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第106話  聖剣は神話の香り


「聖剣……」


 輝く白銀シロガネの刀身。幅広の美しい両刃の大剣だ。

 もともとのサビ剣と較べて、まったくの別モンというか、刀身の長さまで変わってるのが実にファンタジーだが、シャマシュさんが聖剣だと言うからには聖剣なのだろう。


 とりあえず鑑定をば……と、シャマシュさんから剣を受け取る。

 ズシリと重い。

 魔剣の10倍くらい重い。

 到底振り回せるとは思えない代物なんですけど……。


「重量級すぎる……」

「聖剣は所有者を選ぶらしいからね。重く感じるのは、アヤセ君がすでに魔剣に選ばれた遣い手だからじゃないかな。装備はでき・・・・・なさそうだ・・・・


 ふぅむ。確かに俺の魔剣も、俺以外にとっては使いにくいものらしいけど……。

 まあ、いいか。どうせ俺は持つつもりないし。


 ”真実の鏡ザ・ジャッジメント


 ――――――――――――――――――――――

 【種別】

 近接武器


 【名称】

 聖剣アスカロン


 【解説】

 サイクロプスが鍛えたとされる竜殺しの聖剣


 近接戦闘職が装備可能な剣

 聖剣固有スキル『英雄の魂』によりすべてのステータスが上昇

 聖剣固有スキル『勇者の一撃』によりクリティカル率が上昇

 竜に対してクリティカル率上昇


 【魔術特性】

 なし


 【精霊加護】

 全ステータス上昇 E

 クリティカル率上昇 D

 対竜 B


 【所有者】

 ジロー・アヤセ

 ――――――――――――――――――――――


「む! 今なにをした、アヤセくん。精霊魔法か!?」


 俺が、鑑定結果に驚くより早くシャマシュさんが反応した。

 鑑定は精霊さんがやっているらしく、精霊を感知できる人にはけっこうバレバレらしいのだ。


「秘密です」


 だが秘密だ。

 どっちにせよ、説明をしている時間はない。


 しかし聖剣。

 ガチで聖剣。

 付加効果もなんだか凄そう。

 ちょうどサイクロプスと戦っている時に、サイクロプスが鍛えた剣が出てくるってのも皮肉だ。まさか、あのアルゲース君が作った剣というわけでもないだろうが……。

 自分が打った剣で滅ぼされるとか、ちょっと神話的ではあるけどさ。


「まあ、それはさておき。これはいいものですよ。どうぞ」


 レベッカさんに聖剣を渡す。折れた剣の代わりだ。

 かなりのお得な付与効果が付いてるようだし、膠着した戦局を打破する材料としては申し分ないだろう。


「私が使ってもいいのー?」

「そりゃもちろん。これなら折れる心配もないと思います。たぶん」

「あ……でも、なんか重いわね、これ」

「マジっすか……」


 レベッカさんでも重いのか。まいったな。

 ひょっとすると、シェローさんくらいのマッチョじゃなきゃ扱えないのかもしれない。重い武器ってのは一つの価値ではあるんだが、あくまで扱えればの話だからなぁ。

 しかし、あと持ってきてる武器といえばナイフくらい。ナイフなんて、あのデカブツ相手には焼け石に水だ。


「……装備するかい?・・・・・・・


 突然、シャマシュさんが呟く。

 装備?


「え? 私? ……うん、装備するけど……って、え、ええ? なにこれ」


 レベッカさんが聖剣片手に視線を彷徨わせる。

 ワタワタと普段は見せない慌て方。


「えええ、う……うわぁ。すごい、なんなのこれ」


 剣をブンブンと素振りしながら、感嘆の声をあげるレベッカさん。

 聖剣が手にくっついて取れなくなったとか?

 実は聖剣というのは偽装で、呪われた剣だったとか!?


