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第140話  再出発はミリオネアの香り


 それからしばらく慌ただしい日が続いた。


 まず、なんといっても商売のことだ。

 前に借りた物件のほうは、パレード後に新規オープンのつもりだったのだが、結局鏡が割れたゴタゴタで未だに開店できていない。だから、やってる店はといえば、相変わらずにエリシェの露店だけなのだが、これも在庫が全然ないので、ほとんど開店休業状態だったのだ。

 まあ、幸いにしてうちの店はただの露店なので、在庫がなくなってきても、さしたる問題にはならなかったようだ。

 とはいえ、商品がないのも問題なんで、急いで補充したのは言うまでもない。


「それで、これが布の代わりに売ってたもの?」


 俺は久々に店に出て、ネコの獣人カナン族の店員エトワに話を聞いていた。

 俺がいない間、エトワとエレピピの二人で店を護ってくれていたのだ。


「はい、ボス。ダルゴスさんが作って持ってきてくれたもので、なんでもフォールディングナイフってものだそうです。ボスのアイデアだって聞いてますけど」

「まあ、それはそうなんだが……すごいな」


 そのナイフ・・・を手に取り確認する。

 フォールディングナイフ。つまり折り畳み式のナイフのことだ。

 鋼材は、俺があの鏡が割れる前に持ち込んだ板材だろう。

 大親方は、ずっと前に俺が売ったナイフを研究していた。だから、このナイフの作り方は、現代ナイフと同じ「削り出し」だ。板状の鋼材をナイフの形に切り出し、整形後に焼入れしてある。焼入れはただ闇雲に熱して冷ませばいいわけじゃないんで、大親方の熟練の技の見せ所だっただろう。


 グリップ部分からブレードを引き出す。

 ブレードは5センチ程度の片刃で、形状は万能に使えるユーティリティー。

 グリップは木製で、留め金だけ金属製。ブレードは金具を回して固定ロックする方式だ。前にサンプルとしてオピネルのナイフを見せたことがあるから、それを参考にしたんだろう。


