「どうしたんだい?リリィ」
「ちょっと待ってくださいね」
カットしてもらっていて良かった。
食パンを一枚出して、そこに焼きサバを置く。レタスは――洗わなきゃ。
水を貰いたいけど、立ち上がれない。馬鹿だなぁ、私……。
モタモタしていると、ジークフリートが察してくれた。
「レタス、洗いたいのかな?」
「そうなんです……水を貰ってきてもらえますか?」
「いいけど、もっと早い手がある」
にこにこして、ジークフリートがレタスを受け取ると、花壇に向かって弱い水を降らす。
――ミシミシ。
この音はさっきからなんだろう……。
「はい、洗えたよ」
「ありがとうございます」
アーマードベアのトドメは氷魔法だったし、ジークフリートは水系が得意なのかな。
綺麗になったレタスを二枚ほど剥くと、パンと焼きサバの上に置く。
籠から更にマヨネーズの瓶を出すと、レタスの上に少しこぼした。
あとは、アイテムボックスの中に自作のホットサンドメーカーがあるんだけどなぁ。出したら少し目立つかもしれない。
「サンドイッチかな?」
尋ねてきたジークフリートはもう二本の焼きサバを食べ終えていた。
あとの七本は、まだ屋台でじっくり焼かれている。
誰にも見とがめられない速度で、私は太ももから小型ナイフを抜き取った。
マヨネーズをパンの内側にナイフで広げて、食パンで閉じる。マヨネーズを拭き取ったナイフで、焼きサバを挟んだサンドを半分にカットした。
食べかけた断面がどちらかは把握しているので、そちら側じゃない方をジークフリートに勧めた。
「良かったらどうぞ、召し上がってください。食べかけはこちらが取りましたので」
「良いのかい?」
「ジークが嫌じゃなきゃ、どうぞ」
返事をするように、ジークフリートのお腹がまた鳴った。どっと笑いがおこる。
屋台の主人が「もう少し待っててくれよ」と声をかけるも、腹の虫は止まらない。
――今だ。
籠から出すように――ジークフリートのマントに隠れてホットサンドメーカーを取り出した。
「おいしい、醤油だれがこんなにマヨネーズと合うなんて」
甘さを足せばテリヤキソースなわけで。好きな人は多いよね、テリヤキソース。
ジークフリートの何が凄いって、とても美味しそうに食べるところ。
笑顔でサンドを咀嚼する姿に、通りすがりが「それどこで売ってるんだい?」と聞く始末。
それくらい、幸せそうな笑顔で食べている。見ている人は釣られて微笑んでいるくらいだ。
屋台の人が、皿にまとめて焼いたサバを持ってきたので、ジークフリートに聞いてみた。
「もう一つアレンジしたサバ食べてみます?」
「まだあるの?」
「トマトやチーズは大丈夫です?」
「なんでも大好きだよ」
きらきらお目めが凄い。
パンを出して、マヨネーズを塗ると完熟トマトを空中でスライスする。
程よくトマトを置いて、レタスと焼きサバを乗せると、籠から出したスライスチーズを乗せて挟む。
それをホットサンドメーカーにセットして、サバを焼いている屋台の熱を許可を貰ってじんわりと焼いた。
「お嬢さん、それはなんだね?」
「パンに挟んで焼くんです。おいしいですよ」
「どうだろ、最後のサバでこれ作ってもらえねぇかな。代金は出すから」
「いいですよ。簡単なので」
ホットサンドにおいて、焼きすぎはダメだ。今回の具材では、チーズさえ溶ければオッケーだし、できればトマトは生のおいしさを出したい。
ホットサンドメーカーを開けると、焼き加減絶妙なパンの匂いがして、ジークフリートの食べっぷりに足が止まっていた人達がおおっと騒ぐ。
……ええと、知らない間に人目が集まってる?
「熱いですからね、気をつけて」
日本だとアルミホイルの出番なんだけど、さすがにここには無い。
食べやすいように、半分にカットするとチーズがとろりと溶け出てきた。
「美味しそうだね、いただきます」
あまり熱がらずに、ジークフリートは、はふはふとトマトと焼きサバとチーズのホットサンドに食いついた。
「うまーい」
良かった、口にあったみたい。
「チーズとサバがこんなに合うなんて!トマトであっさりするのに、チーズのコクとサバの脂でボリュームが出るね。パンもサクサクになって、断然食べがいがある」
屋台の人が私を呼んだので、出来上がった焼きサバをもう一度、ホットサンドメーカーで同じように作る。
他の人も、期待に満ちた目を向けてきたけど、もうパンがない。
そもそも買いすぎたかな?という一斤の食パンはこうして消えてしまった。
「お嬢さん、そのホットサンドメーカーとやらを売ってくれないか?」
え?売る……?
それは考えても見なかった。作りは簡単だから鍛冶屋さんならすぐ作れるだろうけど。
「まぁまぁおちついて」
残りの焼きサバを凄い勢いで食べながら、ジークフリートが立ち上がる。
その手が私の肩に触れる寸前。
――パリン
アシュバーンが掛けてくれた、変装魔法が音を立てて砕け散り、私の深紅の髪が露わになった。