「大丈夫ですか?」

「えっ、うん……大丈夫なんだけどさ。なんかね、精霊さまが出て『聖剣アスカロンの装備者と承認します』って。それから急に剣が軽くなって、身体まで軽くなってね――」

「おおっ」


 魔剣と同じパターンだ。

 レベッカさんが装備者として固定されたってことなのだろう。

 しかし、いちいち武器の個別認証がキッチリしてんなこの世界。


「……って、そんなこと言ってる場合じゃないか!」


 レベッカさんが聖剣を携え、未だ元気に暴れまわっているアルゲースへと走る。

 実際、ゆっくり問答している時間はない。

 今はマリナがたった一人でアルゲースの相手をしているのだ。


 マリナは俺の言いつけを守ってか、安全圏をしっかり取って戦っている。

 もともと勇ましすぎるようなところがあるマリナだったが、俺がかなり厳しくクドクドと説明したのが功を奏したのかもしれない。

 どんな戦闘だって命あってのモノダネだ。


 レベッカさんとマリナがスイッチし、唸りを上げて迫るアルゲースの槌をかいくぐって輝く聖剣を一閃させる。

 光の欠片を激しく飛び散らせ、さすがの巨人もたたらを踏んだ。


「あ、効いた! ねえ、あれ効いたみたいですよね、シャマシュさん」

「ああ、すばらしい攻撃だ。使う人の差かな、君の攻撃よりずっとダメージあるみたいだよ」

「ははは……。腕の差かな……」


 アルゲースが、もんどり打って倒れる。

 これはチャンスと俺も打って出て、みんなで叩く。

 弱点臭い一つ目を重点的にザクザクと。

 チャンスだ! いっけーー!


「うがああああ! いっ、いだい! いだいいい!!」


 アルゲースはアクションがデカイので、ちょっと可哀想になるような、嗜虐心が煽られるような微妙な感じだ。

 しかし当然、攻撃の手は緩めない。

 フルボッコである。


 アルゲースが腕を振り回して暴れ、立ち上がる。

 うーぬ、さほど攻撃できなかった。


「効いてるぞ! たたみかけろっ!」


 シャマシュさんが叫ぶ。

 騎士サーの部長だ。


 とはいえ、全員で斬り掛かるのは事故率が高いんで、結局いつもどおり一人ずつチマチマやるしかない。

 この効率の悪さ!


 レベッカさんが攻撃している間、俺は下がって休憩。

 とりあえず、俺とレベッカさんとマリナで、足止めはOK。

 普通のモンスターはアイちゃんが倒してくれているので、こっちもなんとかなっている。

 しかし、なんだろうなこれ。

 間延びした戦いはテンションの維持が難しいぞ。


「アヤセくん。そろそろアイちゃんは時間切れだ」

「えっ?」


 見ると、空中に浮かびモンスターを殲滅していたアイちゃんが、空中に溶けるかのように消え去っていく。

 燃費が悪いって言ってたけど、まだ10分くらいなんだが……。


「また呼び出せないんですか?」

「いや、もう少ししないと無理だ。アイちゃんは特別なのさ」


 そうなのか。じゃあ、他の召喚魔獣を呼んでもらうか?

 もしくは、シャマシュさんの魔力が回復してるなら、シャマシュさんにモンスターの掃討役をやってもらうとか……。


 いや、モンスターの相手なら、俺やレベッカさんやマリナでもできる。

 シャマシュさんの話では、マリナの攻撃はほとんどアルゲースに通っていないらしい。

 とすると、マリナにモンスターのほうやってもらって、足りてない遠距離攻撃をシャマシュさんにやってもらったほうが効率的だな。よし。


「モンスターのほうは、マリナに回ってもらいます。シャマシュさんは魔力が回復次第、魔術攻撃で援護をお願いします」

「いいのか? モンスターの相手ができる程度の魔獣なら呼べるが……」

「じゃあ、それも頼みます」


 シャマシュさんが魔結晶を使い、シャドウナイト君を呼び出す。

 シャドウナイト君は、アルゲース相手にはケチョンケチョンだったが、ゴブリンやオーク相手ならほどほど戦えるのだろう。


「じゃあシャドウナイト君は、ゴブリンをメインで狩ってくれ」

「イエス! イエス! マイロード!」

「マリナはオークとかゴーレムをメインで。あ、ゴーレムは無理に倒さないでいいから。やり方はわかってるな!」

「了解であります! 大丈夫であります!」


 マリナとシャドウナイトの騎士コンビが元気に返事をして走って行く。

 モンスターといっても特に強烈なのは出てきていないが、危険があるのには変わりない。事故が起こる可能性はゼロにはできないだろう。動きが遅いのが多いが、その分どいつもこいつもパワー型だ。ゴブリンは力こそないが、チョロチョロとうるさい。


 現在エトワが持っているシャマシュさん特製のトーチはかなり強力なモンスター寄せの効果があり、アルゲースも坑道から湧き出したモンスターも基本的にはこいつを目指してくる。