「いいじゃないか。さすがだな」


 俺は素直に感嘆した。

 これなら携帯しやすい道具としてエリシェ民にも売りやすいし、フォールディングナイフが存在しないこの世界では、オリジナリティもバッチリだ。

 鋼材自体はステンレスじゃないから、錆びるし手入れも必要だが、それゆえに変にすごすぎることもない。ちょっとアイデアが良い商品といったところ。


 折り畳みの機構もバネなどのギミックを用いず手動なのがいい。

 素朴だが必要十分だ。


「価格は?」

「まだ大量には作れないということで、少し高めですが、300エルで出しました。それでも、現在は予約待ちの状態です」


 エトワが淀みなく答えてくれる。

 300エル、つまり銀貨3枚。日本円だと、4~5万円というくらいか。

 新技術が使われている商品ということを考えると、安いような気もするが、一般人が普通に使う道具として買うものとしては、このへんが限度だろう。

 ナイフ一本で4万というのは十分すぎるほど高いのだが、そこはさすがエトワというべきか、予約待ちという状態なら言うことない。絶妙な値付けセンスと言えるだろう。


「それで、作り手の説明はどうしてる?」

「もちろん企業秘密としました。また、銘をどうするかダルゴスさんに聞かれましたが、これは独断で『アルテミス』としてもらっています」


 ナイフのブレード部を確認する。

 異世界語で文字が刻印してあるんで、読めないのだがアルテミスと打ってあるのだろう。


「いいね。この調子で頼む。あっ、エレピピもありがとな、俺の留守中、店に出てくれてたんだろ。劇場のほうの仕事は大丈夫だったのか?」


 エトワの隣で静かに話を聞いていたエレピピが、急に話を振られて目をパチクリさせる。


「……お仕事だから。大丈夫」


 プイッと顔を逸らして答える。


「そうか? ……まあ、でもこれからは俺も復帰するし、来れる時だけでいいぞ」

「……若旦那、なんでそんなこと言うの?」


 今度は、半眼で睨むようにして、にじり寄って来るエレピピ。

 なんなんだ。


「いや、なんでって……。エレピピはバイトだし、女優のほうだって頑張んなきゃだろ」

「……そ、それはそうだけど……。その、もっとこう……あるんじゃないのかなぁ……?」


 半眼というより上目遣いで見詰めてくるエレピピ。

 いや、だって実際、劇団のほうだってあるし、女優になるの夢だったんじゃないのか? まあ、騎士隊だって入ってるしバイトでお金だって稼がなきゃだろうけどさ。


「ボスは女心にはからっきしですね!」


 俺が狼狽えていると、エトワがきっぱりと言う。

 だって全然経験ないんだもん!


「エレピピさん、ボスにはもっとハッキリ言ったほうが効きますよ」

「……そう? そうなんだ……」


 なぜそんなことをエトワが知ってる……!?

 まるで俺が鈍感ヤローみたいじゃないか!


 エトワの言葉に、エレピピが拳を握りしめ気合を入れる。

 渾身のストレートを打ち込んでくるオーラが立ち込める。


「……ねえ、若旦那。私、がんばったでしょ?」

「ああ、すごく助かったよ」

「……じゃあ、よくやったって褒めて、頭を撫でて、抱きしめて。そして私が必要だと言って」

「エレピピさん、すごい。すごいストレート」


 上目遣いのまま、至近距離までにじり寄ってくるエレピピ。

 もちろん、ここは外である。露店である。屋敷とかでならまだしも、こんな公衆の面前で、んなことできるか!


