげてください! イオンさんは真ん中あたりにいて!」




 ◇◆◆◆◇




「でも、どうするのジロー? 逃げるのはいいけど、このままじゃ下ったら街中まですぐよー?」

「そうなんですよね……。せめて、ルクラエラの戦士とかで使える人がいればいいんですが」


 ルクラエラにはダンジョンと化した旧鉱山があり、そこで稼いでる戦士だか冒険者だかがいるという話だが、当てになるのは、そういう職業冒険者くらいだろう。

 鉱山付きの戦士は、自分のところの警護(なんぼトワイライトミミックを仕掛けたといっても、持ち場を離れるわけにはいかないだろう)があるだろうし、エリシェと違い常駐騎士がいるわけでもなさそう。憲兵はそれなりにいるようだが、戦闘力としては期待できそうもない。

 あとは、ルクラエラのエルフが手伝ってくれるかどうかが、キモってところか。


「なんにせよ、戦わざるをえないです。結局のところ」

「それはいいけど、さっきの攻撃はどうするの? ピカってやつ」


 さすがのレベッカさんも雷は苦手らしい。


「びっくりしたけど、ちょっとキレイだったであります」

「すごい音でしたね! ゴロゴロピカっとしましたから、あれは雷でしょう!」


 マリナが言うとおり、キレイといえばキレイだったかもしれない。だけど、凶悪な攻撃でもある。

 エトワは、あれが雷だと推察したようだ。


「あの攻撃に関してはちょっと試してみたいことがあるんで、試しにやってみましょう。あれだけは封じなきゃ、遠距離攻撃以外できませんからね」

「ええっ? どうするの? 盾でも使ってみる?」

「いえ、レベッカさん、たぶんあの攻撃は盾では防げないです」


 盾もろとも感電するだけだろう。

 むしろ、金属製の盾では逆効果ですらありえる。 


「じゃあ、どうするのよ」

「まあ、見てて下さい。そしてダメだったら、さっきのシャマシュさんみたいに回収してください」

「あ、主どの! 大丈夫なんでありますか……?」

「平気だよ……たぶん。いざとなったら、ディアナの魔法があるからな。まさか一発で死んだりはしないだろ。だからって、絶対に飛び出すなよ、マリナ」

「りょ、了解であります」


 俺は、エレピピから片手剣を借りて前に出た。

 サイクロプスが足を止め、怪訝そうな表情をする。


「なぁんだぁ? 逃げるのはヤメたのがぁ?」


 けっこう、よく喋る奴だ。意思疎通できんのかな。


「ちょっとね。それより、お前って、アルゲースって名前?」

「そうだぁ。なぁんで知ってんだぁ? そんなに有名なのがぁ? おれ」

「う、うん……」

「そっかぁ。ゆうめい……。シシ、シシシシ」


 口元に手をやってクシシシシと忍び笑いするアルゲース。

 実に変なやつだ。


 まあ、とにかくこれで確定した。

 こいつを倒せばお導きは達成。ていうか、どう考えても俺のお導きで出てきたって感じなので、ルクラエラの住民にはごめんなさいとしか言いようがない。

 しかし、これは不可抗力だ! 悪いのはイベント企画会社だ! 精霊だ! 俺は悪くない!


 シシシシと笑って、これといって攻撃してくる素振りを見せないアルゲース君。

 モンスターのくせに、いまいち好戦的じゃなくて辛い。出てきた時は、地上のやつらは皆殺し! と宣言してたくせに。


 俺が、さらに数歩近づくと、笑うのを止め真顔で身構えるアルゲース。


「おおっとぉ! ダマされるところだったぞぉ。それ以上近づいたらビリビリだぁ」


 別になにも騙してないが、なにか警戒されてしまった。

 いや、有名って嘘ついたから、騙したと言えるのかな。まあ、どっちでもいい。


「俺にはビリビリは効かないよ。というか、俺たちは全員ビリビリが効かない魔除けを持ってるんだよ」


 適当に吹かす。


「うっ、うぞだぁ! ビリビリは必殺技だぞぉ!」

「嘘だと思うならやってみなされ」

「うそだっ! ぜったいにうそだっ!」


 両腕を振り上げて「嘘だ嘘だ」と喚く。面倒くさいんで、さっさとしてほしいが、時間稼ぎになるから、これはこれで悪くないのかもしれない。


「うぉおおおお! 喰らうえぇええええ!」


 そしてビリビリ属性の槌を振り上げる。

 さっきと同じ、大振りなモーション。


「ほいっと」


 俺はエレピピから借りた鋼の剣を自分の目の前の地面に突き立てて、距離をとった。

 次の瞬間、アルゲースが振り下ろした槌を中心として、雷鳴と共に稲妻がゆるい放物線を描き、光の噴水が完成する。

 だが――


「?」

「ほら、効かないだろ?」

「???」


 まったく効いてないよ? と肩をすくめる俺の姿に、巨大な単眼をパチクリさせて首をかしげるアルゲース君。

 いや、別に可愛くないから……。




 ◇◆◆◆◇




「なぁあああ! まただぁ! なんで効かねえんだよぉおおおお!」


 サイクロプスが叫ぶ。

 自慢のビリビリ攻撃を何度も無効化されてお冠だ。

 こっちとしては実はギリギリなんだが、効果がない相手だと思い込んでもらわないと困る。そして、その攻撃を使わないでいただけると実に戦いやすくなるのだ。


「すごいであります。主どのは魔法使いであります」

「ふはは。連邦の新兵器ビームライフルとて、当たらなければどうということはない!」

「言葉の意味はわからないけど、すごい自信であります!」


 マリナが感嘆の声をあげてヨイショしてくる。

 ふふふ、伊達にワイドショーで何度も「落雷の恐怖!」みたいな特集見てないからね。

 上手くいったのは偶然かもしれないが、上手くいって良かった……。


「ぐ……ぐぞぉ……! ぐらえよおおおおお!」


 性懲りもなく、また槌を振り下ろす。

 一人で先頭にいる俺は、エレピピから受け取った鋼の剣を、ホイッと自分の前の地面に突き立てた。

 ほどばしる雷光が剣に引き寄せられ、バチコーンと回路が完成。

 電撃が地面へと抜けていく。


 稲妻は、当然それ自体が意志を持っているわけではない。

 横に雷が走る指向性がある理由はわからんが、放っておけば地面に吸い込まれていくんだろう。だからその中継地点に鉄の棒をさしてやれば、勝手にそこに誘導されていく。避雷針というやつだ。

 シャマシュさんが魔術だと言ってたんで、多少の不安はあったが近くの通りやすい道を通るという特性が同じで助かった。ターゲットが常に人間とかだったらアウトだったかんな。


 本当は全員で囲んで戦うのがいいのだろうが、それは雷対策が済んでからだ。

 幸い、アルゲース君はアホっぽいので、「なぜか無効化されてる」ぐらいにしか思わない模様。

 効かないから使うのやめるとなってくれればいいんだが……。


 ちなみに、坑道から湧き出して来た他のモンスターは、アルゲースのビリビリ攻撃にやられて痺れている。

 アルゲースの雷鎚は、細い稲妻がだいたい周囲300度の範囲に20メートル程度飛ぶんで、トーチに向かってくるモンスターが勝手に食らってくれるという結果になった。

 ゴブリンなどは電撃一発で死ぬので、それなりに高威力だ。

 ぶっちゃけ巨体を誇るオークなんかは、結構よい障害物になってくれるんで、動けなくしてそこらへんに転がしておけば、安全に戦えるのかもしれない。



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