 とはいえ、当然、なにがなんでもトーチを目標にするというわけではなく、人間が近くに寄ればターゲットを切り替えて攻撃を仕掛けてくる。

 だが、相手は動きの遅いオークやゴーレムだ。走って逃げればまず逃げられる。そのうえ、一定距離以上離れるとターゲットが剥がれて、またトーチを追うようになる。

 モンスターの習性というやつだろうが、実に便利である。

 ゲームでいうなら、必ず逃げられる確約がある戦闘みたいなもんだ。

 だから、マリナにはヒット&アウェイでうまく戦うように指示してある。

 うまくやってくれるだろう。


「さて、あとは俺とレベッカさんとシャマシュさんで、アレを倒しきれるかどうかですが」

「うん。聖剣の効果で、さっきよりはダメージを蓄積できているが、まだかかるぞアレは。もともとヒトツヅキのラストに出るモンスターは体力バカが多いが、あれは別格だな」


 体力バカ……。

 確かになかなか死なない。武器を手放させることができれば、倒せるんだがどうもそれも無理っぽい。

 レベッカさんが聖剣で、ぶっ叩いてるので、かなりダメージ与えられてそうだし、俺も頑張ってるんだが……。


 しばらく交代でチクチクと攻撃を続ける。

 未だに援軍は来ない。どうなってんだ。


「うぉおおおお! 邪魔だぁあああああ!」


 久々にアルゲースがビリビリ攻撃のモーションに入る。


 反射的に離れてから、剣を地面に刺す。魔剣ってあんまり電気通りそうもないイメージだが、ちゃんと避雷針の役目は果たしてくれている。


「あっ、まずい」


 レベッカさんの距離がアルゲースと近すぎる。

 奴の電撃は放物線を描いてくるんで、近くにいると剣をさしてもおそらく防げないのだ。


 ドゴン! と激しく音を立てて振り下ろされる雷槌。

 一瞬で構築される光の噴水。


「ぴゃん!」

「レベッカさんっ!」


 頭から直撃くらってしまった。

 シャマシュさんが食らった時の感じからすると、命に関わる威力ではなさそうだが。


 倒れてピクピクしているレベッカさんを、急いで回収する。

 アルゲースはビリビリ攻撃の後しばらく動かないので(動かないんじゃなくて、動けないのかも)、無事に回収できた。


「レベッカさん大丈夫ですかッ!?」

「はらほれひれはれ……」

「ダメっぽい!」


 精霊石を使えば即回復可能だが、正直もったいない。もったいないとか言ってる場合でもないんだろうが精霊石って1つ300万円もするんだよ!


「とりあえず、レベッカさんが回復するまでディアナとイオンさん、看てて!」

「任せてなのです!」

「えっ、あっ、はい!」


 時間経過で治るだろう。ダメそうなら精霊石を使えばいいしな。


「私も、だいぶ回復したよ。援護射撃は任せてくれ!」


 シャマシュさんが言う。

 回復といえば、レベッカさんとマリナは、すでにかなり疲労が蓄積されているはず。ずっとガチ戦闘してるんだから当然だ。

 だが、俺はけっこう元気。ぜんぜん元気。魔剣のスキルである『吸収』が発動するたびに、体力が回復するからだ。

 非常に長期戦向きなスキルだ。

 理論上、永遠に戦っていられそう。怪我しなきゃだけど。


「あ、あのっ、ご主人さま!」


 シャマシュさんに援護を頼み、飛び出して行こうとしたところで、ディアナに呼び止められた。


「どうした?」

「なにも言わず私の手を握って欲しいのです」

「なんで」

「いいから、はやくっ!」


 わけもわからず言われた通りにディアナの手をにぎる。

 ひんやりしてるな。


「……私がもったいぶったばっかりに……苦労させることになったのです」


 ディアナは悔いるような声音で呟き、俺の手を握る力を強めた。

 そして、瞳を閉じ、なにごとか一言二言、ボソボソと呟く。

 ピカっと精霊魔法特有の輝きが生じ、すぐに収まった。

 んん? なにこれ?


 ポンッ!


「よおよお! クラスアップ&お導きの達成おめでとう! アルカスに続いてアルゲースともやるなんざ、なかなか無鉄砲だな! 奴を倒すと良い武器がドロップすっから、頑張って攻略してくれよ! んじゃな!」


 ポンッ!