 ……とは言え、エレピピが頑張ってくれたのは確かなこと。

 鏡が割れて、ディアナは屋敷に閉じこもってたし、マリナはずっと訓練ばかりしていたし。そんな状態で、店のことを見てくれていたのはエトワとエレピピだけだったのだ。


 俺は手を伸ばした。


「……ん。これだけ?」


 頭を撫でられて、不満そうな口ぶりだけど、口元は緩んでいる。


「みんな見てるだろ……。とにかく、エレピピには感謝してるよ。お前抜きじゃ、店は継続できなかったかもだしな。これからも、なるべく来てくれるか?」

「……そうじゃなくて。…………『来い』って言って」

「え、ええ?」

「……じーー」

「マジか」

「……じーーーーー」

「そんな目で見るなよ……。わかったよ、コホン……。これからも店に来いエレピピ。いいな」

「……うん」


 ポッと頬を染めるエレピピ。

 なにが良かったのかさっぱりわからないが、大丈夫なのかこいつは……。


「ま、なにはともあれ、二人には助けられた。特別ボーナスも出すつもりだから、楽しみにしててくれ」

「あっ! なら私はお金より、前にボスが言ってた関数電卓ってのが欲しいです! あと、新しい数学本!」


 エトワがはいはいはーいと手を挙げる。

 関数電卓か。前に調べたら案外安かったから買ってもいいな。使い方は俺もわからんが、エトワなら自分でなんとかするだろう。


「……私はお金より、愛が欲しいワン」


 気だるげに言うエレピピ。どこまで本気なんだこの人は。


「エレピピはお金で貰わなきゃだろ。妹から借りてる分は返したのか?」

「……うっ……。弱いところを的確に攻めるなんて、ひどい」

「ま、なるべく多く渡すから妹安心させてやりな」

「……うん。……ありがと」


 わずかに微笑むエレピピ。アルカイック・スマイルだな。


 さて、店のほうはいちおうこれでいい。

 いいけど、路面店をやるつもりで借りっぱなしなのだ。家賃だって払ってんだし、そっちの準備もしてさっさとオープンしなきゃ大損だ。

 とりあえず、売り物の相談をしにダルゴス大親方のところに顔を出そう。

 日本刀もそれっぽいのが完成したと言っていたしな。




 ◇◆◆◆◇




「ご無沙汰してました、大親方」

「おっ、おお、旦那! 元気そうじゃねぇか!」

「おかげ様で」


 屋敷から、数十分離れたところに建つダルゴス鍛冶店に顔を出す。

 大親方も元気そうだ。ルクラエラで会った時よりイキイキして見える。鍛冶仕事やり放題で精神的に若返ったのかもしれない。


「ナイフ見せてもらいましたよ。良い出来じゃないですか。さすがです」

「だろう! あんな細けぇ仕事はどうかとも思ったんだが、やってみたらおもしれぇのよ。次の試作品もできてるから、こっちも見てくれ」


 そう言って、グリップに動物の骨を使った少し大きめのフォールディングナイフを見せてくれる大親方。

 やはりナイフ作りは尊い。ドワーフをも虜にさせる魅力があるぜ。

 俺も久々に作りたくなってきたな。


「これも良い出来ですね。バネ式ですか」


 折り畳みのギミックに板バネが仕込まれている。

 ブレードを畳むとパチン!と小気味いい音が鳴った。


「そうだ。旦那に借りたやつと同じ細工で作ってみた。ただ、こっちはチト手間が掛かるな。一日2本も作れればいいとこか。ま、弟子どもが育てば、もうちっと生産力も上がるだろう」


 一日2本なら十分過ぎる。毎日金貨1枚くらいにはなるだろうからな。

 いや、大親方みたいな熟練の職人が作った品物で、一日金貨1枚じゃ少ない……のか? 金貨一枚は10万~15万円くらいの価値だし、店の儲けとしては小規模な鍛冶屋と考えれば妥当っちゃ妥当だが……。


「それで、あの例のやつはどうなりました?」

「おお、アレか! いくつか作ってみた。見てくれ」


 大親方が例のやつを持ってくる。


 鈍い地金の輝き。怪しくうねる刃紋。

 日本刀の試作品だ。


 拵えは試作品段階なのでまだなく、木片で仮止めしてあるだけだ。

 ハバキだけはすでに造られ取り付けられている。


 試作品のカタナは全部で3本。

 一般的な長さの打刀がふた振り。短刀がひと振りだ。


 短刀は反りのない片刃の直刀で、刃渡りは25センチ程度だろう。

 打刀はわずかに反りが入り、切っ先鋭く、刃紋は丁字乱れ。

 重量は見た目より軽く感じる。バランスがいいからだろう。


「こ……この出来で試作なんですか……?」


 どう見たって、モノホン! モノホンのポン刀!

 いくら本で教えたと言っても、それだけでこれだけのものが造れるものなのか。

 ドワーフマジパナイ!


「試作は試作だが、もちろん何回も失敗してるぞ。この三つは、その中で出来がいいやつなんだからな。……まあ、旦那が持ってきてくれた本があったから、だいたいの雰囲気はわかってたんで、そう厄介でもなかった。あのナイフと比べりゃ、こっちは元々の俺の領分の仕事に近いからな」


 それもそうか。

 俺からすると日本刀はファンタジーだが、ファンタジー世界であるこの世界では日本刀はリアルで、むしろフォールディングナイフのほうがファンタジーなのだ。


「素晴らしい出来ですよ。これなら確実に売れます」

「だろう。今まで考えたこともねぇような技術だ。刀身そのものを美しく見せるなんて発想もなかったしな。切れ味もいいし、あと問題は作るのに普通の剣の何倍も手間食うってことだけだが、これも慣れてくりゃどうにでもなるだろ」


 大親方も気に入っているようだ。

 これなら、なんだったら日本でも販売したいくらいだ。

 とっ捕まるだろうけど。


「あとは拵えですね」

「ああ、すでにビルのところに金物細工の仕事出してある。本を見る限り、拵えでもけっこう遊ぶんだろう? とりあえず作ってみるから、またしばらくしたら来てくれ」

「じゃあ、楽しみにしてますよ」


 異世界で日本刀が完成してしまった。

 いや、まだ完成とは言えないかもしれないが、これからどんどん進歩してガチの名刀がバカスカできるようになるのだろう。

 ついに俺も日本刀オーナーに……。なんとか日本で登録できないかなぁ。




 ◇◆◆◆◇




 さて。

 新店のほうは、いよいよこれから再準備してオープンに向けて始動というところ。

 まあ、商品はあるし、カタナだって売れそう。

 フォールディングナイフを売ってもいい。

 商品は十分だ。

 どうにかなるだろう。


「……じゃない。どうにかならない。ネトオクバレしちゃってたんだった」


 そうだ。

 掲示板経由で、俺がネトオクで異世界の商品を売りさばいてるのがバレてたんだった。

 まあ、そのおかげで夢幻さんとも知り合えたし、そろそろネトオクで稼ぐのも潮時かなとも思ってたってのも事実ではあるが――


「困ったな。他に稼ぐ手段が金買取りセンターぐらいしかねぇ」


 それか、地元のフリーマーケットで売るかだ。

 だが、ご存知の通り、フリマでは高いものは売れない。基本的には冷やかしばかりだからだ。


「それか、新しくネットオークションのアカウントを作りなおすか……」


 だが、俺が売っていた商品の傾向はバレている。

 遅かれ早かれ、同一人物だとバレてしまうだろう。

 フォールディングナイフや、日本刀の拵えでも売るか? 

 でも、あの手のは基本新品は買い叩かれる運命にあるからなぁ……。向こうで作る手間の割には儲からない商材だろう。

 日本刀を売れればかなり儲かるだろうが、あれを売るのは事実上不可能だ。


「う~ん……。ん?」


 部屋で唸っていると、携帯電話が鳴った。

 ディスプレイには『夢幻さん』の文字。


「はい、もしもし」

『おう、俺だ。その後、鏡はどうだ?』


 気楽な感じの声音の夢幻さん。

 同じ異世界を知る物同士だからか、かなり気安い関係になりつつある気がする。

 年の功というか、夢幻さんは穏やかな性格で話しやすいってのもある。


「おかげ様で、問題なく行き来できてますよ。ありがとうございました。……あ、そういえばお礼がまだでしたね。精霊石でいいんでしたっけ」

『ああ、まあそんな気を使わなくてもいいんだがな。精霊石はそう簡単には手に入らないだろう? いつでもいいよ。それより、前に掲示板にアップしてたプラチナがあるだろ』


 プラチナ……?

 ああ、ルクラエラで手に入れた石か。

 砂白金っていう、プラチナを含む原石なんだっけか。

 あれ、売る方法もなくて放置してたけど、夢幻さん欲しいのかな。


「あんなんでよければ譲りますよ」

『おっ、いいのか?』

「こっちは使い道ないですからね。そのままで綺麗な石ってわけでもないし」

『いや、礼として欲しいってわけじゃないんだ。どうせ持て余してるんだろうから、買い取ろうかと思ってな。相場より少し安く譲ってくれりゃあいい』


 え? 買ってくれるの?