 俺の手には紅い精霊石。ガーネットだろうか。

 つまり……。


「クラスアップ?」

「……はい。本当は二人きりでって思ってたのですけど……そんなこと言ってられる状況じゃなくなってしまったのです。天職、変わっているはず。ご主人さまご確認を」


 転職か……。

 てか、こんな簡単にできるなら、すぐやってくれても良かったのにな、ディアナも。

 ご主人さまとの交流に飢えてるのかな。


「まあ、いいか。天職天職天職!」


 ――――――――――――――――――――――

 【 名前 】

 ジロー・アヤセ


 【 年齢 】

 21歳


 【 性別 】

 男


 【 種族 】

 人間


 【 天職 】

 魔術師ウィザード

 鍛冶師ブラックスミス

 細工師クラフトマン

 詐欺師トリックスター

 商人トレーダー

 料理人コック

 宝石学者ジェモロジスト


 【 固有職 】

 異界の賢者ザ・ライブラリー

     〈スキル〉異世界旅行ザ・ジャーニー

     〈スキル〉世界の理ザ・プリンシプル

     〈スキル〉真実の鏡ザ・ジャッジメント


 四番目の魔剣使いザ・ビーストスレイヤー

     〈スキル〉百獣の王ザ・ライオンハート


 【 バラカのお導き 】

 ・御用商と商取引をしよう 2/3

 ・祭壇座アルターの『アルゲース』討伐 2/3

 ・湖畔街へ行ってみよう 0/3

 ・マイホームを手に入れよう 0/1

 ・運命の大車輪?・?????? 9/10


 【 所属クラン 】

 クランネーム:アルテミス

 マスター:ジロー・アヤセ

 サブマスター:ディアナ・ルナアーベラ 

 メンバー数:6

 ランク:ホワイト

 ―――――――――――――――――――――――


「………………」

「……ど、どうだったのです? ご主人さま」


 えっと……。

 固有職のことは、まだ誰にも言ってなかったんだよな。過去に固有職持ちだった人は、数人しか発見できてないとかなんとかで。騒ぎになりそうだからと。


 俺の天職がたくさん……8個もあるってのは、何人かは知ってたはずだけど……。

 てか、固有職、一つどころか二つに増えてしまったんですけど!

 剣士が魔剣使いになったってことなんだろうけど、わざわざ固有職になることないのに……。

 いや、嬉しいけども! 

 スキルまで付いてるけども! スキルの効果がまたよくわからんやつだけれども!


「……? な、なんでそんな顔を……。なにか変な天職になってしまったのですか?」


 ディアナが心配そうな顔で身体を寄せ、手をグッと握りこんでくる。

 言わなければ、この手は離さないぞ! という気迫が伝わってくるようだ。


「いや、そうじゃない」

「では、どうだったのです? クラスチェンジは、なにか既存の天職が違うものへと変化するのです。ご主人さまの天職にも変化があったはず」

「えっと……そう! 魔剣士だって! 魔剣士! 魔剣使ってるからダネ!」

「魔剣士!? 聞いたことのない天職なのです! すごいです、ご主人さま!」


 はい、「すごいです、ご主人さま」いただきましたー。

 って、こんなことやってる場合じゃない。


「とにかく、ありがとう。ってか、天職が変わっても別に急に強くなるわけでもないんだろ?」

「いえ……どうでしょう。天職が未だに未設定の私には、天職がどういうものかの体感がありませんから……」

「それもそうか」


 ま、出たとこ勝負だ。

 どうせやることは変わらない。


 魔剣を握り締める。

四番目の魔剣使いザ・ビーストスレイヤー』だなんて、もう完全にこの剣由来の天職。

 ならば、その分うまく剣を使えるようになるような天職であることを願うばかりだ。




 ◇◆◆◆◇



「うぉあおおおお! 幸せになりたがっだぁあああ!」


 何十、何百ものアルゲースとの攻防の末。

 無限に体力があると思われた単眼の巨人がついに膝を折った。

 俺たちもこれが勝機と攻撃の手を緩めず一斉に襲いかかる。絵的にはどっちが悪者かわからないレベルだが、仕方がない。

 俺たちも生きるのに必死なんだー!


「イリャァアアアア!!」


 レベッカさんがビカビカと輝く聖剣を、膝を着いたアルゲースへ全力で振り下ろす。

 慈悲はない。

 これには堪らず、さすがのアルゲースも真っ二つ!! ――にはならなかったが、この一撃が決め手となった。

 力なく崩れ落ち、


「お……お日様の下で暮らしだがっだ…………」


 物悲しく呟き、アルゲースは消滅したのだった。


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