「でも、それじゃあ……」

『プラチナがなんで高いかわかるか? 地球じゃあ希少だからだよ。たくさんあるなら、それを売ってくれるだけでも、俺にとっちゃ大儲けなのさ』

「そういうことなら、こっちは願ってもない申し出ですけども」

『じゃあ、今度またそっち行くから、その時にでも』

「了解です」


 そういうことになった。



 ◇◆◆◆◇




 後日、夢幻さんが黄色いランボルギーニ、カウンタックLP400に乗ってやってきた。

 今日は嫁抜きのお一人様である。


「なんたる派手さ……」


 街中で待ち合わせしてたから、注目の的だ。

 ひょっとするとバカなのかもしれない。


「よお、待ったか? ちょっとそこら流しながら話をしよう」

「え、ええ。って、これどうやって開けるんです?」

「ガルウイングを知らない……!? バカな……これがジェネレーションギャップというやつか……!」

「実際、年齢差すごいですからね」


 上に上げるのだと教えてもらって、グイーンと開く。

 なんたる派手さ。やっぱりバカなのかもしれない。

 通行人がほぼ全員見てるからね。


 想像以上にチープな内装のスーパーカーに乗り込む。

 ガオオオと下品なエキゾーストノートを奏でながら車は発進。

 あまりに注目されすぎて、居たたまれないほどだ。


「すごい車ですね。てか、何台も持ってるんですか。車」


 たしか、カウンタックって4桁万円くらいしたはず。

 前の車ランクルだって、数百万はするだろう。

 やはり伊達に長く生きてはいない。大金持ちなのかも。


「今は……何台だったかな。30くれぇだな。バイクも同じくらいあるぞ。好きなのか? 車」

「え、えっと……まあ」

「乗り物はいいよな。こっちの世界に来て、一番ウキウキしたのは乗り物がどんどん進化していったことだよ」

「向こうは馬が主体ですもんね」

「馬は馬でいいけどな。新しもん好きなんだよ、俺」


 ランクル60もカウンタックも新しいものではないと思うが、150年こっちにいる夢幻さんからすると、十分新しいものなんだろう。

 いや、偶然古い車で来てるだけで、新しい車だって持っているのかもしれないが。


「夏になったらクルーザーで遊ぶから一緒にどうよ」

「クルーザーって、あの加○雄三とかが持ってるようなやつ……?」

「そうそう」

「お邪魔でなければ、ご一緒させていただきます!」


 クルーザーって、個人で所有するのものすごくお金掛かるんじゃなかったっけ……?

 なんか想像してたよりも、金持ちの度合いが高いぞ。


「山梨なんかに住んでると、どっか行くにも不便でな。こないだジェット買ったんだが、乗りに行くまでが遠いんだ。なんせ日本でまだ認可されてねぇし。ジェットどうだ? よかったら一緒に」

「ジェットって……?」

「ホンダが新しく出しただろ、個人向けの」

「あ……あれ買ったんですか?」

「買った。ってもアメリカの別荘に置いてあるんだがな」


 やべぇ。

 億万長者なんてレベルじゃねぇぞ。どうなってんだ。


「あの……夢幻さんってなにしてるんですか? えっと、仕事?」


 疑問形になってしまった。

 戸籍とかどうなってんのか不明なんですけど、どうなってんだ。


「ん~……なんて説明したらいいかな。今はこれといって仕事はしてないんだよ、孫たちの仕事を手伝ったり、資産運用したり、そんなもんだよ」

「孫?」

「ああ、大昔のことさ。養子をたくさんとって家族を作ったのさ。今では、玄孫やしゃごやら来孫らいそんやらで、けっこうな人数なのさ。みんな、立派に事業やってるよ」


 さすがに150年もの間、嫁と二人っきりで暮らしてきたというわけではなかったらしい。

 まあそりゃそうだ。大きい戦争だってあったし、今よりもずっと戸籍だなんだが緩かった時代のはずだ。150年前がどういう時代なのかイマイチよくわからないが、もしかしたら戸籍だってちゃんと登録できた可能性すらある。

 いや、そうだとしたら書類上何歳だよって話だが、どっかのタイミングで死んだことにすればいいのだしな。


「まあ、そんなわけでプラチナの買い取り金額くらい、俺からすれば全然端金だから、気にしなくてもいいぞ」

「気にしてたわけでもないですが……。はい。気にしないことにします。実は、ネトオクで商品売ってるのバレて、現金収入どうしようか悩んでたとこだったんで、本当に助かります」

「はっはは。ま、金のことなら心配すんな。精霊石だったら一億で買ってやるぞ」

「ま……マジで……」


 夢幻さんは笑って言うが、どうやら担がれているわけでもなさそう。


 こうして、その日はドライブしてレストランでランチをゴチになって、プラチナを500万で買い取ってもらって(完全にドンブリ勘定だった)、家に帰ってきた。

 見たこともないような札束に、頭がクラクラする。

 500万円あれば、少なくとも2年は安泰だろう。

 というか……、


「本気なのか……?」


 精霊石なら一億で買ってくれるという話。

 いや、マジだろう。

 精霊石は奇跡の石。

 それを使えるエルフもいる。


「マジか……マジか……」


 布団の上で七転八倒して悶える。

 ついに、お金の心配をしなくてもよくなるのかもしれない。




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